完結R18 異世界に召喚されたら、いきなり頬を叩かれました。

にじくす まさしよ

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異世界に行きたいJK 

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 はぁ、はぁ、はぁ……!

 息が続かない。唾の一滴もないというのに咽を上下させる。

「……っ! も、ここ、まで……はぁ、くれば……!」

 膝に手を当てて、顔を下に向け荒々しい息遣いを少しでも鎮めるかのようにゆっくり息をしようと試みた。苦しい。左の脇腹がとても痛くて堪らない。

 喘息はほとんど治っているけれど、季節の変わり目や冬、そして激しい運動はそれを再燃するから気を付けるようにしていた。

 軽く発作が起こり始めている。ポケットに常備しているスプレーを取り出し、吸い込もうとしたその時。

「リーィアー、鬼ごっこは、もう、おわりぃ?」

 クスクス笑いながら、あの子たちが背後に追いついたようだ。前は壁で、逃げるために路地に逃げ込んだ先が袋小路だとは思わなかった。

 上を見上げても、高い塀に囲われていて逃げ場がない。


「はぁ、はぁ……」

「あんたが逃げるからさ、私たちまで疲れたじゃん。でもまあ? 久しぶりの鬼ごっこ、楽しかったかもー? ふふ」

「ほんとほんと。遊んであげるって言っただけなのに、いきなり何なの? まるで私たちがいじめているみたいじゃない。失礼しちゃーう。あはは!」

 彼女たちの後ろには自転車がある。私が走って逃げるのに、自転車でゆっくり狩りの獲物を追い詰めるかのようにあざけりながら追いかけて来たのに疲れるわけがない。

「……」

 きっと睨むと、リーダ―格の女の子が方眉をあげて面白くなさそうに口を尖らせる。彼女たちにとって、私は従順で、思い通りに動く弱い生き物でなければならない。

「なんなのよ、その目、は! リアのくせにムカつくんだよ! うちに居候しているだけの病人が!」

「……うちの両親の遺した家や遺産目当てに私を引き取ったくせに、よく言うわね!」

 2年前、両親が交通事故で他界した。父方の叔父が私をひきとってくれたのである。

 引き取ってくれたといっても、両親の遺してくれた家に、叔父夫婦と、目の前で私を憎々し気に睨みつけてくるいとこ──テイル──が押しかけてきて住みだしたというのが正しいかもしれない。
 私の家族の家だった箱は、あっという間に彼らに占領されてしまい、私は小さなウォークインクローゼットで住むようになった。

 両親の思い出の写真などは、学校に行っている間にゴミに出され、形見である貴金属は売り払われた。

 当初は優しく接してくれていた叔父夫婦を、親戚だからといって簡単に信じた私が愚かだったのだ。嘆いてももう遅かった。

 弁護士のおじいちゃん先生が、私が成人するまで遺産は叔父たちの手に絶対に入らないようになっているみたいで、管理してくれている。
 生活費は、父が私に生前譲ってくれた株の配当金で十分賄えるし、父が亡くなったと同時に、家のローンはチャラになっているから、金銭的には彼らに負担はかかっていないどころか、余裕のある生活ぶりに変貌したはずだ。

 叔父は、手に職を持っているから転々としていて定職が無い。叔母は、パートとは名ばかりの週に3時間だけ客のほとんど来ない喫茶店で遊んでいるようなものだった。

 同い年のいとこは、本来なら私の通う私立の高校に通えるほどの経済力はなかった。高校無償化とはいえ、雑費はかかる。私の通う高校は、その雑費が高額なのだ。初年度に制服などをひと揃えするだけでも80万は余裕で超える。
 寄付金も相応につまないといけないから、叔父たちの経済力で彼女を通わすのはかなり厳しかったはず。しかも、彼女が学力など秀でた何かがあるのなら、奨学金も頂ける制度はあるものの、よくて中の上だからそれは不可能。

 転がり込んできた大金で、叔父たちはそれまでより裕福な生活をしているのだ。

 おっとりしている高校で、いじめなんてほとんどなかった。でも、両親が揃っていてるのが当たり前だという頭の固い保護者も多く、孤児になった私はあっという間に孤立した。
 わずかにいる、アウトローな学生とテイルが仲良くし出すと、あからさまにいじめが始まる。先生には隠れて、どちらかというと、バレても先生は孤児を煙たがっているから、テイルたちの都合のいい言い訳を信じていた。

 もう、こんな世界は嫌だ。辛いばっかりで、ちっとも幸せなんかじゃない。お父さん、お母さん、どうして私を置いていっちゃったの?



 テイルが、私の胸をどんっと押した事で倒れた。息が苦しくて、スプレーを吸おうとしたら、スプレーを取り上げられた。その上、スプレーを遠くに放り投げられる。

「ったく、生意気なんだよ! いつもいつも、私を見下して馬鹿にして! 両親が死んだんなら、さっさとあんたも逝ったらどうなんだよ! そのスプレーだって、これ見よがしにいつも吸って……! 鬱陶しいんだよ! 私の前から早く消えちゃってよ!」

 怒りのままテイルがそう言うと、流石に言い過ぎたと思ったのかバツが悪そうな顔をする。後ろのテイルのお友達も、それは言い過ぎだなんてテイルを窘め始めた。

 言われなくても、私だってお父さんやお母さんに会いに行きたいよ……!

「テイル、ヤバいよ。キツいって。冗談じゃすまないよ……。それに、喘息は死んじゃうって、お母さんが言ってた」
「落ち着いて。リア、あんたも言い過ぎだって。あんな風にいったらテイルだって……」

「う、うるさい、うるさいうるさい! あんたらに何がわかるんだよ!」

 彼女たちは、面白おかしければいいだけだ。本気で痛めつける気はない。だから、私も強気でいられた。お友達ふたりに言われて、テイルがもっと意固地になってきた。

 でも、今は、テイルたちどころではない。

 ひゅー……ひゅー……

 呼吸が出来なくなってきた。声が出なくて指先が震える。咽から笛を吹くような音がしているのがわかった。視界の角にあるスプレーしか見えないし考えられない。このまま、じっとしていたら、お父さんお母さんに会えるかなってふと思う。だけど。

『リア、誕生日おめでとう。誰よりも幸せになってね』
『リア、結婚はしなくていいぞー。ずっとお父さんといっしょにいような』

 このまま死んじゃったら、私を愛してくれたふたりがどれほど悲しむだろう。

 テイルたちが言い争っている脇を、四つん這いで移動し、なんとかスプレーを手に取って吸い込もうとした。

 その時、私は突然体が浮遊するような不思議な感覚に体が捕らわれた。スプレーを吸い込んでいないのに、不思議と呼吸がすぅっと楽になったかと思うと、目の前にいたテイルたちの姿が擦れて消えていったのだった。
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