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 タニヤの相手となるうる男全てを消し去りたくなる。彼の全身に力が入り、体躯が一回り大きく硬くなった。タニヤは、そんなトムの怒りに満ちた嫉妬を感じて嬉しく、そして幸せな気持ちになる。
 聞く耳もたなさそうな彼に、ちゅっと唇を合わせて微笑むと、自らの感情を彼に包み隠さず伝えた。

「トム……そのどなたでもないわ。候補者の中から一人を決めねばならないと思っていたけれど、それから逃げるようにテラスに出たのです」
「タニヤ?」

 タニヤが、ここにいない男たちに殺気すら醸し出すトーマスの頬に細い指をそっと当てる。

「だって……あなた以外、わたくしが受け入れられるはずなどないのです」

 そして、自分の責務である王配を決めて跡継ぎを産むという最大の女王としての務めを放棄するかのような言葉を伝えた。

 トーマスは、タニヤがどんな思いでこの国の女王になるために努力して来たのかを知っている。誰よりも知っていた。

「タニヤ……ひょっとして、お前は女王になるのを諦めるつもりだったのか……? 俺と結ばれないのなら王配を決めずに生涯独身でいるつもりで?」

 トーマスは、彼女がいかに国のため、国民のために自分を律して努力して来たかを知っている。女王になる事ではない。その先にある、国民が幸せでいられるように生涯を捧げようとしており、すでに彼女は様々な分野で貢献をしていた。

「……女王にならずとも、皆のために働く事ができますから。妹も健康で賢く成長しましたし、女王になった彼女の補佐などが出来ればと思っていました。だって、わたくしは……女王になって望まぬ契りを交わすよりも、あなたを想いながら一人で生きていたかったのです……」

 タニヤが、決意を込めた視線を彼に投げかけている。
 今はすでに血の繋がりが無い事を知ってはいても、これまでずっと次期女王としての避けられぬトーマス以外と後継を作る事が受け入れられなかった、その辛く切なく身を引き裂かれそうなほどの苦痛は忘れられない。今日、この時に至るまでの自分の感情や決意に思いを馳せ、瞳が潤みだした。

 女王になりトーマス以外の伴侶を得る事。女王の座を諦めて、秘めた愛に生きる事。天秤に等かけられるはずもないそんな対極にある未来に対して、彼女は女王になる事を諦めようとしていたのだ。

「タニヤ……すまない。俺は、お前のその心の痛みに対して不憫だと思うと同時に同じ気持ちだったかと嬉しく感じてしまう。人生全てをかけて来たと言ってもいいほどの努力と決意を知っていても俺だけを想い生きていこうとしていたのかと、そう分かっただけで、俺は……」

 トーマスが、潤んだ瞳で自分を見上げて微笑む彼女の迷いのない光を見て、心が熱く膨れ上がって行く。

「タニヤ、お前だけだ。お前だけが、俺を天にも地の底にも追いやる事が出来る」

「トム……わたくし、幸せです」

「俺もだ。いや、俺のほうが幸せだ。愛している」

 二人の唇が幾度目かわからないほど触れ合う。唇だけでは足りない。もっと体全てを心ごとお互いに貪るかのようにシーツに沈んだ。


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