4 / 23
いつまでも、引きこもりニートじゃ困るんだけど?
しおりを挟む
それからは、両親の言葉に甘えて、派遣会社に登録して単発バイトをしながら、ほぼ部屋で過ごした。単発だったバイトの日数が徐々に少なくなり、ここ半年ほどはもうバイトもせず部屋でひきこもり状態。
こんなことをしている場合じゃないのも、早くなんでもいいから、バイトだけでもしなきゃとは思うものの、いざとなると何もできなかった。
元上司にそれほど怖い思いもないし、人間自体が無理とかではない。ただ、どうしても頭でナニカしなきゃと思えば思うほど、心も体も動かなくなり、一日のほとんどを部屋で過ごすようになってしまう。
母が、看護師さんの知り合いのアドバイスを受けて、心が思った以上に傷ついているかもしれないし、その人の伝手があるいい精神科の先生がいるから傷を治しに行ってみようって言われたけど、私はごく普通で、精神病なんかじゃないって突っぱねた。
「お姉ちゃん、いい加減にしたらどう? ずーっと部屋にこもってさ。ちょっとは働いたらどうなの?」
「短詩か。勝手に入って来ないでよ。で、なんの用? 今いそがしいの」
いきなり入ってきたのは、双子の妹の短詩。私よりも快活で、いつも両親とも仲が良くて、友達も多い。おしゃれで笑顔の絶えない人気者。
短詩は、私と違って専門学校に行ったあと、専門分野の仕事先でずっと働いている。
短詩は短詩で、私に思うところがあるのか、尊敬されたり好かれたりはしてないと思う。体たらく状態の今ならわかるけれど、小さなころからずっとだ。
事あるごとに張り合ってマウントを取りに来られたのもあって、短詩の学力では入れない国公立大学を受験した。大学生活では、短詩に煩わされることなく、平穏な4年間を過ごせたなと、昔の栄光と平和を懐かしむ。
そんな妹を、鬱陶しく妬ましく思ったこともあるけれど、どっちかというと、羨ましい気持ちのほうが強いと思う。
今はこんなだけど、いつかもっといいところに就職して、心配や面倒をかけている両親や、小さな頃から私に張り合ってくる妹に、ちょっとした旅行をプレゼントしたいなあなんて気持ちが頭によぎる。
だからといってバイトをしようとは思えなかった。
私は、画面を見て手を動かす。キーボード操作だと、指を動かす範囲が広いけれど照準が合わせやすい。声を掛けられて、照準がズレてしまい、制限時間となってミッションが失敗に終わった。
「ああーほらぁ。短詩が声をかけてくるから、ミスったじゃない。あと一歩だったのに。ここまで来るのに大変なんだからね」
ミッション達成報酬は、イベントでもらえる限定キャラとガチャを回すための石だ。
天井は100回で、レアキャラ確定。もう100回で、ピックアップのレアキャラ確定だから、無課金の私にとっては、イベントやデイリーでのコツコツとした石集めは重要な任務であった。
「どこが忙しいのよ。どう見てもゲームしかしてないじゃん。学生の頃は優等生のいい子ちゃんだったのにねぇ。入った会社が悪かったのか、どこに入っても一緒だったのかわからないけどさぁ」
言葉だけだと心配と小言かと思えるが、短詩の口元がにやついているのが、ゲームの画面の端にうつっている。私がゲームばっかりしているのが嬉しいのだろう。
両親は、私のことを腫れ物を扱うかのような態度になった。一方、短詩は、一気に堕落した私を、ここぞとばかりに馬鹿にしてくる。
「もうちょっとしたら働くもの」
「もうちょっとっていつなのよ」
「それは……色々探してて、もうちょっとったらもうちょっとよ!」
「3年にもなると、もうちょっとって言わないんだけどねぇ。3年見つからないものが、もうちょっとで見つかるのぉ? いつまでも、引きこもりニートじゃ困るんだけど? あ、バイトもしてないから、ただの引きこもりだったぁ。あはは」
「うるさいなー!」
短詩とは、会話をするたびに大声で言い争ってしまう。学生のころはともかく、今の状況では、両親は短詩の肩を持っている。それがさらに私を追いつめた。
案の定、帰ってきた両親がここにやってきた。そして、短詩の言う通り、いつになったら引きこもりをやめるんだと顔を歪める。
「清玖、あなたね、約束の3年はこの間過ぎたのよ」
「わかってる」
「学生じゃないんだから、いつまでもお父さんの扶養のままじゃ困るんだぞ」
「わかってる」
