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14 二度と学園に戻れないということでしょうか?
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「呼び出してすまんね。カキョウ君、いや、カキョウ様。折り入って少々ご提案がありまして」
「なんでしょう?」
普段は、一電設のスタッフとして相対してくれている学園長が、わざわざこうして話し方を変えた。それは、私に光の国の貴賓か、もしくは雷の国の公女として話があるということ。
背筋を伸ばして、やんわり微笑む。にこやかな学園長の口元も微笑みを浮かべているが、瞳は笑っていない。これは、私にとって非常にまずい事態が起こったとみていいだろう。
何を言われてもいいように、きゅっと口を結んで学園長の話の続きを待った。
「実は、雷の国から留学生が来ることになりました。その学生の親というのが、騎士をしているというのです……」
「騎士、ですか」
「はい。しかも、主に王族の公にできない任務をこなす所属にいるとのことでして。もしかしたら、公女様のことをご存じかもしれないので、彼がこの学園にいる間、休暇をとられてはと思いまして」
「それは、二度と学園に戻れないということでしょうか?」
あの時居合わせた騎士とメイドは、私が生きていて逃亡したことを知っている人はいる。いくら亡霊扱いでも、その関係者なら、私の事を知っている可能性は0ではないだろう。
その人たちから、周囲に漏れていないとは限らない。それに、この国とのつながりのある人だっているだろう。
学園長は、ネオン様たちに昔恩があって、私を単なる電気工事士として雇ってくれている。でも、国家間をゆるがすような大事件になりかねない、大きな地雷である私を、いつまでもここに匿ってはいられないと思っていた。でも、ここは私にとって安息の場所。
いずれ出ていく時があれども、できるかぎり長く勤めたくて、万が一にでもここに私がいることを知られてはならないと、私は雷の国特有のパッと目を引くような光沢のある黄色を隠していた。瞳はビン底メガネで隠しているまま。ムキ君には見られたけど、彼は約束通り誰にもカミングアウトしていないから、まだまだ大丈夫だと安心しきっていた。
事実上のクビ宣言も同様の言葉に、私はショックを隠せなかった。学園長が見ても、青ざめて震えてしまっているのだろう。
そんな私を見て、学園長が慌てて言葉をつなげた。
「いや、そうではありません。実際、公女様が本来ならしなくていい仕事をしていただけて、大変助かっております。現に、学園内でのケーブルなどの破損による火災などが激減しましたから。なので、留学生が国に帰ったら、是非とも戻っていただきたいと願っている次第でして。留学生が来るのは3週間ほどなのですが、その間だけ学園から離れていただければと思います」
「それは、私にとっては願ってもないことです。ですが、よろしいのですか? いつまでもこのままだと学園長様にご迷惑が……」
「なに、一応私は公女様の素性を知らないことになっておりますから。責任は光の国がとるとの約束でして。ですから、安心してこちらに戻ってきて欲しいのです」
「でも、どこに行けばいいのか……」
「ちょうど、殿下がご公務でここを離れられるのです。殿下の侍女としてついていっていただければ」
「殿下? もしかしてキャブタ殿下のことでしょうか?」
「そうだ。いや、そうです、レディ。あの時の連中はひとりも連れて行かないのでご安心を」
学園長との会話に、聞いたことのある声が割って入ってきた。ちょうど、キャブタ王子がこの部屋に入ってきたようだ。ノックの音がしなかったけど。それは、学園長も眉を少ししかめただけでスルーした。
「皆の手前、あの時は誠に失礼いたしました。光の国の王から、くれぐれもとたのまれていたのですが、放っておいてほしいと言われ、肝心の時にとんだ失態を。改めて謝罪致します。どうぞお許しください」
「伯父さまから? 学園長さまからかと思っておりました。殿下、どうぞ頭をお上げください。私のほうこそ、危険な目に合せてしまいもうしわけございませんでした」
