【完結・R18】迷子になったあげく、いかがわしい場面に遭遇したら恋人が出来ました

にじくす まさしよ

文字の大きさ
29 / 39

13 

しおりを挟む
 チェリーは、義父である伯爵のこれまでの事を淡々と述べていった。

 マロウ様との婚約の事以外では大切にしてもらっていた事、自分たちには誠実に接してくれていた事。私たちは、口を閉ざして、恐らくは伯爵とのやり取りを思い出しつつ話すチェリーを見守っていた。

「今はもう過去をどうこうじゃなく、彼と一緒に歩む未来を向いていたいんです」

 凛とした表情でしっかりとそう言い切ったチェリーは、まるで不可侵の女神様のように美しくて素敵だった。

「義父は、私には思いつかないくらいの考えや酷い行動をしてきたのかもしれません。でも、屋敷の人たちには尊敬されていたし、反省してこれまでの事を償うのなら、私にはもう何も言う事はありません……。義兄は立派な人だから、義父の事をしっかり見てくれると思います。それに、母は義父を畏れていますけれど、愛していると思うんです。そうじゃなかったら、義父が倒れた時に出ていったと思うし……。たぶんですが、義父が牢屋にいくのなら、牢屋についていくと思います。だから、義父を酷く処罰しないでくれて嬉しいです」

 後で、私にはこっそり、『皆の前だから、あんな風に言っちゃったけど。あ、あれも本心なのよ? でもね、過去を忘れたいけどそれは無理だから、やっぱり腹立ってる。みみっちいし情けないし、さっさとお母さんには、あんなやつ捨ててもらいたい。でも、もういいっていうか。いつかね、伯爵に会った時にはいっぱい文句を言ってやるの。それでね、私とファーレの子の面倒を見させてやるんだから。絶対に、小さな子に振り回されて毎日ヘトヘトにさせてやるの。ふふふ、ざまあみろってね』って笑っていた。

 なんだか、チェリーらしくて、私も笑ってしまった。

 もしも、伯爵が頑ななままだったら、今こうして笑っていられないと思う。チェリーを育てたのだから、彼女のお母様もとても愛情深くパワーあふれる魅力的な人なのだろう。
 落ち着いたら、マロウ様と一緒に、チェリーのお母様に会いに行きたいなと思う。ついでに伯爵のお見舞いも。

 殿下の商会と伯爵の取引は、チェリーと結婚する事で十分すぎるほどの繋がりが持てる事から、チェリーの義兄である現伯爵となったカスミ様が丁重に断りを入れた。ただ、ビジネスとしての取引なら大歓迎であり、殿下と話し合った結果、ライフゲームというおもちゃを実装販売するために、ブロッサム伯爵領で手掛ける事になったらしい。

 元伯爵は、すでに伯爵領の片隅の、少し裕福な平民が住む程度の一軒家で、夫婦ふたりきりの生活を送っている。そこは、チェリーのおばあ様が入院している病院に近い。とても住みやすく、静かに余生を送れそうだという事だ。

 あのあと、すぐに私たちは王都の学園に戻った。といっても、学生はほとんどおらず、マロウ様たちの学年の卒業式の前だから、なんとなく寂しさが漂いシーンとしていた。

 無事にマロウ様が、誰よりも立派に卒業された。殿下が卒業生の総代で、女性生徒たちはキャアキャア彼を見ていた。でも、私の目にはマロウ様しか入らなかった。
 チェリーも当初の予定通り卒業した。私は、これからなかなか会えなくなる事が悲しくて、人目につかないいつもの部活動の部屋で一緒に泣いた。


「ビオラ嬢、遠く離れてしまうが、チェリーとこれからも仲良くしてやってくれ」

「畏まりました殿下。ですが、言われなくとも、わたくしとチェリーはずっと友達ですから」

 殿下とチェリーは、まだ公で一緒にはいられない。ローズ様とともに、城に戻る殿下を切なそうにチェリーが見送るのを見て、胸がきゅって痛んだ。

「チェリー……、もう少しだからね」

「ええ、ビオラ。私、今までだって待てた。だから、まだ待てるわ。それに、今はビオラや皆がいるんだもの。大丈夫」

 私たちは手を握り、これからの事が上手く行くよう祈りながら大胆不敵に微笑み合った。

「ビオラ、俺たちもそろそろ行こうか」

「はい、マロウ様。チェリー、また会いましょうね」

「ええ、またね」

 ウスベニ様がチェリーを迎えに来てくれたので、私たちも解散した。

 私はマロウ様と一緒に、ゼニアオイ侯爵の家に来ていた。ご両親はすでに応接室で待機されているようで、これから正式に挨拶にいくのだ。

 チェリーよりもちんちくりんで頼りないから、嫌われたらどうしようと思っていたけれど、私の事をマロウ様とウスベニ様から聞き、私の写真を見て今のところは気に入ってくださっているようでホッとしている。

