完結 R18 絶縁の恥さらし公女は、厄介者の王子様にまとわりつかれる。

にじくす まさしよ

文字の大きさ
10 / 22

9 決して覗きではないから。決して!

しおりを挟む
 僕の母は、この国の王の側室だ。といっても、末席の10位。

 この国の王は、次代の強い王を育てるべく、正妃のほかに、側室を最低でも15人迎える。父は少ない方で、10人ほど側室がいた。
 母の実家は、この国の宰相を務める侯爵だ。だから、病弱なのに3位にいた。なぜ、男爵家の側室よりも下の末席になったのかというと、僕を産んだから。
 僕を出産するまでは3位だったみたいだけど、産まれてすぐに、僕が炎とは真逆の氷の魔法を使ったことで、母の不貞が疑われた。

 母の家系には、いくらたどっても氷の国の出身の者はいない。ただ、宰相をしている父の当時の動きと、僕の髪の色が、王族特有の赤に似た錆色で瞳がアンバーだったから、特異体質だろうということになった。

 だからといって、人の口に戸は立てられない。父も、母が不貞をしていないと信じて、3位のままで良いと言ってくれた。けれど周囲の口さがない言葉や、他の側室からの嫌がらせに疲れた母が、自ら末席を希望したのだ。

 母がそうしたことで、やはり不貞をしていたのだと、敵対派閥が口うるさく言い続けているが、母は、目立った争いに巻き込まれない平和な今が気に入ったようだ。心も体も穏やかに過ごせるようになり、時折やってくる父とも、静かな愛情を感じて幸せそうにしていた。
 そういった経緯もあり、僕の王位継承権はほぼないことになった。僕としても、そっと静かに母と暮らせるのならそれで良かった。

 だけど、同い年の、正妃の産んだキャブタが僕をほっといてくれなかった。事あるごとにつっかかられ、さっきも大勢で僕を囲まれたのだ。

 その理由は、いたって単純。

 キャブタやその側近たちが、そろいもそろって平民出身のジュシ・CD・カトウを気に入っているから。

 もともと、彼女の世話係を、平民だからと断ったのは、彼らだった。僕は、誰もしたがらない彼女の世話を押し付けられてしまった形なのに、彼女と仲が良いというだけで、ターゲットになってしまう。

 彼女とは、単なるクラスメイトであり、言われた通りに彼女を周囲の悪意から守り勉強などを教えているだけだ。それに、いくら気に入ったからといって、正妃の子であるキャブタが、彼女と結婚するとかありえない。

 なんにせよ、僕とは関係がないから、僕じゃなくて学園長や正妃に彼女の世話係を変えて欲しいと頼めばいいだけなのに、それはできないみたいだ。もしかしたら、頼んでいるけれど、許可されないだけかも。わからないけどね。

 とにかく、学園でのそういったいざこざを、母の耳には絶対に入れたくなかった。僕がキャブタにいじめられていると聞けば、病弱の母は今度こそ気落ちしてどうなるのかわからないから。

 だから、彼女の世話係が交代されるか卒業するまでは、じっと息をひそめて我慢し続けようと思っていた。

 殴られるのは、少しは痛いし屈辱的でとても悲しい。でも、10分もすれば殴り疲れてどこかにいくから耐えていた。

 でも、今日は違った。

 皆、正妃の子であるキャブタが、僕をいじめていることを知っていて素知らぬ顔をしているのに、彼女だけは僕を助けてくれた。

 黒いおさげ髪の、とても素敵で可憐な人だった。電設で働いているというからには年上だろうけど、それがなんだっていうんだ。声を聞く限り、年が離れていてもせいぜい8歳くらいだろう。

 僕よりも小さくて華奢なのに、3メートル上空から、危険を顧みずに体を張ってキャブタたちを止めてくれた。

 嬉しかった。でも、それと同時に、このことが大事になって母の耳に入るのだけは嫌だと思った。

 それに、ただいじめられ続けている僕を、彼女に見られたくなかった。情けなさと恥ずかしさのあまり、忘れるように頼んで出て行ったんだけど、彼女のことが気になってすぐに戻った。

 彼女から見えないように、大きな彫刻の陰から、こっそりと様子を伺う。決して覗きではないから。決して!

 僕はただ、えーと、そう。さっきの転落事故で、彼女が怪我を我慢しているかどうか、それを確かめるために、ここにいるんだ。決して、邪な覗き行為ではない。うん。

 細い腰には、大きな工具入れや重そうな工具をたくさんぶら下げている。僕には、その工具がプラスマイナスのドライバーくらいしかわからないけど、電設の専門家である彼女にはとても重要なものなのだろう。

「あれは、精霊?」

 彼女が残りの仕事と片づけを終えると、ふたつの小さな丸っこいものが出てきた。一体は黄色で、もう一体は赤色。可愛らしい彼女の側で、何やら楽しそうに、「ピ」とか「ボ」とか言っている。

「あ、こっちに来る」

 見つかったらヤバイ。僕は咄嗟に彫刻の更に陰に隠れた。幸い、見つからなかったみたいで、彼女は精霊たちと一緒に去って行った。ほっと胸をなでおろすが、それが、少し悲しいような、残念なような気がする。

 僕は彫刻の陰から、彼女との運命の出会いを果たした場所まで移動した。

「かっこよかったな……僕のために……あんな高いところから。ん? あれは……」

 床に、小さなキャップのようなものを発見した。恐らくは、彼女の持ち物だろう。僕はそれをさっと拾って、丁寧に胸ポケットに入れた。

「困ってるだろうな。そうだ、これを返さなきゃ」

 小さなそれは、僕と彼女をつなぐ、大切なメモリアル。僕だけのために地上に舞い降りてくれたおさげの天使に、また会えると思うと、胸がドキドキして弾む。
 キャップだけを持っていくには、手持ち無沙汰だろう。手土産は何がいいかな? 花束? お菓子?

 女の子、いや、かわいい女性が喜ぶものってなんだろうか。さっぱり見当がつかない。

「僕は、ただ、これを返して、助けたお礼をするだけだから」

 そう呟きながら、おさげの天使が喜ぶものを早く買いに行くことだけを考えて部屋に戻った。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

処理中です...