9 / 137
第一章
一石二鳥
しおりを挟む
ダナイはリリアを肩に乗せ、イーゴリの街へと急いで戻っていた。
「ごめんね、ダナイ。魔力が枯渇していなければ自分で歩けたのに……」
「良いってことよ」
ブラックベアとの戦いで魔力とやらを使い果たしたリリアは自力で歩くことができないくらいに疲弊していた。魔力ポーションという魔力を回復するポーションも戦闘中に全て使ってしまったらしい。
始めはリリアを背負うつもりだったのだが、それではリリアが持っていた荷物が背負えない。そこでダナイはリリアを肩の上に座らせることにしたのだった。
ダナイは軽々とリリアを持ち上げた。リリアは「さすがはドワーフね」と感心していたのだが、ダナイの方は羽のように軽いリリアを「ちゃんとご飯を食べているのだろうか?」と一人心配していた。
「ブラックベアに遭遇するとは、運がなかったな」
「確かにそうね。でも、運が良かったとも言えるわ」
リリアはつかまっているダナイの頭の毛並みをモフモフと撫でた。くすぐったさに顔を見上げると、リリアはその美しい顔をだらしなく崩していた。見てはならないものを見てしまったと、ダナイはすぐに前を向いた。
「リリアは一人で森に入ったのか?」
「いいえ、私の他に三人の仲間がいたわ。でも勘違いしないで。ブラックベアが現れたときに私が三人を逃がしたのよ。四人の中で私が一番冒険者ランクが高かったからね」
ダナイは黙り込んだ。四人揃っていても勝てないと判断したのだろう。それでリリアは三人の命を救う選択をした。しかし、ダナイはそれが分かっても納得はできなかった。
「私には魔法があるから、他の誰よりも時間稼ぎには向いていたのよ」
ダナイの不機嫌を感じ取ったのか、リリアは言い訳するかのように言った。明らかにしぼんでいったリリアの声色に、ダナイはこの話題にはこれ以上触れないことに決めた。
「魔法? じゃあ、あの氷柱はリリアの魔法だったのか? 魔法を使ったから魔力が無くなっちまったのか」
「そうよ。魔法は初めてかしら?」
「あ、ああ、初めてだ」
ダナイは完全に面食らっていた。まさかこの世界に魔法があるとは。妙な世界だとは思っていたが、まさか魔術が存在する世界だとは思ってもみなかったのだ。そして、急に興味がムクムクと湧いてきた。
「魔術で怪我は治せないのか?」
ダナイが見上げると、リリアの青い瞳と目が合った。そして小さく首を振った。
「魔術じゃなくて、魔法よ。怪我を治す魔法は存在しないわ」
「そ、そうなのか。何でも魔法でできるわけじゃないんだな」
動揺しながらダナイは目を逸らした。あの目を見るだけで何故か胸が高鳴っている自分がいた。長い間忘れていた感情を思い出し「俺ももういい年なのに」と内心苦笑いした。自分はもうアラフィフだ。リリアのような若い女性とは釣り合わない。そう思うと胸の奥がチクリと痛んだ。
「魔法が使えるのはエルフの特権だからね。ドワーフでも使える人がいるって聞いたことがあるけど、その様子だとダナイは使えないみたいね」
「ドワーフでも使える!? それじゃ俺も練習すれば魔法を使えるようになる可能性があるって言うのかい?」
ダナイは興奮して答えた。まるで新しい玩具を買ってもらった子供のようだな、と思いつつも、興味を持たずにはいられなかった。そんなダナイに対して、リリアは優しい眼差しを向けた。
「可能性は十分にあると思うわ。良かったら、助けてくれたお礼に魔法を教えてあげましょうか?」
「ありがてえ! ぜひ、頼む!」
ダナイの頭の中にあった聖剣を作る目的は、今は頭の片隅に追いやられていた。リリアとまた会える約束と取り付けた上に、魔法まで教えてもらえるのだ。まさに一石二鳥。興奮せずにはいられなかった。
リリアもリリアで思うところがあったようであり、そのまま二人は楽しい会話を続けながら街へと戻って行った。