 ところで、私の写真はいつ撮ったのだろうと訝しんでい訊ねたところ、マロウ様は少し慌てた。なにかやましい事があるのかと問いただすと白状してくれた。

「実は……隠し撮りをしていた……ビオラの自然な笑顔をずっと手元に置いておきたくて。すまない、写真は全て渡すから!」

 そうして、マロウ様が隠れて撮った色んな姿の写真、300枚が私の手元に来た。どうみても、変な表情のものもあるのに、それすら可愛いって幸せそうに彼が笑うものだから、ちょっとくすぐったいような気分になる。
 わりとかわいく撮れているものが多くて、取り上げられてしゅんとしているマロウ様に、私がこれならいいと渡したのはその中の5枚だけだ。

 私もびっくりした、別人じゃないかなと思うほど綺麗に取れていた写真は、パウンドケーキに使うためにゼニアオイの花弁を綺麗に並べている時のものだった。好きな人を思い浮かべている時の、女の子の恋する表情はこんなにも綺麗なのかと、自分の顔なのにマジマジ食い入るように見てしまった。

 その写真は、なんでもマロウ様の胸ポケットにいつも忍ばせているらしい。少し恥ずかしいけれど、なんだか誇らしくも嬉しくもある。

 マロウ様は、馬車に乗り込むなり、私を膝の上に乗せた。ことある毎にキスを強請られ数えきれないくらい応えていると、馬車が止まった。
 すると、マロウ様は私を膝の上から降ろして、真剣な表情をするとビロードで覆われた箱を差し出してきた。

「ビオラ、これを受け取って欲しい」

 マロウ様から、馬車の中で、ずっしりと色んな意味で重たい、イヤリングとネックレスを手渡される。どう見ても、高価そうだし、歴史ある貴重なもののようだ。


「マロウ様、これは?」

「うちに代々伝えられる、侯爵夫人に与えられる家宝だ。母からもビオラに渡すように言われていてね。俺との式でそれをつけて欲しい。すでにその指につけてもらっている石は、もともとそのイヤリングとネックレスのセットなんだ。俺の妻である君の物だ」

「そんな……立派なものをわたくしが……あの、マロウ様。わたくし、今でもやっぱり自信がないんです。……本当にわたくしでいいのかなって、いつも考えてしまうんです」

 ゼニアオイ侯爵も、歴史ある貴族だ。おそらく、とんでもない価値のある値段のつけられないかもしれなさそうな宝飾品を見て、押しつぶされそうなほどのプレッシャーが私を襲う。手が震えて落としそうで怖い。

 あっという間に、しゅるしゅると、マロウ様と一緒にいれば無敵なんだとか思う強い心が萎んでいく。


「ビオラッ! 俺は、ビオラでいいんじゃない。ビオラがいいんだ。俺と結婚する事で辛い道もあるかせるかもしれないが、俺の側にいてくれ」

 でも、これをつけるに相応しい女性になると決めた気持ちが、マロウ様の言葉で何度も何度も蘇ってくるのだ。

 ああ、私にはマロウ様だけだ。この人がいないと、私はダメなんだ。

「マロウ様、嬉しい……。ずっと側にいてくださいませ。愛しています」

「俺のほうが、きっと愛している。一生離さない」

 馬車の中、ぎゅっと抱きしめ合うその苦しいほどの腕の力を感じながら、その力よりももっと強くて大きい彼の愛に包まれると、幸せすぎて体が爆発しそうなほど熱くなる。

 そっと、アレキサンドライトの指輪をはめたほうの指を絡めるように手を重ねられた。

「ビオラ、俺の唯一無二の愛する妻は、この石よりももっと気高く美しい。俺の方こそ、ビオラを捕らえたくてたまらないんだ。俺だけが入れる部屋に閉じ込めて、繋ぎ止めてしまいたいほど」

 馬車の中の熱気と、彼の熱い想いを体中が包みこむ。ぽーっとした頭で、なんだかちょっと恐ろしいような言葉を聞いた気がする。でも、彼に愛される悦びが、そんな小さな違和感を消し飛ばせ、私はますます彼に溺れていくのだった。



※作者は現在、見直す度に文字数が激増する呪いにかかっております。悪しからずご了承ください。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る

基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」 若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。 実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。 一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。 巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。 ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。 けれど。 「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」 結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。 ※復縁、元サヤ無しです。 ※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました ※えろありです ※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ) ※タイトル変更→旧題:黒い結婚

立派な淑女に育てたはずなのに

茜菫
恋愛
愛する男と親友に裏切られた魔女レアケは、森の奥にある古びた塔に住んでいた。 その塔は国が管理しており、魔女には身の回りの世話をする侍女がつけられていた。 ある日、新しい侍女として年若い、口悪い、礼儀のなっていないやせ細った少女がやってきた。 レアケは少女の秘めた才を見出し、少女を立派な淑女に育て、同時に立派な魔法使いに育てた。 少女が塔から去り、数年経ったある日のこと。 「迎えに来ましたよ、私の魔女。さあ、結婚しましょう」 「……いや、あなただれよ!?」 少女を立派な淑女に育てたはずなのに、後に見知らぬ紳士に求婚される魔女の話。 (2024/12/01 改稿) ムーンライトノベルズにも投稿しています。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...