いや、俺が。いいえ、私が。そんな謝罪合戦を何度か繰り返していると、学園長が止めてくれた。結局、この国の陛下がたも私の存在はご存じのようで、雷の国には極秘にしていただけているとのこと。
ならば、この提案を断る理由はない。
私は、キャブタ王子の侍女として、この学園を一時期去ることになったのである。
で、だ。
「どうして、ムキ君がいるの? それに、ジュシちゃんまで」
「カキョウさんがいくところには、僕もついていきますから」
王宮への移動中、私の横には大きな熊さん、もといムキ君。そして、正面には
「私も。あのね、カキョウさんがいないと、ほら、私たちって学園でまた居づらくなっちゃうからさ。学園長にお願いして許可してもらったの」
子ニャンコまでついてきた。どうやら、ジュシちゃんは私の正体を知っているっぽい。どこからの情報なのか尋ねたけど、はぐらかされてしまった。ムキ君からは聞いていないとのことだけど、この女の子は平民で素晴らしい炎の使い手という以外、ほんとに謎が多いのだ。学園長も、ジュシちゃんなら大丈夫だと太鼓判を押したし、かわいいし素直で良い子だから、まあいいかな。
「ジュシ嬢が来ることは異論はないが、なんでムキまで……」
ジュシちゃんの隣に座った王子が、耳を赤くして嬉しそう。でも、ライバルはいらないとばかりに、ムキ君を睨んでいる。
「僕だって、たまには母上に会いたいですし。そうだ、カキョウさん。キャブタ様じゃなくて、僕の侍女として僕の母上が暮らしているトランス宮に来てよ」
「ムキ君のお母様? お会いできるのなら、いつもお世話になっているからご挨拶したいわね」
「私も、私も会いたい! 肖像画見たことあるけど、ムキ君のお母様って、当代一の美女なのよね。優しくて、たおやかで」
おお、絶世の美女。普通に会いたい。私とジュシちゃんが、ムキ君のお母様のことで盛り上がっていると、キャブタ王子も負けじと話しかけてきた。
「俺の母上と会うのが先だ」
「僕の母上とだ」
すると、いつもはキャブタ王子に逆らわないムキ君が反論した。それからは、ふたりの舌戦が始まったんだけど、最初にみたいじめ現場みたいな感じじゃなくて、仲の良い兄弟げんかのようで、私は弟とはこんな風に喧嘩もできないから少し羨ましいと思った。
「なんでしょう?」
普段は、一電設のスタッフとして相対してくれている学園長が、わざわざこうして話し方を変えた。それは、私に光の国の貴賓か、もしくは雷の国の公女として話があるということ。
背筋を伸ばして、やんわり微笑む。にこやかな学園長の口元も微笑みを浮かべているが、瞳は笑っていない。これは、私にとって非常にまずい事態が起こったとみていいだろう。
何を言われてもいいように、きゅっと口を結んで学園長の話の続きを待った。
「実は、雷の国から留学生が来ることになりました。その学生の親というのが、騎士をしているというのです……」
「騎士、ですか」
「はい。しかも、主に王族の公にできない任務をこなす所属にいるとのことでして。もしかしたら、公女様のことをご存じかもしれないので、彼がこの学園にいる間、休暇をとられてはと思いまして」
「それは、二度と学園に戻れないということでしょうか?」
あの時居合わせた騎士とメイドは、私が生きていて逃亡したことを知っている人はいる。いくら亡霊扱いでも、その関係者なら、私の事を知っている可能性は0ではないだろう。
その人たちから、周囲に漏れていないとは限らない。それに、この国とのつながりのある人だっているだろう。
学園長は、ネオン様たちに昔恩があって、私を単なる電気工事士として雇ってくれている。でも、国家間をゆるがすような大事件になりかねない、大きな地雷である私を、いつまでもここに匿ってはいられないと思っていた。でも、ここは私にとって安息の場所。
いずれ出ていく時があれども、できるかぎり長く勤めたくて、万が一にでもここに私がいることを知られてはならないと、私は雷の国特有のパッと目を引くような光沢のある黄色を隠していた。瞳はビン底メガネで隠しているまま。ムキ君には見られたけど、彼は約束通り誰にもカミングアウトしていないから、まだまだ大丈夫だと安心しきっていた。
