奴隷の少女がどうやら伯爵令嬢みたいです

えながゆうき

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近況報告

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 案内された部屋には、隣の大陸から輸入されたと思われる豪華な調度品がいくつも飾ってあった。朱色の壺や、白地に金の唐草模様が施されている、品の良い食器が並んでいる。飴色のテーブルは艶やかに磨かれており、天井のシャンデリアを映し出していた。

 どう見ても冒険者無勢が案内されていいような部屋ではなかった。案内されたソファーに座ると、柔らかい感触とともに体が沈んだ。

「それにしても驚いたよ。前触れの手紙くらいは来るかと思っていたのだが」

 伯爵が苦笑した。普通はそうだろう。やはり直接来たのはまずかった。
 パメラの実家の緊急事態だと思って急いで来てみたが、どうやらそうでもないようだ。ちょっと焦りすぎたらしい。これはしまったと思わず俺も苦笑する。

「申し訳ありません。とんだ無礼を働いてしまって……」
「エル様のせいではありませんわ。私がエル様に直接行っても大丈夫だと進言したのです。怒られるのなら私ですわ!」

 俺の隣に静かに座っていたパメラが急に身を乗り出した。そんなパメラを見て伯爵夫人が再び目を大きく見開いている。

 たぶん、こんなことをするような子じゃなかったんだろうなぁ。淑女として育てたのに、短期間俺のところにいただけで、こんなにワイルドで積極的な子になってしまった。本当に申し訳ないと思っている。
 でも、当初に比べるとずいぶんと明るくなったし、なにより楽しそう何だよね。

「落ち着きなさい、パメラ。私は怒ってはいないし、怒るつもりもない。ただこれほど早く来るのが予想外だったと言うだけだ。出迎えの準備ができなかったぞ」

 ハッハッハと笑う伯爵。そんな伯爵に対してパメラはばつが悪そうにうつむいて言った。

「それは申し訳ありませんでしたわ。エル様の空間移動の魔法であっという間にすぐ近くまで来ましたから、そこでエル様をお待たせするのもどうかと思いまして……」
「……なんだって?」

 おっとまずい。空間移動の魔法を使える人はこちらの大陸では希少な存在だったな。伯爵の困惑するような声にパメラの動きが止まった。そして古くなった扉のようにギギギと音を立てそうな様子でこちらをゆっくりと振り向いた。
 その姿を見て思わず苦笑した。

「ライネック伯爵令嬢が気にすることはありませんよ。私がそうしたいと思って魔法を使っただけですから」
「エルネスト殿、私たちはそのことをだれにも話すつもりはないよ」

 蝋人形のようにピタリと動きが止まったパメラを見かねたのか、伯爵が助け船をだした。伯爵夫人も静かに首肯している。

「パメラ」

 ポツリとパメラがつぶやいた。

「え?」
「パメラ、ですわ、エル様。つい先ほどまでそう呼んで下さっていたでしょう?」

 パメラがその美しい柳眉を逆立てて、語気を強くして言った。パメラの顔が近い。パメラの拳二つ分くらいの距離だ。「まあ」とさすがに伯爵夫人の声が上がった。まずいよね、この状況。どうしよう……。

 そのときオッホンとわざとらしい咳が聞こえた。ハッと我に返ったパメラはしずしずとソファーに座った。だがしかし、先ほどとは違い、俺にピッタリと寄り添った状態である。
 それを見た伯爵はさすがに苦笑いをしている。

「先ほどの門の前で聞いた話を詳しく聞かせていただきたい。聞き慣れない単語が聞こえたのだが……確か召喚獣とか、白虎とか、フェンリル、とか」

 そう言って伯爵はソファーの隣、組み木で作られたピカピカの床に寝そべっている、猫にしか見えないシロと、大型犬にしか見えないオルトをチラリと見た。それをオルトが片目を開けて見返すとノッソリと立ち上がり伯爵夫妻を見た。

「ひっ」

 伯爵夫人が隣に座っている伯爵にしがみついた。豊かな胸部がぐにゅりと歪んでいる。一瞬だけ伯爵の表情が緩んだが、すぐに引き締まった緊張した顔つきになった。
 たぶん俺じゃなきゃ見逃していただろう。それほどの一瞬の出来事だった。

「オルト、私の両親ですよ。そんなににらんではいけません」

 めっ、とパメラに叱られたオルトの耳と尻尾がベッタリと垂れ下がった。どう見てもただの犬じゃん。

「申し訳ありません。我が主の両親に良いところを見せようと思いまして……」
「あら、そうだったのですね。オルトは十分に可愛いからそのままでも大丈夫ですよ」

 パメラはニッコリとオルトに微笑みを投げかけた。

「はあ……」

 不本意そうなオルトの声が聞こえる。きっと「可愛い」じゃなくて「かっこいい」ところを見せたかったんだと思うぞ、パメラ。

「しゃ……」
「しゃ?」
「しゃべったー!」

 二人が同時に叫び声を上げる。うっかりしていた。召喚獣を見るのは初めてだったか。俺は伯爵夫妻に召喚獣のことを話し、ついでにパメラの魔法適正についても話した。

 二人は大層驚き、そしてそれと同じくらいに喜んだ。パメラが一つの属性しか使えないことにずっと心を痛めていたらしい。特に母親の方が。見た目は自分にそっくりなのに、魔法の適性を与えることができなかったと。

 だがそれが間違っていたどころか、上位属性の使い手だということが分かり、涙を流してパメラに抱きついていた。そしてそのままの勢いで俺にも「ありがとう」と抱きついてきた。
 パメラよりもさらに大きな柔らかいスライムのようなものが胸に当たる。心地良い涼やかな香りが漂ってきた。これは伯爵の表情が緩むのも仕方がない。

 パメラは張りのある弾力だったが、夫人は包み込むような弾力だ。同じように見えても、個性が違うものなのだなと感心していると、ベリッとパメラが俺と夫人を引き剥がした。そしてキッと母親をにらんだ。

 え? もしかして嫉妬? 自分の母親に? 困惑してパメラを見ると、明らかに不機嫌な顔つきになっている。唇は尖っており、ほほも若干膨らんでいる。そしてなにより、目がつり上がっている。さっきよりも明らかに怒っていらっしゃる!

「エル様、なんて顔をしているのですか!」

 そのままの表情で、今度はこちらをにらんだ。

「え?」
「ご主人様、すごいだらしない顔をしてたよ、今」

 俺がどんな顔をしていたのかをシロが親切にも教えてくれた。まずい、顔に出ちゃってました?
 急にしゃべり出したシロを「まあ、猫ちゃんも話せるの!?」と伯爵夫人が驚いて抱き上げた。豊かな胸に抱かれたシロの顔が溶け出しそうな表情に変わる。……なるほど、あんな顔になっていたのか。

 気まずい表情でパメラを見た。そのままパメラは何を思ったのか俺にしがみついてきた。もちろん胸を存分に俺の胸に押しつけてきている。

「まあまあ!」

 と伯爵夫人が声を上げた。伯爵はあきれた表情でこちらを見ている。だが、止めはしないようである。

 ……これは両親に公認されたと思ってもいいのかな? なおもギュウギュウと体を押しつけてくるパメラの頭と背中を撫でながら、何となく外堀を固められているような、そんな気持ちになった。

「ご主人様、すごいだらしない顔になってるよ、今」

 しゃあないっしょ。気持ちいいんだから。
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