伝説の鍛冶屋ダナイ~聖剣を作るように頼まれて転生したらガチムチドワーフでした~

えながゆうき

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第五章

魔導船

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 大森林へと足を踏み入れてどれほどの時間がたったのだろうか。周囲は木々が頭上まで覆いかぶさっており、日の光はほとんど見えない。わずかに枝葉の間から見える光が、そろそろ日が暮れることを静かに告げていた。

「今日はこの辺りにしておこう。初日から無理しても、特に何か良いことがあるわけでもないからな」
「そうね。そろそろ日が暮れるみたいだし、今日はここまでにしましょう」

 リリアの言葉を受けて、すぐに野営の準備が始まった。とは言っても、薪はイーゴリの街で買い込んでいるため、夕飯を作るための鍋などを並べるだけである。
 俺がサクッと土魔法でかまどを作ると、すぐに夕飯の支度が始まった。街で購入したメインディッシュを暖め、その間に野菜たっぷりのスープを作った。

 この辺りは手つかずの自然が残っており、そのため自然の恵みも多かった。よって山菜類には事欠かなかった。一部キノコが混じっているが、大丈夫なのだろうか?
 森の民であるエルフのリリアが採ってきたものだから問題ないと思うのだが……。俺なら怖くてとても手がだせそうにないな。

 ぐつぐつとスープができあがり、みんなでたき火を囲んだ。マジックバッグのお陰で熱々のご飯がすぐに出てくるのは非常にありがたい。これがあるだけで、兵たんはとても楽になることだろう。

 それだけにうかつには外に出せない代物だと思った。マジックバッグを使えば戦争を有利に進めることができる。それだけにマジックバッグは戦争の火種になりかねない。今後はめったなことでは作らないようにしないとな。

「今日歩いている感じ、同じような景色が続いてるんだけど、本当に大丈夫?」

 肉をかじりながら少し不安そうにマリアが聞いてきた。もっともな意見だと思う。俺も道案内がなければ不安に思っていただろう。

「大丈夫よ。マリアには似たような景色に見えるかも知れないけど、しっかりと違うところを進んでいるわ」
「そう? ならいいんだけど」

 それ以上は何も言わずにスープを飲み始めた。久しぶりの野営で不安になっているのかも知れない。そんなマリアに気がついたのか、そっとアベルがマリアの隣に寄り添っていた。
 俺もリリアに……と思ったら、リリアの方がこちらへと寄って来た。何だか顔が赤い気がするが、たき火のせいだよな?

 食事が終わるとすぐに「マリアの秘密基地」へと移動した。全員が中に入ったのを確認して、かまどを土に戻し、たき火の火を消した。火事になったら困るからな。
 火を消した瞬間、辺りを真っ暗な闇が包み込んだ。木々の間から月は見えなかった。背筋に寒いものを感じ、すぐに基地の中に入った。

「それじゃ、特にすることもないし、風呂に入ってから寝るとするか」

 何事もなかったかのように言ったが、暗い森があれほど恐ろしいものだとは思わなかった。

「そうね。お風呂を沸かしてくるわ」

 そう言ってリリアが風呂場へと向かう。居間ではおなかを満たしたアベルとマリアが満足そうにくつろいでいた。うーんでも、何だか心なしか顔色が赤い気がする。

「四人でお風呂に入るってどんな感じなのかなー?」

 さも当然とばかりにマリアが言った。その言葉に挙動不審になる男二人。

「え? マリア、本気で四人一緒に入るつもりなの?」
「そうだよ。そのために大きなお風呂にしてあるんだよね」

 グリンとマリアがこちらに顔を向けた。確かにマリアの注文通り、四人でも入れるサイズの風呂にはしたが、あまり本気にはしていなかった。しかし、マリアは本気のようである。
 今さらNOとは言えず、とりあえず肯定のうなずきを返しておいた。アベルは「まじか」って顔をしている。ひょっとしてリリアとマリアの顔が赤いのはこのせいなのか?
 意識し始めたのか、アベルの顔も赤くなっている。

 そうこうしているうちにお風呂は沸いたらしい。さすがはリリアの魔法。あっという間にお湯ができあがったみたいである。

「ダナイ、お風呂に入るわよ。準備しなさい。マリアたちも一緒に入るのよね?」
「もちろん!」

 元気良くマリアが答えた。男連中は逆らうことなくその指示にしたがった。
 マリアの胸は控えめだったが良くできていた。アベルがリリアの胸を見て完全に硬直して棒立ちしていたが、まあ家族だし、ヨシとしておこう。