事実上のクビ宣言も同様の言葉に、私はショックを隠せなかった。学園長が見ても、青ざめて震えてしまっているのだろう。
そんな私を見て、学園長が慌てて言葉をつなげた。
「いや、そうではありません。実際、公女様が本来ならしなくていい仕事をしていただけて、大変助かっております。現に、学園内でのケーブルなどの破損による火災などが激減しましたから。なので、留学生が国に帰ったら、是非とも戻っていただきたいと願っている次第でして。留学生が来るのは3週間ほどなのですが、その間だけ学園から離れていただければと思います」
「それは、私にとっては願ってもないことです。ですが、よろしいのですか? いつまでもこのままだと学園長様にご迷惑が……」
「なに、一応私は公女様の素性を知らないことになっておりますから。責任は光の国がとるとの約束でして。ですから、安心してこちらに戻ってきて欲しいのです」
「でも、どこに行けばいいのか……」
「ちょうど、殿下がご公務でここを離れられるのです。殿下の侍女としてついていっていただければ」
「殿下? もしかしてキャブタ殿下のことでしょうか?」
「そうだ。いや、そうです、レディ。あの時の連中はひとりも連れて行かないのでご安心を」
学園長との会話に、聞いたことのある声が割って入ってきた。ちょうど、キャブタ王子がこの部屋に入ってきたようだ。ノックの音がしなかったけど。それは、学園長も眉を少ししかめただけでスルーした。
「皆の手前、あの時は誠に失礼いたしました。光の国の王から、くれぐれもとたのまれていたのですが、放っておいてほしいと言われ、肝心の時にとんだ失態を。改めて謝罪致します。どうぞお許しください」
「伯父さまから? 学園長さまからかと思っておりました。殿下、どうぞ頭をお上げください。私のほうこそ、危険な目に合せてしまいもうしわけございませんでした」
いや、俺が。いいえ、私が。そんな謝罪合戦を何度か繰り返していると、学園長が止めてくれた。結局、この国の陛下がたも私の存在はご存じのようで、雷の国には極秘にしていただけているとのこと。
ならば、この提案を断る理由はない。
私は、キャブタ王子の侍女として、この学園を一時期去ることになったのである。
で、だ。
「どうして、ムキ君がいるの? それに、ジュシちゃんまで」
「カキョウさんがいくところには、僕もついていきますから」
王宮への移動中、私の横には大きな熊さん、もといムキ君。そして、正面には
「私も。あのね、カキョウさんがいないと、ほら、私たちって学園でまた居づらくなっちゃうからさ。学園長にお願いして許可してもらったの」
子ニャンコまでついてきた。どうやら、ジュシちゃんは私の正体を知っているっぽい。どこからの情報なのか尋ねたけど、はぐらかされてしまった。ムキ君からは聞いていないとのことだけど、この女の子は平民で素晴らしい炎の使い手という以外、ほんとに謎が多いのだ。学園長も、ジュシちゃんなら大丈夫だと太鼓判を押したし、かわいいし素直で良い子だから、まあいいかな。
「ジュシ嬢が来ることは異論はないが、なんでムキまで……」
ジュシちゃんの隣に座った王子が、耳を赤くして嬉しそう。でも、ライバルはいらないとばかりに、ムキ君を睨んでいる。
「僕だって、たまには母上に会いたいですし。そうだ、カキョウさん。キャブタ様じゃなくて、僕の侍女として僕の母上が暮らしているトランス宮に来てよ」
「ムキ君のお母様? お会いできるのなら、いつもお世話になっているからご挨拶したいわね」
「私も、私も会いたい! 肖像画見たことあるけど、ムキ君のお母様って、当代一の美女なのよね。優しくて、たおやかで」
おお、絶世の美女。普通に会いたい。私とジュシちゃんが、ムキ君のお母様のことで盛り上がっていると、キャブタ王子も負けじと話しかけてきた。
「俺の母上と会うのが先だ」
「僕の母上とだ」
すると、いつもはキャブタ王子に逆らわないムキ君が反論した。それからは、ふたりの舌戦が始まったんだけど、最初にみたいじめ現場みたいな感じじゃなくて、仲の良い兄弟げんかのようで、私は弟とはこんな風に喧嘩もできないから少し羨ましいと思った。
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