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10 あっちに美味しい物ばかりを食べて育った絶品の獲物がありますよ! あ、王子様は若干いい人だから、取り巻きの連中なんてどうです?
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変な現場に関わった翌日。私はいつものように、学生が燃やしたコンセントの修繕に向かう。
ただ、電工ナイフのキャップがないのが気になるけれど、布を巻いたのでそれほど問題はない。そのうち、捨てられてなければ、どこかから見つかるだろう。
今日の修復箇所は3つで、場所は床に近いから、昨日のような転落事故の心配はない。それと、学園長の部屋のエアコンを交換するのに、250V20Aのコンセントに変えなければならなかった。
ちょっとこき使われすぎなような気がするけれど、住が保証されているし、衣は給料で十分揃えられる。ドレスになると無理だけどね。あと、何よりも学食を使いたい放題なのが素晴らしい。
王族貴族に提供する学食は、そこらへんのミシラウン4つ星以上のものが、毎食10種類の中から選びたい放題。しかも、かぶらないように、一年を通して凄まじいほどのメニューの数なのだ。
コンセントの取り替えをするだけだから、すぐに終わる。移動に時間がかかるくらいだし。
「今日のメニューはなんだろうなー」
足取りも軽くなり、腰にぶら下げた工具が、若干リズムが狂うけれどカチャカチャ、ガチャと曲を奏でる。鼻歌気分で、歩いていると、目の前に大きな影が立ちふさがった。
「ぎゃっ!」
熊か何かかと思い、女性らしからぬ悲鳴をあげてしまった。
熊に遭遇したら、逃げちゃダメ。じっとしているか、大声や奇声をあげて先制攻撃するかのごとく、両手をあげて襲いかかるのが吉。カウンターパンチを食らわせてもいい。
熊に攻撃を仕掛けるなんて、どこの世界にいるというのか。魔法を使えるのならまだしも、私は物理という名の攻撃しか使えない。
私は、目を思い切り閉じて小躍りしていた足を止めて直立不動になった。
「あの」
ん?
く、熊が人語をしゃべったー。どんな人体錬成なんだ。人と熊のキメラというやつか。なんてことだ。
より一層恐ろしくなって、本気で体が動かせない。
「あのー」
「ひっ、私は食べても美味しくありませんよ! そうだ、あっちにこの国の王子様という美味しい物ばかりを食べて育った絶品の獲物がありますよ! あ、王子様は若干いい人だから、取り巻きの連中なんてどうです? ぽにょぽにょしてて柔らかそうでしたよ。わ、私には肉があまりないし、鍛えているから固くて不味いですから、どうぞ、あっちに行ってください」
熊は人語が喋れる。つまり、こちらの言うこともわかるはず。
私は、自分の命が惜しい。自分よりも美味しくて「ばばあ」と言ったやつらを生贄にしようと思った。女性にばばあというやつは、きっとほかでもやらかすに決まってる。世のため、女性のため、尊い犠牲になってくれと、学生たちのいるほうを指さした。
え? 未来ある学生を守らなきゃいけないんじゃないかって?
何いってんだ。バカも休み休み言え。私は教師ではない。3年B組も、極道のクラス担任でも、ギャルを国一番の大学に行かせる先生ではないのだよ。単なる電設の女ですから!
そんなこと言うなら、まずは言い出しっぺが行って話し合いだろうがなんだろうが解決してどうぞ!
ここの学生は炎の魔法が使える。だから、熊のキメラごとき、あっという間に焼き熊肉にしてくれると思う!
いや、熊さんがかわいそうかもしれないけど、襲ってきたからには返り討ちは覚悟の上だろう。問題あるまい。
そんな、倫理をどこかに置いてきてしまった下衆のように考えていると、熊がさらに話しかけてきた。
「あの、でんせつの人」
「ひゃいっ! でんせつ? でんせつ……伝説の人は、ここにはいません! 人違いです!」
「いや、でも。昨日……」
「昨日? 昨日がどうしたっていうんですか」
私は必死に、あっちをぶんぶん指さしたまま、熊の言葉に反論した。
「僕を助けてくれたじゃないですか。シャンデリアの下に降りてきて」
「僕? 熊なんて助けた覚えは……、ん? シャンデリア?」
僕、昨日。そして、シャンデリアという単語で、私は目の前の熊、もとい大男の正体に気づいた。
「……ひっ! ムキ殿下。ご無礼を! 今の話は、えーと、そのぅ……」
熊よりもやっかいな相手だった。ムキ王子にしてみれば、私は保身のためだけに、多くの学生を生贄にしようとした不届き者。ここをどうやって言い訳するか、頭をフル回転させる。
「あの、頭を下げてください。僕こそ、昨日は慌ててしまって、失礼なことを。その、昨日ここでこれを拾ったんです」
昨日の彼よりも、なんだか優しい。どうやら、さっきまでの私の言動は、スルーされたようだ。ラッキー。
心の中で、ピピとボボと三人で輪になり、勝利のお祝いのダンスを踊るほど嬉しくなった。これが先生や、キャブタ王子ならただでは済まなかったかも。
彼が差し出した大きな手のひらを見ると、昨日無くしたと思っていた電工ナイフのキャップがあた。
「あ、それ、私のです。殿下が拾ってくださったんですね。ありがとうございます」
キャップを返してもらい、後手で、腰の後ろに下げたバックの中から電工ナイフを取り出す。安全のためにむき出しの刃に巻いていた布をささっと取り、キャップをつけた。
「手慣れているね」
「仕事ですから。正直、布だと面倒なんですよね。巻いたりほどいたりの時間がもったいないですし、危険ですから」
感謝します。では