 その後も俺たちは特に問題もなく、順調に大森林を進んでいた。もう一週間ともなれば、さすがにお風呂も慣れていた。たとえ目の前にマリアの全裸があったとしても落ち着いたものである。

「マリア、お前には恥じらいというものがないのか」
「いいじゃない、減るものでもないし」

 そう言いながら腰に手を置いた。いや、ドヤ顔されても困るんですけど。ほら、アベルを見ろ。複雑そうな顔をしているぞ。

「ずっと気になってたんだけど、一体何を取りに行ってるの?」

 居心地悪そうにしていたアベルが尋ねてきた。明日には目的地に到着するはずだ。そろそろ話しても大丈夫だろう。

「古代エルフの遺跡に魔導船を取りに来たんだよ」
「魔導船?」

 マリアが首をかしげた。それはいいから早く湯船につかれ。見かねたリリアがマリアを湯船に沈めた。アベルは見てはならないと思ったのか、ブルンブルン揺れるリリアの胸から目をそらした。
 アベルは本当に紳士だな。ガン見していた俺とは大違いだ。

「魔導船って言うのはな、簡単に言うと空飛ぶ船だ」
「空飛ぶ船! そんなものがあるの!?」

 マリアが湯船から飛び出して俺の方へと迫った。うーん、俺にも娘がいたらこんな感じになるのかな? こら! とか言いながらリリアがマリアをなだめている。完全にオカンだな。

「どうやら、そんなものがあるらしい。必要な素材を取りに行くのにどうしても魔導船が必要なんで取りにきたわけさ」
「空飛ぶ船が必要って……海でも渡るの?」
「鋭いなアベル。その通りさ。ちょっと海を渡る必要があってな。そんなに遠くまで行く必要はないとは思っているけどな」

 さすがはアベル。マリアと違って鋭いな。冷静に空飛ぶ船が必要な理由を考察して、正解を導き出すとは。剣の腕前だけでなく、頭も良いみたいである。

「魔導船かー、どんな形なのかな」
「それは行ってみるまでのお楽しみね。予定通りに行けば、明日には目的地に到着するはずよ」

 その後はワイワイと魔導船の話で盛り上がった。そして翌日、俺たちは予定通りに魔導船が眠る遺跡までやって来た。
 そこには円柱状の遺構がわずかに頭を出しているだけの小さな丘だった。

 遺構に近づいてみると、扉がある。どうやらここから中に入ることができるらしい。力尽くで扉を開こうとしたが、ビクともしなかった。

「鍵穴は見当たらないけど、鍵が必要なのかな?」

 みんなで周囲を探索するが、特にそれらしきものは見つからなかった。あると言えば、タッチパネルのようなものがあるだけだった。まさかな。
 ツルツルとした肌触りのそれに触れてみたが、特に変わりはなかった。

「ここだけ平らな石がはまっているけど、これが気になるのかしら?」

 俺の様子に気がついたリリアが近寄ってそれを確認している。パッと調べたところ、どうやら特定のパターンの魔力を流すことで扉が開く構造になっているようだ。
 俺はその魔力のパターンを再現すると、慎重にタッチパネルのようなものに魔力を流し込んだ。

 石が淡い光を放つと、扉が左右にスライドした。まるで自動ドアのようである。古代エルフはどうやら相当高い文明を持っていたようである。もし今の時代まで続いていたら、星の外へと飛び出していたのかも知れない。

「なに、なに!? 何でいきなり扉が開いたの?」

 焦ったマリアが答えを求めてこちらを見てきた。やばい、どうしよう。慌ててマリアから視線をそらす。

「お母様の言っていた通りだわ。魔力を流すことで扉が開く仕組みになっていたのね」
「そうだったんだ。ねぇねぇ、中に入ろうよ~」

 何とかリリアのお陰で事なきを得たようだ。リリア様々だな。そう思っていると、リリアがこちらへと顔を近づけてきた。

「ダナイ、何かする前に、必ず私に一言いうこと。いいわね?」
「了解です」

 とても静かで、闇の中から這い出てくるような声だった。
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