【完結・R18】迷子になったあげく、いかがわしい場面に遭遇したら恋人が出来ました

にじくす まさしよ

文字の大きさ
11 / 39

今日も俺のビオラは可愛い①

しおりを挟む
 顔を赤らめて、もじもじ恥ずかしそうに俺をまともに直視できない彼女を、今すぐ連れ去って名実共に俺の妻にしたい。だけど、俺にはまだ婚約者がいる状態だ。非常に不本意ではあるが。

 彼女の手元には、美しいビオラの花が綺麗に並んでいる。勿論、そんな花よりも、俺のビオラのほうが比べものにならないほど綺麗だし可愛いし愛らしいし笑顔が素敵だし、恥じらう今の表情はこれから出来るムースなんかよりもっと美味しそうだ。
 明日にはそのムースが食べられるというが、俺は今すぐにでもビオラを抱きしめて食べた……。ゴホン。

 それにしても、愛しい妻は、うっとり瞳を潤ませてどこを見ているのか。視線を手繰ってみると、そこには俺の弟がいるではないか。

 まさかとは思うが、ウスベニのほうが好みなのか? 俺はゼニアオイ家の中で一番ひょろっとしているし、頼りなさそうに見えるからか?

 あと、俺の致命的な欠陥があるのが嫌なのか……? だが、これは俺のビオラは知らない。他の男の事だって知るはずがない。ローズ嬢が、彼女に今まで恋人も婚約者も、俺以外に好きな男が出来たなどないと言っていたからな。

 そうとも、ビオラは俺だけを知っていればいい。今と同じように、これからも俺だけを見つめて愛して、永遠に俺の腕の中にいてくれたらいい。そして幸せいっぱいの家庭を築こう。最初の子はどっちかな。どっちでもビオラに似て可愛いに決まっている。ああ、もしも女の子が生まれて、どこの馬の骨ともしれぬ男の元に嫁ぎたいと言ったらどうしよう。許さん。

 いかんいかん。どうも愛しい妻の事となると思考が馬鹿になる。顔がにやけてみっともなくなっていないか心配だから、きゅっと口を結んで、気持ちだけでなく顔も引き締めた。

 考えたくないが、チェリー嬢と殿下の顔を思い出す。すると、途端に、スンッと、高ぶった気持ちが急降下して冷静になれるのだから、こういう冷静になりたい時の効果は抜群だ。

「ビオラ嬢、ちょっといいかな?」

 いや、きっとウスベニじゃなくて、ローズ嬢を見ているに違いない。俺のビオラはローズ嬢を非常に尊敬していると言っていたからな。

 そんな彼女の気をひきたくて、俺を見て欲しくて名を呼んだが、ちょっとだけウスベニの事が気にかかるため声のトーンが低くなってしまったかもしれない。



※※※※



 あの後すぐ、キャメラに収めた写真を現像して父に見せた。

 色々考えた。伯爵家の次期当主であるチェリー嬢の兄に先に見せて協力を仰ごうとか、いきなり衆目の中でばばーんと証拠を突き付けて、チェリー嬢と殿下を追い込んでさっさとケリつけようとか。
 かたつむりにはアジサイのほうが似合うかもしれないが、殿下には桜でも十分お似合いだろう。

 ふたりにもそこそこ幸せになる権利もあると思う。まだ結婚していないし、托卵未遂の段階なのだから。慰謝料とか諸々の事をきちんと果たしてくれたらそれでいい。

 小さい事を気にしすぎて、ごちゃごちゃややこしくしたら、俺とビオラの明るい未来がどんどん遠のいて影が差す事になりかねないからな。

 結局、父に話す事が、誰にとってもダメージが少ないように取り計らってくれると判断した。それに、父が伯爵と話し合いをして、婚約の話を円満に無かった事にしてくれさえすれば、一番早くチェリー嬢とさっさと縁が切れると思ったからだ。

 もともと相性もなにもかも悪い俺と彼女だ。彼女だって、殿下と結婚出来ると知れば飛び上がって喜ぶだろう。殿下は……知らん。だが、元平民で伯爵の血を継いでいないとはいえ、俺という婚約者のいる令嬢を好き放題したのだ。責任は取ってもらおう。いっそ、殿下の子を身ごもってくれていたほうが話が早いかもしれない。

 なんにせよ、俺もチェリー嬢もまだ未成年だ。解消には、どうしたって双方の親の承諾が必要だ。チェリー嬢は連れ子だから立場は弱いだろう。母親の立場を考慮して、伯爵に俺との婚約が嫌だと伝えられなかったのかもしれない。

 写真を見た父は、数分の間写真を穴が開くんじゃないかと思うほど見つめていた。

『こ、これは……合成とかではなく?』

『合成して何になるというのですか! ネガだってある。それに、そのドレスや殿下の服装は先日の夜会の時のものです。あれから現像まで数日だから、そんな小細工できる期間なんてないですって! 父上、だから言ったでしょう? 俺とチェリー嬢は合わないんです。さっさと解消してくれていたら、チェリー嬢も愛する殿下とそんな風にコソコソしなくてすんだし、俺だって、彼女に振り回されて恥をかかされずにすんだものを……』

『何かの間違い……ではないよなあ……。困ったな』

 俺の反論を聞いて、父は手の指を組んで眉間の前でポーズをとった。肘を机についてため息を長く一息つく。

『父上が困ろうがなんだろうが、最短の期日で解消してくれないのなら、俺だって考えがありますからね? 焼き増しした写真はたくさんあるから、王宮や学園にそれをバラま……んんっ! こほん。切羽詰まった俺が、ぼんやりしてしまい、ついうっかりあちこちで落としたりとか……』

『わー、やめてくれ。相手は王族だぞ? くそ、チェリー嬢も、よりにもよって、なんて面倒な相手を選んだん……んんっ。マロウ、すぐに伯爵と話をするから、絶対に先走った事をするなよ? いいな?』

『それは、今後の父上の行動と結果次第だとだけ』

 父は情にあつい。長年の親友である伯爵の出方によっては、成果が得られないどころか、俺とチェリー嬢との結婚の日を決めて帰って来るかもしれない。

 俺は、父の事を信用していないわけではない。そう、ほんのちょっとだけ不安なだけだ。

 父がより真剣に結果を伴った伯爵との話し合いができるように、さらに父の尻に火をつける内容を伝える事に決めた。



※キャメラは、昔のフィルム式だと思ってください。若い子は知らないかな? ご存じなければ興味がありましたら調べてみてくださいませ。


※ 長くなったので数回にわけます。次回明け方くらいにはアップできるかと思います
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

処理中です...