【完結・R18】迷子になったあげく、いかがわしい場面に遭遇したら恋人が出来ました

にじくす まさしよ

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今日も俺のビオラは可愛い②

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『……それならいいのですがね。そうそう、そういえば、母上はどちらに? 母上にも相談せねば……報告、連絡、相談は大事なのでしょう?』

 俺が、母のいるだろうに向かい顔を向けた。そして、ソファから立ち上がるふりをして今すぐ母の元へ急ごうと中腰になる。

『やめてくれ! マジでそれだけはやめてくれ! 俺が取り付けた縁談相手がこんな女性だと知ったら、気の弱い優しくて天使なナデシコさんが倒れてしまう! そうなったら俺は……』

『愛する母上の事が心配なら、事業のためとかなんとか理由は適当でいいので、さっさと俺とチェリー嬢との婚約解消をお願いします』

『わ、わかった……。切羽詰まっているとはいえ、ナデシコさんを奈落の底に突き落とそうとするだなんて。小さい頃は、こんな悪だくみが出来るような子じゃなかったのに……ああ、素直で可愛らしいマロウはどこに……』

『父上が、俺をこのように育てたのでしょう? 一族の男の中で一番小さいから舐められるなって、厳しく』

『そうだけど……』

 父は母にめっぽう弱い。けれど、俺から見て母はとても逞しい。外見は父の言うように嫋やかですぐに折れそうなほど儚げだが、この家の誰よりも芯が強く決して折れない。好奇心もいっぱいで、今回の事なんかは面白がってチェリー嬢と殿下に根掘り葉掘り聞き出そうとワクワクしそうだ。

『あと、次の相手は、俺が自分で選びますから。父上にまかせていては、見る目がなさ過ぎて、また同じような女性かもっとひどい女性になったら……そんな事になったら、俺は悲しみのあまり、今回の事まで全て母上にぶちまけてしまうかもしれませんね? 例えば、父上が母に内緒で使いもしない大工道具のプロ用一式を購入して隠し持っているとか、DIYを気取って母の大切にしている花壇の周辺の柵を木っ端みじんに壊したのも、犯人をうやむやにしたようですがね。実はインパクトドライバーでコースレッドを打ち込んだ父上が勢い余ってヤってしまった事とか。折れた木が、母の大好きな花を折ってしまって流石の母も泣いていましたね』

『ぐぅ……か弱いナデシコさんを盾にするとは。我が息子ながらなんという悪辣な……』

『そもそも、殿下の子種を受け入れたチェリー嬢を迎え入れるわけにはいかないでしょう?』

『……だなあ。しかし、お前との縁談がなくなったら、チェリー嬢にまともな相手が出来ないって伯爵が泣きついてきそうだ……』

『チェリー嬢には愛し愛される殿下がいるではありませんか! デンファレ殿下と美しい(笑)チェリー嬢。今世紀一番のお似合いカップルでしょう』

『殿下はキンギョソウ侯爵家に……』

『いとこ殿であるローズ嬢に、下半身が軟体動物のようにゆるゆる(ぬめぬめ)のデンデ……デンファレ殿下が婿入りするなんて阻止せねば。それこそ、キンギョソウ侯爵家に、婿が外に何人も子供をつくるとか、大醜聞、修羅場になるかと。そうなれば、親戚筋の我が家にも余波が……ああ、やはり、俺では手に負えないので今すぐ母上の所に相談に行かないと……そうそう、先日母上の大切にしている、傷があんまりつかないはずの、ウォールナットの100年もののテーブルに傷が入ったのも、確か父上が隠し持ったサンダーでもっとすべすべになって光沢が出るとか言って……』

『くそっ! わかったよ! わかったから!』

 父ももう無理だと理解しているのか、翌日には伯爵の所に急いだ。

 だが、やはり伯爵がごねているようだ。殿下との縁をと考えようにも、荒唐無稽すぎるし、チェリー嬢にも殿下にも領地も何もないのだから、後妻の子をみすみす不幸には出来ない。事もあろうに、俺とこのまま結婚させて、チェリー嬢の好きにさせろとまで言われたとか。

 なんでも、美しい(笑)チェリー嬢が産む子は、たとえ誰の種であろうとも、俺の子、ゼニアオイ侯爵家の後継者なんだと。

ふ・ざ・け・る・な

 聞いた瞬間、部屋に飾っている剣を手に取り、ブロッサム伯爵の所に乗り込もうとした俺を、父が必死にとめた。

 止めなくてもいいのに。俺はカッコウではない。チェリー嬢を、寝取られて別の男の子を孕んでもそれでも妻にしたいほど愛しているのなら話は違っただろうが、俺にはそんな趣味は、これっぽっちも、ゾウリムシほどもない。

『わかった。剣は片付ける』

『わかってくれたか!』

 そうだ、父の秘蔵のコレクションの中に、長さ1メートル強のバールがあったな。
  剣だと危ない。決闘など野蛮だ。考え直そうと思う。

  危うく伯爵に傷を負わすところだった。

 バールの重量は2キロくらいか。たしか、伯爵の家も修繕が必要な個所があるとか言っていた。業者だと高くつくから、素人工事だが俺が直しにいくか。
 素人工事だし、バールの扱いなど知らん。

  ふりおろして何度も手からすっぽ抜けて壁に穴が開くかもしれないが、あんな提案をするような伯爵は、こんなうっかりな俺を可愛がってくれている。
  殿下の子を身ごもった(※まだ身ごもってません)チェリー嬢を嫁がせようとするほどだ。義理の息子になる予定だった可愛い俺を寛大に許してくれるだろう。

 婚約解消になっても、伯爵とは、平和的に仲良くしたいからな。

  これまで、こうした俺の努力が足らなかったのかもしれない。チェリー嬢だって、そんな俺なら見直して接してくれるようになるかも。

  だが、俺にはすでに愛するビオラがいる。

  チェリー嬢には、俺なんかは勿体ない。初心を貫いて殿下と幸せな未来をつかみ取って欲しい。

 修繕は、俺のこれまでの礼だから、遠慮なく受け取ってもらおう。

『父上、ちょっと工具をいくつか借りますね。一番大きいバールと、電ノコと、一番大きいハンマーと、一番大きいモンキーレンチと、一番パワーの強い18Vのインパクトドライバーと……そうそう、汗をかくでしょうから、オレンジの羽の大きな工場用の扇風機は爽やかな風が出るので、是非とも至近距離で伯爵に堪能してもらいましょう。かつらが飛んでしまうでしょうけどね』

『やめろ。何を考えているのか丸わかりだ! 伯爵邸を物理的に潰す気か!』

『破壊など人聞きが悪いですね。俺はただ、伯爵の家を修繕しにいくだけです』

『やめろって! 俺だってここまで馬鹿にされては黙っていないから。少々時間はかかるが……』

『待てませんって。待っている間に子供が出来て、俺との子だとか言い出したらどうするんです。やはり母上に相談して……』

『最短でなんとかしよう』

『最初からそのようにしてください。父上と伯爵が話をしている間、工具持って加勢……んんんんっ!  DIYをしておきますね』

『来るなっ!』

 顎が外れんばかりの思いに、俺だけでなく父もなったようで、今後の付き合いを考え直すとまでぼそっと呟いたのにはびっくりした。

 父と伯爵の友人関係は、20年ほどになるという。お互い切磋琢磨しあったライバルでもあったらしく、困った時には支え合った戦友みたいなものだと誇らしげに言っていた。

  そんな父が、伯爵に見切りをつけるとは思わなかった。





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