8 / 26
5
しおりを挟む
今日は成人の祝賀の日。18歳になったヴィクトリアは、きれいにブラッシングされた羽がピカピカに輝いている。頭と胸元には、兄とショーリからプレゼントされたリボンをつけて。そして、胸元には、ズィークから贈られたファイアオパールのブローチが光っている。
「ぴ『わぁ……すごい』」
「姫様、ガニアン様から贈られた大粒のアンバーをあつらえた、ショーリ様が選ばれたアイボリーのリボンが映えて、とても美しいです。ふふふ、陛下もガニアン様もご覧になられたらとても誇らしくお思いになられるでしょう。それに、殿方も見とれるに違いありません」
「もうすぐ姫様が人化されますわね。数年前から姫様よりも大きくなった同世代の青年たちも、今の姫様の愛らしさにちらちらのぞき見をされていましたもの。これからは、求婚の申し出がたくさんになるでしょうね」
「ぴ? ぴぴ『え? 求婚だなんて(そんな人、現れるわけないわ)』」
数日前から侍女たちと張り切ってボディケアをしていた。今日という日を楽しみにして、エスコートするのは、当然のように彼女と一緒に育ったズィークである。
「リア! 待たせてごめんね。それにしても、今日はとてもきれいだ。いつもかわいいけど。僕が送ったブローチをつけてくれたんだね、ありがとう」
「ぴ『うん、わたくしのほうこそ、ありがとう』」
「なんてお似合いなの」
「あんなにも小さかったおふたりが、立派になられて……」
若いふたりが正装をして並ぶ姿を、乳母たちが頬を染めて見守っている。小さな頃とはちがい、ふたりともお似合いの男女のカップルとして非公式ながら周囲に認知されていた。
エンペラーペンギンの令息たちは、小さなころにヴィクトリアと仲良くできなかった自分を悔やむほど、彼女の全身を覆う羽は美しく、性格も所作も身分も申し分がないどころか極上なのだ。ズィークは彼女を狙うライバルたちに対して、気を抜けない日々を送っている。
一足先に成人したズィークが人化すると、彼の母ににた美青年が現れた。病弱だった面影は少しもなく、ややスレンダーだが生まれつき病気をかかえた人物とは思えない程、肌の色もいい。
「リア、今日の儀式で人化できるんだね。きっと、とてもきれいな女性なんだろうな」
「ぴ……」
ヴィクトリアは、彼の言葉を聞きくちばしを閉じた。楽しみにしていた成人の儀なのだが、やはり人化して家族の誰にも似ていない、口さがない者たちが言っていたとおり、取り違えの偽物王女だったのだという恐ろしい事実を突きつけられるかもしれないという恐ろしい思いを抱えていたのである。
「リア、リアが心配していること、僕にも少しだけわかるよ。ずっと一緒にいたからね。でも、胸を張って儀式に臨んでみるといいよ。ショーリさんも言っていただろう? 姿かたちなんて、両陛下やガニアンさんの愛の前ではかすんでしまうって。それに、僕は間違いなくリアは陛下たちの子だと思う。だって、食べ方は王様にそっくりだし、怒ったときは王妃さま、ほんの少し意地悪なときはガニアンさんそっくりなんだもん」
「ぴ『ズィーク……。うん、そうだね。ありがとう、わたくし頑張るわ』」
人化したズィークの大きな手が、もふっとした彼女の頭に乗る。背中をぽんぽん励ますように叩かれ、彼女を待つ会場に入った。
大歓声の中、緊張でどぎまぎしっぱなしの心臓は、破裂しそうなほど動いている。足がうまく動かせず、ズィークの手で羽の先をきゅっと掴んでもらっていた。
王や神官たちの長い話が終わり、いよいよ彼女が大神官の前に置かれている宝玉に触れる時間になる。
果たして、彼女の人化した姿はどうなのか。衆目が固唾を飲み見ている中、羽の先が成人するための宝玉に触れようとした時、会場に大きな声が響いたのである。
「ぴ『わぁ……すごい』」
「姫様、ガニアン様から贈られた大粒のアンバーをあつらえた、ショーリ様が選ばれたアイボリーのリボンが映えて、とても美しいです。ふふふ、陛下もガニアン様もご覧になられたらとても誇らしくお思いになられるでしょう。それに、殿方も見とれるに違いありません」
「もうすぐ姫様が人化されますわね。数年前から姫様よりも大きくなった同世代の青年たちも、今の姫様の愛らしさにちらちらのぞき見をされていましたもの。これからは、求婚の申し出がたくさんになるでしょうね」
「ぴ? ぴぴ『え? 求婚だなんて(そんな人、現れるわけないわ)』」
数日前から侍女たちと張り切ってボディケアをしていた。今日という日を楽しみにして、エスコートするのは、当然のように彼女と一緒に育ったズィークである。
「リア! 待たせてごめんね。それにしても、今日はとてもきれいだ。いつもかわいいけど。僕が送ったブローチをつけてくれたんだね、ありがとう」
「ぴ『うん、わたくしのほうこそ、ありがとう』」
「なんてお似合いなの」
「あんなにも小さかったおふたりが、立派になられて……」
若いふたりが正装をして並ぶ姿を、乳母たちが頬を染めて見守っている。小さな頃とはちがい、ふたりともお似合いの男女のカップルとして非公式ながら周囲に認知されていた。
エンペラーペンギンの令息たちは、小さなころにヴィクトリアと仲良くできなかった自分を悔やむほど、彼女の全身を覆う羽は美しく、性格も所作も身分も申し分がないどころか極上なのだ。ズィークは彼女を狙うライバルたちに対して、気を抜けない日々を送っている。
一足先に成人したズィークが人化すると、彼の母ににた美青年が現れた。病弱だった面影は少しもなく、ややスレンダーだが生まれつき病気をかかえた人物とは思えない程、肌の色もいい。
「リア、今日の儀式で人化できるんだね。きっと、とてもきれいな女性なんだろうな」
「ぴ……」
ヴィクトリアは、彼の言葉を聞きくちばしを閉じた。楽しみにしていた成人の儀なのだが、やはり人化して家族の誰にも似ていない、口さがない者たちが言っていたとおり、取り違えの偽物王女だったのだという恐ろしい事実を突きつけられるかもしれないという恐ろしい思いを抱えていたのである。
「リア、リアが心配していること、僕にも少しだけわかるよ。ずっと一緒にいたからね。でも、胸を張って儀式に臨んでみるといいよ。ショーリさんも言っていただろう? 姿かたちなんて、両陛下やガニアンさんの愛の前ではかすんでしまうって。それに、僕は間違いなくリアは陛下たちの子だと思う。だって、食べ方は王様にそっくりだし、怒ったときは王妃さま、ほんの少し意地悪なときはガニアンさんそっくりなんだもん」
「ぴ『ズィーク……。うん、そうだね。ありがとう、わたくし頑張るわ』」
人化したズィークの大きな手が、もふっとした彼女の頭に乗る。背中をぽんぽん励ますように叩かれ、彼女を待つ会場に入った。
大歓声の中、緊張でどぎまぎしっぱなしの心臓は、破裂しそうなほど動いている。足がうまく動かせず、ズィークの手で羽の先をきゅっと掴んでもらっていた。
王や神官たちの長い話が終わり、いよいよ彼女が大神官の前に置かれている宝玉に触れる時間になる。
果たして、彼女の人化した姿はどうなのか。衆目が固唾を飲み見ている中、羽の先が成人するための宝玉に触れようとした時、会場に大きな声が響いたのである。
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる