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15 遺体のないお墓に、彼岸花でも供えていればいいのに。
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王宮で公然の秘密として、私はキャブタ王子の侍女として過ごすことになった。陛下がたは、とても気さくで優しくて、側室同士の仲も多少は序列がどうだこうだといった諍いはあるものの、暗殺騒ぎなどを起こすほど悪くない。
なので、私の素性はとっくに皆様にバレていて、そっとしておいてくれていたらしい。
ただ、こうして王宮に来たからには、飛んで火にいる夏の虫とばかりに、毎日のように着飾られて遊ばれ──大事にもてなしていただいた。
侍女と言うよりも、お客様扱いに戸惑いつつも、今もジュシちゃんと一緒にお茶会に来ているというわけだ。
「それにしても、雷の国の公女様がこうしていきておられたなんて。亡くなったと言われていなければ、例え特異体質であっても、うちの息子たちの誰でもいいから嫁として迎え入れましたのに」
「それはいい考えですわね。出自はしっかりなされていますし、光の国の後見もあるのですから、いっそ、今からでも王子殿下との縁を結ばれては」
「それがいいですわね。年齢のことを考えると、うちの息子なんていかがかしら? しっかり公務をこなしておりますし、自分で興した商会も成功をおさめておりますのよ」
「私にはもったいないほどのお言葉ですが、あいにく将来を誓った方がいますので……」
そんな男はいない。だが、断るにはこうしたほうが手っ取り早いしすぐに引き下がるというジュシちゃんのアドバイスを受けて、そのままま伝えた。すると、残念そうにしながらも、あっさり引き下がってくれたのである。
こういったやりとりは、これで5回目。初対面の側室の方とのお茶会で必ず言われるのだ。相手も断られると思っての、ご挨拶のようなものだろう。もしも、私が承諾したらしたで、困ると思う。
「母上がた、そろそろ私の侍女たちを返していただけませんか?」
お茶会が終盤になったころ、キャブタ王子が迎えに来てくれた。
なぜか、ジュシちゃんも侍女になっている。ふたりとも、侍女にしてはお姫様のようにきらびやかなドレスに身を包んでいるけど。
キャブタ王子が、さっそうとこちらに近づき、ジュシちゃんに手を差し伸べた。
ええ、ええ。そうでしょうとも。彼にとっては私のほうがおまけ。
私は、ひとりで立ち上がろうとしたけど、そこにムキ君が現れてエスコートしてくれた。一応、名目上は侍女なんだけど。
で、だ。
気づいたんだけど、ジュシちゃんの好きな人って、まさかのキャブタ王子じゃないかなって思うのだ。ムキ君と一緒のときと違って、目が潤んで頬がうっすらと赤くなっているし、何よりもとっても幸せそう。
ただ、キャブタ王子には婚約者がいるから、そっと片思いをしているのかなって。
だから、私をダシにして、つかの間でもキャブタ王子と一緒にいたかったのかも、なんて。
だったら、相思相愛なんじゃない。
くぅー。切なくて青春まっさかりだねぇ。
いずれは諦めなければならない淡い恋。実らない思いだけど、愛人とかはダメ。
いっそ、王子の婚約が円満になくなって、ふたりが結ばれたらいいなあなんて、叶いそうにない思いを描いた。
「カキョウさん、母上がよかったら来てほしいって」
「そうなの? 毎日だからご迷惑じゃ?」
「迷惑なんか思ってないよ。最近、体調が悪くてベッドの上でねてばかりだから、来てくれたら嬉しいって」
「じゃ、ご挨拶に。キャブタ殿下、よろしいでしょうか?」
「ん? ああ、こっちは問題ない。ジュシ嬢、ちょっと執務室まで来てくれないか?」
「はい」
うんうん。王子とジュシちゃんは、執務室でふたりきりになりたいんですね。はいはい、おじゃま虫は、空気を読んで消えますよっと。