そう言い、この場からさっさと去ろうとしたけれど、ムキ王子が私の手を取ってしまった。
「あの、あと、これ」
「ん?」
少し顔を赤らめて彼が差し出してきたのは、手のひらから指の部分までゴムで覆われた、工事現場で良く使われている軍手だった。
ただ、電工ナイフのキャップがないのが気になるけれど、布を巻いたのでそれほど問題はない。そのうち、捨てられてなければ、どこかから見つかるだろう。
今日の修復箇所は3つで、場所は床に近いから、昨日のような転落事故の心配はない。それと、学園長の部屋のエアコンを交換するのに、250V20Aのコンセントに変えなければならなかった。
ちょっとこき使われすぎなような気がするけれど、住が保証されているし、衣は給料で十分揃えられる。ドレスになると無理だけどね。あと、何よりも学食を使いたい放題なのが素晴らしい。
王族貴族に提供する学食は、そこらへんのミシラウン4つ星以上のものが、毎食10種類の中から選びたい放題。しかも、かぶらないように、一年を通して凄まじいほどのメニューの数なのだ。
コンセントの取り替えをするだけだから、すぐに終わる。移動に時間がかかるくらいだし。
「今日のメニューはなんだろうなー」
足取りも軽くなり、腰にぶら下げた工具が、若干リズムが狂うけれどカチャカチャ、ガチャと曲を奏でる。鼻歌気分で、歩いていると、目の前に大きな影が立ちふさがった。
「ぎゃっ!」
熊か何かかと思い、女性らしからぬ悲鳴をあげてしまった。
熊に遭遇したら、逃げちゃダメ。じっとしているか、大声や奇声をあげて先制攻撃するかのごとく、両手をあげて襲いかかるのが吉。カウンターパンチを食らわせてもいい。
熊に攻撃を仕掛けるなんて、どこの世界にいるというのか。魔法を使えるのならまだしも、私は物理という名の攻撃しか使えない。
私は、目を思い切り閉じて小躍りしていた足を止めて直立不動になった。
「あの」
ん?
く、熊が人語をしゃべったー。どんな人体錬成なんだ。人と熊のキメラというやつか。なんてことだ。
より一層恐ろしくなって、本気で体が動かせない。
「あのー」
「ひっ、私は食べても美味しくありませんよ! そうだ、あっちにこの国の王子様という美味しい物ばかりを食べて育った絶品の獲物がありますよ! あ、王子様は若干いい人だから、取り巻きの連中なんてどうです? ぽにょぽにょしてて柔らかそうでしたよ。わ、私には肉があまりないし、鍛えているから固くて不味いですから、どうぞ、あっちに行ってください」
熊は人語が喋れる。つまり、こちらの言うこともわかるはず。
私は、自分の命が惜しい。自分よりも美味しくて「ばばあ」と言ったやつらを生贄にしようと思った。女性にばばあというやつは、きっとほかでもやらかすに決まってる。世のため、女性のため、尊い犠牲になってくれと、学生たちのいるほうを指さした。
え? 未来ある学生を守らなきゃいけないんじゃないかって?
何いってんだ。バカも休み休み言え。私は教師ではない。3年B組も、極道のクラス担任でも、ギャルを国一番の大学に行かせる先生ではないのだよ。単なる電設の女ですから!
そんなこと言うなら、まずは言い出しっぺが行って話し合いだろうがなんだろうが解決してどうぞ!
ここの学生は炎の魔法が使える。だから、熊のキメラごとき、あっという間に焼き熊肉にしてくれると思う!
いや、熊さんがかわいそうかもしれないけど、襲ってきたからには返り討ちは覚悟の上だろう。問題あるまい。
そんな、倫理をどこかに置いてきてしまった下衆のように考えていると、熊がさらに話しかけてきた。
「あの、でんせつの人」
「ひゃいっ! でんせつ? でんせつ……伝説の人は、ここにはいません! 人違いです!」
「いや、でも。昨日……」
「昨日? 昨日がどうしたっていうんですか」
私は必死に、あっちをぶんぶん指さしたまま、熊の言葉に反論した。
「僕を助けてくれたじゃないですか。シャンデリアの下に降りてきて」
「僕? 熊なんて助けた覚えは……、ん? シャンデリア?」
僕、昨日。そして、シャンデリアという単語で、私は目の前の熊、もとい大男の正体に気づいた。
「……ひっ! ムキ殿下。ご無礼を! 今の話は、えーと、そのぅ……」
熊よりもやっかいな相手だった。ムキ王子にしてみれば、私は保身のためだけに、多くの学生を生贄にしようとした不届き者。ここをどうやって言い訳するか、頭をフル回転させる。
「あの、頭を下げてください。僕こそ、昨日は慌ててしまって、失礼なことを。その、昨日ここでこれを拾ったんです」
昨日の彼よりも、なんだか優しい。どうやら、さっきまでの私の言動は、スルーされたようだ。ラッキー。
心の中で、ピピとボボと三人で輪になり、勝利のお祝いのダンスを踊るほど嬉しくなった。これが先生や、キャブタ王子ならただでは済まなかったかも。
彼が差し出した大きな手のひらを見ると、昨日無くしたと思っていた電工ナイフのキャップがあた。
「あ、それ、私のです。殿下が拾ってくださったんですね。ありがとうございます」
キャップを返してもらい、後手で、腰の後ろに下げたバックの中から電工ナイフを取り出す。安全のためにむき出しの刃に巻いていた布をささっと取り、キャップをつけた。
「手慣れているね」
「仕事ですから。正直、布だと面倒なんですよね。巻いたりほどいたりの時間がもったいないですし、危険ですから」
感謝します。では
そう言い、この場からさっさと去ろうとしたけれど、ムキ王子が私の手を取ってしまった。
「あの、あと、これ」
「ん?」
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