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プロローグ
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「早くついて来るんだ……」
恐ろしいほどの低い声、大きな体躯の持ち主は、王子の護衛騎士である。わたくしは、首に魔法を封じられるアイテムを嵌められており、どう考えても目の前を歩く彼には申し訳程度の護身術では敵わないだろう。
「申し訳ございません……。はぁ……、はぁ……」
「……、速かったか?」
「いえ、とんでもございませんわ」
長い廊下を、わたくしを罪人のように連行するこの人の名はナイトハルト様という。彼は、この世界では地位もあり、性格も不愛想ではあるが優しい部類だ。ただ、彼の太い眉に、大きな鼻、ぶあつい唇や切れ長の瞳は、女性たちに敬遠される顔貌をしている。さらに、スマートで華奢なほど好まれるので、彼のように鍛え上げられた背も高く、腕がまるで女性の太ももほどの迫力ある体型は、貴族令嬢にとっては恐怖の対象なのだ。
わたくしは、罪人のようにと先ほど説明したが、正真正銘「罪人」として、罪を犯した貴賓が収容される塔に連行されている。
「いや……。だが、あまりゆっくりと行くわけには……」
「職責であると承知しております……。どうぞ、おかまいなく」
今日は、婚約者だったはずの第一王子の生誕祭である。それにあわせた豪華絢爛なドレスは重く、コルセットで体幹をぎゅうぎゅうに締め付けられており、靴も勿論先が細くヒールは10センチはある。
会場では、負担にならないように魔法で保護していたが、今はそれを封じられており、全体重がピンヒールにかかり足が痛く、息が苦しい。
会場から塔まではおよそ1キロ。まだ半分ほどしか進んでいないが、すでに意識がもうろうとしてきている。
ナイトハルト様は、そんなわたくしを気遣ってくださるが、なにせ、今のわたくしは罪人だ。手心を加えれば彼が罪に問われてしまう。なんとか、自力で歩かねばならない。
ふうふう、はあはあと、必死に足をすすめるが、だんだん視界にモヤがかかってきた。
「……! イザベル嬢!」
ついに目の前が暗転した。もう体を動かせないどころか、立っていられない。ゆっくりと床に倒れていくわたくしに、焦るナイトハルト様の声が聞こえた。
「ナイト、ハル……ま」
「すまない。私などに触れられて不愉快でしょうけれど、このまま触れる事をお許しください」
「うれ、……し、い……」
「イザベル嬢? 今なんと? いかん、イザベル嬢、しっかりするんだ!」
わたくしを冷遇し続けた王子など、こちらから捨ててしまいたかった。王子から酷い扱いを受ける度に、後ろにいるナイトハルト様だけが表立ってはかばう事が出来ずに申し訳なさそうに、かつ、優しい眼差しをわたくしに向けてくださっていた。それに……。
──ああ、なんて逞しい腕……。もっとわたくしを抱きしめてくださいませ。
わたくしは、ナイトハルト様の温かい筋肉に包まれる、そんないい夢を最期に見ていたのかもしれない──
恐ろしいほどの低い声、大きな体躯の持ち主は、王子の護衛騎士である。わたくしは、首に魔法を封じられるアイテムを嵌められており、どう考えても目の前を歩く彼には申し訳程度の護身術では敵わないだろう。
「申し訳ございません……。はぁ……、はぁ……」
「……、速かったか?」
「いえ、とんでもございませんわ」
長い廊下を、わたくしを罪人のように連行するこの人の名はナイトハルト様という。彼は、この世界では地位もあり、性格も不愛想ではあるが優しい部類だ。ただ、彼の太い眉に、大きな鼻、ぶあつい唇や切れ長の瞳は、女性たちに敬遠される顔貌をしている。さらに、スマートで華奢なほど好まれるので、彼のように鍛え上げられた背も高く、腕がまるで女性の太ももほどの迫力ある体型は、貴族令嬢にとっては恐怖の対象なのだ。
わたくしは、罪人のようにと先ほど説明したが、正真正銘「罪人」として、罪を犯した貴賓が収容される塔に連行されている。
「いや……。だが、あまりゆっくりと行くわけには……」
「職責であると承知しております……。どうぞ、おかまいなく」
今日は、婚約者だったはずの第一王子の生誕祭である。それにあわせた豪華絢爛なドレスは重く、コルセットで体幹をぎゅうぎゅうに締め付けられており、靴も勿論先が細くヒールは10センチはある。
会場では、負担にならないように魔法で保護していたが、今はそれを封じられており、全体重がピンヒールにかかり足が痛く、息が苦しい。
会場から塔まではおよそ1キロ。まだ半分ほどしか進んでいないが、すでに意識がもうろうとしてきている。
ナイトハルト様は、そんなわたくしを気遣ってくださるが、なにせ、今のわたくしは罪人だ。手心を加えれば彼が罪に問われてしまう。なんとか、自力で歩かねばならない。
ふうふう、はあはあと、必死に足をすすめるが、だんだん視界にモヤがかかってきた。
「……! イザベル嬢!」
ついに目の前が暗転した。もう体を動かせないどころか、立っていられない。ゆっくりと床に倒れていくわたくしに、焦るナイトハルト様の声が聞こえた。
「ナイト、ハル……ま」
「すまない。私などに触れられて不愉快でしょうけれど、このまま触れる事をお許しください」
「うれ、……し、い……」
「イザベル嬢? 今なんと? いかん、イザベル嬢、しっかりするんだ!」
わたくしを冷遇し続けた王子など、こちらから捨ててしまいたかった。王子から酷い扱いを受ける度に、後ろにいるナイトハルト様だけが表立ってはかばう事が出来ずに申し訳なさそうに、かつ、優しい眼差しをわたくしに向けてくださっていた。それに……。
──ああ、なんて逞しい腕……。もっとわたくしを抱きしめてくださいませ。
わたくしは、ナイトハルト様の温かい筋肉に包まれる、そんないい夢を最期に見ていたのかもしれない──
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