互いに別の場所に向かう。そんなわたしたちの様子を、さっきまでお茶会にいたお妃様が全員、含みのある微笑みを浮かべて眺めていたなんて、これっぽっちも気づかなかった。
「え? 学園長からそんなことを?」
「うん。雷の国の留学生は、来るなり黄色の髪の女性がいないか探しているらしい。短期留学とは名目だけで、学園長が言ってたように、目的はカキョウさんだと思う」
「わあ、こっちに避難させていただいて良かった。本当にありがとう」
一体、どういう目的で亡霊を探すのだろう。あの国で、遺体のないお墓に、彼岸花でも供えていればいいのに。
「僕はなんもしてないけどね。でも、これからは僕がカキョウさんを守るから」
「うん、ありがとう」
すっかりそのことで頭がいっぱいになって、ムキ君が何やら言っていたのを聞き逃してしまった。適当に、条件反射的に返事をしたのだが、ムキ君が嬉しそうにウンウン頷いているから、まあいっか。
トランス宮は、割と日当たりのよい、陛下がいる宮とはそう遠く離れていない場所に建てられている。こじんまりとしているが、静かで過ごしやい。
落ち着いたきれいな空気と香りのする宮の一室に、噂に違えぬ美女が横たわっていた。少し体を起こして、私を見て頭をさげるその美女は、ムキ君のお母さま。
この人が、この大きな熊を生んで育てたのかと、遺伝子のいたずらに関心してしまう。
「母上、今日は顔色がいいですね」
「ええ、今日はすごく楽なの。カキョウ様、毎日このような見苦しい姿で申し訳ございません。でも、来ていただいて、とても嬉しゅうございます」
「いえ、こうしてお目にかかれるだけでもじゅうぶんですから。起き上がって大丈夫でしょうか? どうか、楽になさっていてくださいませ」
「ふふふ、ありがとうございます」
なんともまあ、宰相の娘さんなのだから、もっと高飛車で偉そうな面もあるのかと思いきや、ものすごく低姿勢で優しい。病弱なんだから、もっとわがままに過ごしてもいいのに。
こういう方だから、王宮内の争いごとをさけて、ここで過ごしているのかと思うと胸が少しだけ痛む。他人をどうこうするよりも、そっと自分が何歩でも下がる、そんな方なのだろう。
ムキ君が、お母さまに心配かけたくないって思うのもわかる気がした。
小一時間ほど、楽しくおしゃべりをしていると、すぐにキャブタ王子のもとに行くように伝言を伝えられたのである。
なので、私の素性はとっくに皆様にバレていて、そっとしておいてくれていたらしい。
ただ、こうして王宮に来たからには、飛んで火にいる夏の虫とばかりに、毎日のように着飾られて遊ばれ──大事にもてなしていただいた。
侍女と言うよりも、お客様扱いに戸惑いつつも、今もジュシちゃんと一緒にお茶会に来ているというわけだ。
「それにしても、雷の国の公女様がこうしていきておられたなんて。亡くなったと言われていなければ、例え特異体質であっても、うちの息子たちの誰でもいいから嫁として迎え入れましたのに」
「それはいい考えですわね。出自はしっかりなされていますし、光の国の後見もあるのですから、いっそ、今からでも王子殿下との縁を結ばれては」
「それがいいですわね。年齢のことを考えると、うちの息子なんていかがかしら? しっかり公務をこなしておりますし、自分で興した商会も成功をおさめておりますのよ」
「私にはもったいないほどのお言葉ですが、あいにく将来を誓った方がいますので……」
そんな男はいない。だが、断るにはこうしたほうが手っ取り早いしすぐに引き下がるというジュシちゃんのアドバイスを受けて、そのままま伝えた。すると、残念そうにしながらも、あっさり引き下がってくれたのである。
こういったやりとりは、これで5回目。初対面の側室の方とのお茶会で必ず言われるのだ。相手も断られると思っての、ご挨拶のようなものだろう。もしも、私が承諾したらしたで、困ると思う。
「母上がた、そろそろ私の侍女たちを返していただけませんか?」
お茶会が終盤になったころ、キャブタ王子が迎えに来てくれた。
なぜか、ジュシちゃんも侍女になっている。ふたりとも、侍女にしてはお姫様のようにきらびやかなドレスに身を包んでいるけど。