「ごめんね、ダナイ。魔力が枯渇していなければ自分で歩けたのに……」
「良いってことよ」
ブラックベアとの戦いで魔力とやらを使い果たしたリリアは自力で歩くことができないくらいに疲弊していた。魔力ポーションという魔力を回復するポーションも戦闘中に全て使ってしまったらしい。
始めはリリアを背負うつもりだったのだが、それではリリアが持っていた荷物が背負えない。そこでダナイはリリアを肩の上に座らせることにしたのだった。
ダナイは軽々とリリアを持ち上げた。リリアは「さすがはドワーフね」と感心していたのだが、ダナイの方は羽のように軽いリリアを「ちゃんとご飯を食べているのだろうか?」と一人心配していた。
「ブラックベアに遭遇するとは、運がなかったな」
「確かにそうね。でも、運が良かったとも言えるわ」
リリアはつかまっているダナイの頭の毛並みをモフモフと撫でた。くすぐったさに顔を見上げると、リリアはその美しい顔をだらしなく崩していた。見てはならないものを見てしまったと、ダナイはすぐに前を向いた。
「リリアは一人で森に入ったのか?」
「いいえ、私の他に三人の仲間がいたわ。でも勘違いしないで。ブラックベアが現れたときに私が三人を逃がしたのよ。四人の中で私が一番冒険者ランクが高かったからね」
ダナイは黙り込んだ。四人揃っていても勝てないと判断したのだろう。それでリリアは三人の命を救う選択をした。しかし、ダナイはそれが分かっても納得はできなかった。
「私には魔法があるから、他の誰よりも時間稼ぎには向いていたのよ」
ダナイの不機嫌を感じ取ったのか、リリアは言い訳するかのように言った。明らかにしぼんでいったリリアの声色に、ダナイはこの話題にはこれ以上触れないことに決めた。
「魔法? じゃあ、あの氷柱はリリアの魔法だったのか? 魔法を使ったから魔力が無くなっちまったのか」
「そうよ。魔法は初めてかしら?」
「あ、ああ、初めてだ」
ダナイは完全に面食らっていた。まさかこの世界に魔法があるとは。妙な世界だとは思っていたが、まさか魔術が存在する世界だとは思ってもみなかったのだ。そして、急に興味がムクムクと湧いてきた。
「魔術で怪我は治せないのか?」
ダナイが見上げると、リリアの青い瞳と目が合った。そして小さく首を振った。
「魔術じゃなくて、魔法よ。怪我を治す魔法は存在しないわ」
「そ、そうなのか。何でも魔法でできるわけじゃないんだな」
動揺しながらダナイは目を逸らした。あの目を見るだけで何故か胸が高鳴っている自分がいた。長い間忘れていた感情を思い出し「俺ももういい年なのに」と内心苦笑いした。自分はもうアラフィフだ。リリアのような若い女性とは釣り合わない。そう思うと胸の奥がチクリと痛んだ。
「魔法が使えるのはエルフの特権だからね。ドワーフでも使える人がいるって聞いたことがあるけど、その様子だとダナイは使えないみたいね」
「ドワーフでも使える!? それじゃ俺も練習すれば魔法を使えるようになる可能性があるって言うのかい?」
ダナイは興奮して答えた。まるで新しい玩具を買ってもらった子供のようだな、と思いつつも、興味を持たずにはいられなかった。そんなダナイに対して、リリアは優しい眼差しを向けた。
「可能性は十分にあると思うわ。良かったら、助けてくれたお礼に魔法を教えてあげましょうか?」
「ありがてえ! ぜひ、頼む!」
ダナイの頭の中にあった聖剣を作る目的は、今は頭の片隅に追いやられていた。リリアとまた会える約束と取り付けた上に、魔法まで教えてもらえるのだ。まさに一石二鳥。興奮せずにはいられなかった。
リリアもリリアで思うところがあったようであり、そのまま二人は楽しい会話を続けながら街へと戻って行った。
0
あなたにおすすめの小説
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる