完結 R18 まがいもののお姫様

にじくす まさしよ

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 今日は成人の祝賀の日。18歳になったヴィクトリアは、きれいにブラッシングされた羽がピカピカに輝いている。頭と胸元には、兄とショーリからプレゼントされたリボンをつけて。そして、胸元には、ズィークから贈られたファイアオパールのブローチが光っている。

「ぴ『わぁ……すごい』」
「姫様、ガニアン様から贈られた大粒のアンバーをあつらえた、ショーリ様が選ばれたアイボリーのリボンが映えて、とても美しいです。ふふふ、陛下もガニアン様もご覧になられたらとても誇らしくお思いになられるでしょう。それに、殿方も見とれるに違いありません」
「もうすぐ姫様が人化されますわね。数年前から姫様よりも大きくなった同世代の青年たちも、今の姫様の愛らしさにちらちらのぞき見をされていましたもの。これからは、求婚の申し出がたくさんになるでしょうね」
「ぴ? ぴぴ『え? 求婚だなんて(そんな人、現れるわけないわ)』」

 数日前から侍女たちと張り切ってボディケアをしていた。今日という日を楽しみにして、エスコートするのは、当然のように彼女と一緒に育ったズィークである。

「リア! 待たせてごめんね。それにしても、今日はとてもきれいだ。いつもかわいいけど。僕が送ったブローチをつけてくれたんだね、ありがとう」
「ぴ『うん、わたくしのほうこそ、ありがとう』」

「なんてお似合いなの」
「あんなにも小さかったおふたりが、立派になられて……」

 若いふたりが正装をして並ぶ姿を、乳母たちが頬を染めて見守っている。小さな頃とはちがい、ふたりともお似合いの男女のカップルとして非公式ながら周囲に認知されていた。
 エンペラーペンギンの令息たちは、小さなころにヴィクトリアと仲良くできなかった自分を悔やむほど、彼女の全身を覆う羽は美しく、性格も所作も身分も申し分がないどころか極上なのだ。ズィークは彼女を狙うライバルたちに対して、気を抜けない日々を送っている。

 一足先に成人したズィークが人化すると、彼の母ににた美青年が現れた。病弱だった面影は少しもなく、ややスレンダーだが生まれつき病気をかかえた人物とは思えない程、肌の色もいい。

「リア、今日の儀式で人化できるんだね。きっと、とてもきれいな女性なんだろうな」
「ぴ……」

 ヴィクトリアは、彼の言葉を聞きくちばしを閉じた。楽しみにしていた成人の儀なのだが、やはり人化して家族の誰にも似ていない、口さがない者たちが言っていたとおり、取り違えの偽物王女だったのだという恐ろしい事実を突きつけられるかもしれないという恐ろしい思いを抱えていたのである。

「リア、リアが心配していること、僕にも少しだけわかるよ。ずっと一緒にいたからね。でも、胸を張って儀式に臨んでみるといいよ。ショーリさんも言っていただろう? 姿かたちなんて、両陛下やガニアンさんの愛の前ではかすんでしまうって。それに、僕は間違いなくリアは陛下たちの子だと思う。だって、食べ方は王様にそっくりだし、怒ったときは王妃さま、ほんの少し意地悪なときはガニアンさんそっくりなんだもん」
「ぴ『ズィーク……。うん、そうだね。ありがとう、わたくし頑張るわ』」

 人化したズィークの大きな手が、もふっとした彼女の頭に乗る。背中をぽんぽん励ますように叩かれ、彼女を待つ会場に入った。

 大歓声の中、緊張でどぎまぎしっぱなしの心臓は、破裂しそうなほど動いている。足がうまく動かせず、ズィークの手で羽の先をきゅっと掴んでもらっていた。

 王や神官たちの長い話が終わり、いよいよ彼女が大神官の前に置かれている宝玉に触れる時間になる。

 果たして、彼女の人化した姿はどうなのか。衆目が固唾を飲み見ている中、羽の先が成人するための宝玉に触れようとした時、会場に大きな声が響いたのである。



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