キャブタ王子が、さっそうとこちらに近づき、ジュシちゃんに手を差し伸べた。
ええ、ええ。そうでしょうとも。彼にとっては私のほうがおまけ。
私は、ひとりで立ち上がろうとしたけど、そこにムキ君が現れてエスコートしてくれた。一応、名目上は侍女なんだけど。
で、だ。
気づいたんだけど、ジュシちゃんの好きな人って、まさかのキャブタ王子じゃないかなって思うのだ。ムキ君と一緒のときと違って、目が潤んで頬がうっすらと赤くなっているし、何よりもとっても幸せそう。
ただ、キャブタ王子には婚約者がいるから、そっと片思いをしているのかなって。
だから、私をダシにして、つかの間でもキャブタ王子と一緒にいたかったのかも、なんて。
だったら、相思相愛なんじゃない。
くぅー。切なくて青春まっさかりだねぇ。
いずれは諦めなければならない淡い恋。実らない思いだけど、愛人とかはダメ。
いっそ、王子の婚約が円満になくなって、ふたりが結ばれたらいいなあなんて、叶いそうにない思いを描いた。
「カキョウさん、母上がよかったら来てほしいって」
「そうなの? 毎日だからご迷惑じゃ?」
「迷惑なんか思ってないよ。最近、体調が悪くてベッドの上でねてばかりだから、来てくれたら嬉しいって」
「じゃ、ご挨拶に。キャブタ殿下、よろしいでしょうか?」
「ん? ああ、こっちは問題ない。ジュシ嬢、ちょっと執務室まで来てくれないか?」
「はい」
うんうん。王子とジュシちゃんは、執務室でふたりきりになりたいんですね。はいはい、おじゃま虫は、空気を読んで消えますよっと。
互いに別の場所に向かう。そんなわたしたちの様子を、さっきまでお茶会にいたお妃様が全員、含みのある微笑みを浮かべて眺めていたなんて、これっぽっちも気づかなかった。
「え? 学園長からそんなことを?」
「うん。雷の国の留学生は、来るなり黄色の髪の女性がいないか探しているらしい。短期留学とは名目だけで、学園長が言ってたように、目的はカキョウさんだと思う」
「わあ、こっちに避難させていただいて良かった。本当にありがとう」
一体、どういう目的で亡霊を探すのだろう。あの国で、遺体のないお墓に、彼岸花でも供えていればいいのに。
「僕はなんもしてないけどね。でも、これからは僕がカキョウさんを守るから」
「うん、ありがとう」
すっかりそのことで頭がいっぱいになって、ムキ君が何やら言っていたのを聞き逃してしまった。適当に、条件反射的に返事をしたのだが、ムキ君が嬉しそうにウンウン頷いているから、まあいっか。
トランス宮は、割と日当たりのよい、陛下がいる宮とはそう遠く離れていない場所に建てられている。こじんまりとしているが、静かで過ごしやい。
落ち着いたきれいな空気と香りのする宮の一室に、噂に違えぬ美女が横たわっていた。少し体を起こして、私を見て頭をさげるその美女は、ムキ君のお母さま。
この人が、この大きな熊を生んで育てたのかと、遺伝子のいたずらに関心してしまう。
「母上、今日は顔色がいいですね」
「ええ、今日はすごく楽なの。カキョウ様、毎日このような見苦しい姿で申し訳ございません。でも、来ていただいて、とても嬉しゅうございます」
「いえ、こうしてお目にかかれるだけでもじゅうぶんですから。起き上がって大丈夫でしょうか? どうか、楽になさっていてくださいませ」
「ふふふ、ありがとうございます」
なんともまあ、宰相の娘さんなのだから、もっと高飛車で偉そうな面もあるのかと思いきや、ものすごく低姿勢で優しい。病弱なんだから、もっとわがままに過ごしてもいいのに。
こういう方だから、王宮内の争いごとをさけて、ここで過ごしているのかと思うと胸が少しだけ痛む。他人をどうこうするよりも、そっと自分が何歩でも下がる、そんな方なのだろう。
ムキ君が、お母さまに心配かけたくないって思うのもわかる気がした。
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