悪役令嬢役を頼まれたので頑張ってはいるものの、何だか雲行きが怪しいですわ

えながゆうき

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波乱の幕開け

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 学園の入学式に行く準備が整ったので、屋敷の前で待たせてある馬車へと向かう。そこにはすでにルークとローレンツが待っていた。

「お待たせいたしましたわ」
「イザベラ、学園の制服、良く似合っているよ」
「何でも着こなすことができるなんて、さすがは師匠!」

 何度も注意したのだがローレンツの師匠呼びは直ることがなかった。ローレンツいわく、勝手に口から師匠と言う言葉が出てしまうらしい。さすが脳筋。どんな言い訳だ。
 そんな微妙な気持ちになりながら、私たちは馬車へと乗り込んだ。
 
 王立学園は王都の一等地に建てられている。それだけ国が、この王立学園を大事にしているということでもあるし、この学園から卒業する生徒たちの将来に期待していることが分かる。

 王都に屋敷を持っている人たちは実家から通うことができるが、当然、そうでない生徒たちもいる。そのため、王立学園には豪華な学生寮が完備してあった。そのため、入学試験に通ることさえできれば、平民だろうが貴族であろうが分け隔てなく平等に学ぶことができるのだ。

 だが、いくら平等に学ぶことができるとはいえ、貴族と平民では入学試験の内容に大きな差がある。
 簡単に言ってしまえば、貴族には貴族専用の枠が設けてあり、高位貴族であれば試験なしで入学することができるのだ。

 一方、そうでない人たちは本当に厳しい入学試験を受けることになる。平民として入学する生徒たちは本当の意味でエリートなのである。
 平民にとっては一発逆転のチャンス。そのため多くの平民が入学試験に挑戦し、実際に入学できるのはほんの一握りなのである。

 そんな狭き門をくぐり抜けて、ヒロインのソフィアと攻略対象のレオナールは王立学園へと入学してくるのだ。本当にすごくて、優秀な二人なのだ。

「イザベラ、もしかして、緊張しているのかい?」
「当然ですわ。初めての学校ですのよ。緊張しないはずがありませんわ」

 ルークが驚いた様子で聞いてきた。何てやつだ。前世では虚弱体質であったため、まともに学校に行ったことがないのだ。
 今回が前世も含めて初めてのまともな学校生活。緊張するに決まっている。ドキドキの一年生なのだ。いじめられたどうしよう。

「大丈夫ですよ、師匠。師匠にあだをなすような不届き者がいれば、師匠が手を下すまでもなく私が制裁しますから」
「やめなさい」

 ローレンツならマジでやりかねない。ここでしっかりと止めて置かないと何を仕出かすか分からない。体育館の裏に呼び出すだなんてことを普通にやりかねない。
 そうなれば、ローレンツの親玉である私も同類だと見なされることになるだろう。おお、怖い。

「ローレンツ、私では目が届かないところもあるからね。しっかりと護衛を頼むよ」
「かしこまりっ!」

 胸に手を当て、実に良い返事をするローレンツ。
 煽るな、ルークよ。ああ、朝から頭が痛いわ。


 軽い頭痛を感じている間も馬車は進んでおり、無事に王立学園へとたどり着いたようである。周囲が段々と騒がしくなってきた。
 ガタン、と馬車が音を立てて止まると、一呼吸おいて馬車の扉が開かれた。

 そこには一面の馬車があった。そこかしこから馬の息づかいが聞こえてきそうな、圧巻の光景である。使用人とローレンツが周囲の状況を確認すると、ルークに連れられて馬車を降りた。

「わあ、すごい!」

 生で見る王立学園は想像以上の荘厳さを放っていた。イラストで見たものよりもずっと素晴らしい。思わず歓声の声を上げてしまった。
 ボケーっと見ていると、ユリウスの声が聞こえてきた。

「イザベラ様!」
「ユリウス! あら、似合っているわよ、その女性用の制服姿」

 眼福、眼福。ゲームでは見ることができなかった、ユリウスの女性用の制服姿に、思わず口角が上がる。

「本当ですか!? 正直、ちょっとまだ恥ずかしかったりするんですよね……」
「大丈夫よ。本当に良く似合っているわ。自信を持ちなさい!」

 ユリウスを励ますべく、軽く背中をたたいた。ユリウスがほほを赤らめて私の方を見る。
 うん。実に可愛い恋する乙女だ。
 ……これって、百合フラグを立ててしまっているわよね、やっぱり。あんまり考えないようにしてたんだけど、そろそろ戦わないといけないのかも知れない。現実と。

 ユリウスとじゃれ合っていると、フィル王子が向こうからやってきた。左右に騎士を連れている。
 王立学園は比較的安全とは言え、確実ではない。そのため、ユリウス以外の護衛も連れているのだろう。

 それにユリウスも授業を受けるのだ。護衛の任務だけでなく他にもやらなければならないことがあるため、その処置でもあるのだろう。
 それにしても制服の王子様、まぶしすぎない? イラストじゃなくて生だからかしら。

「おはようイザベラ。今日から毎日顔を合わせることができるだなんて、夢みたいだよ。この日が来るのをどれだけ待っていたか」

 フィル王子は王子スマイルを使った。効果はバツグンだ。
 子供の頃のフィル王子なら「あら可愛い」で済んだのだが、さすがにこの年になると、破壊力がマジ半端ない。

「わ、私もですわ。フィル王子」

 腰が砕けそうになるのをグッと我慢する。そんな私をよそに、フィル王子はどんどん私との距離を詰めてきた。

「うん。その制服も良く似合っているよ」

 まずい! その笑顔を至近距離で受けてしまうと……。
 グラついた私の体をスッとユリウスが支えた。どうやらユリウスは王子スマイルにはもう慣れっこのようである。
 同じくらいの至近距離で王子スマイルを受けたはずなのに、平然としている。
 
 あちらのご令嬢を見よ。倒れていらっしゃるではないか。
 こうして私の学園生活は波乱の幕開けとなったのである。
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