「わかってる、わかってるって、わかってないから未だに面接の申し込みすらしないんじゃない」
「わかってるってば!」
私は、3人の姿も見ずに、ヘッドホンを付けたままパソコンデスクを叩く。痛くはなかったけれど、思いのほか音が大きくて自分が一番びっくりした。
こういう風にすれば、いつもはここから去っていくのに、なかなか向こうに行かなくて、胸のどこかで、嫌な予感が産まれてざわめいた。
こんなことをしている場合じゃないのも、早くなんでもいいから、バイトだけでもしなきゃとは思うものの、いざとなると何もできなかった。
元上司にそれほど怖い思いもないし、人間自体が無理とかではない。ただ、どうしても頭でナニカしなきゃと思えば思うほど、心も体も動かなくなり、一日のほとんどを部屋で過ごすようになってしまう。
母が、看護師さんの知り合いのアドバイスを受けて、心が思った以上に傷ついているかもしれないし、その人の伝手があるいい精神科の先生がいるから傷を治しに行ってみようって言われたけど、私はごく普通で、精神病なんかじゃないって突っぱねた。
「お姉ちゃん、いい加減にしたらどう? ずーっと部屋にこもってさ。ちょっとは働いたらどうなの?」
「短詩か。勝手に入って来ないでよ。で、なんの用? 今いそがしいの」
いきなり入ってきたのは、双子の妹の短詩。私よりも快活で、いつも両親とも仲が良くて、友達も多い。おしゃれで笑顔の絶えない人気者。
短詩は、私と違って専門学校に行ったあと、専門分野の仕事先でずっと働いている。
短詩は短詩で、私に思うところがあるのか、尊敬されたり好かれたりはしてないと思う。体たらく状態の今ならわかるけれど、小さなころからずっとだ。
事あるごとに張り合ってマウントを取りに来られたのもあって、短詩の学力では入れない国公立大学を受験した。大学生活では、短詩に煩わされることなく、平穏な4年間を過ごせたなと、昔の栄光と平和を懐かしむ。
そんな妹を、鬱陶しく妬ましく思ったこともあるけれど、どっちかというと、羨ましい気持ちのほうが強いと思う。
今はこんなだけど、いつかもっといいところに就職して、心配や面倒をかけている両親や、小さな頃から私に張り合ってくる妹に、ちょっとした旅行をプレゼントしたいなあなんて気持ちが頭によぎる。
だからといってバイトをしようとは思えなかった。
私は、画面を見て手を動かす。キーボード操作だと、指を動かす範囲が広いけれど照準が合わせやすい。声を掛けられて、照準がズレてしまい、制限時間となってミッションが失敗に終わった。
「ああーほらぁ。短詩が声をかけてくるから、ミスったじゃない。あと一歩だったのに。ここまで来るのに大変なんだからね」
ミッション達成報酬は、イベントでもらえる限定キャラとガチャを回すための石だ。
天井は100回で、レアキャラ確定。もう100回で、ピックアップのレアキャラ確定だから、無課金の私にとっては、イベントやデイリーでのコツコツとした石集めは重要な任務であった。
「どこが忙しいのよ。どう見てもゲームしかしてないじゃん。学生の頃は優等生のいい子ちゃんだったのにねぇ。入った会社が悪かったのか、どこに入っても一緒だったのかわからないけどさぁ」
言葉だけだと心配と小言かと思えるが、短詩の口元がにやついているのが、ゲームの画面の端にうつっている。私がゲームばっかりしているのが嬉しいのだろう。
両親は、私のことを腫れ物を扱うかのような態度になった。一方、短詩は、一気に堕落した私を、ここぞとばかりに馬鹿にしてくる。
「もうちょっとしたら働くもの」
「もうちょっとっていつなのよ」
「それは……色々探してて、もうちょっとったらもうちょっとよ!」
「3年にもなると、もうちょっとって言わないんだけどねぇ。3年見つからないものが、もうちょっとで見つかるのぉ? いつまでも、引きこもりニートじゃ困るんだけど? あ、バイトもしてないから、ただの引きこもりだったぁ。あはは」
「うるさいなー!」
短詩とは、会話をするたびに大声で言い争ってしまう。学生のころはともかく、今の状況では、両親は短詩の肩を持っている。それがさらに私を追いつめた。
案の定、帰ってきた両親がここにやってきた。そして、短詩の言う通り、いつになったら引きこもりをやめるんだと顔を歪める。
「清玖、あなたね、約束の3年はこの間過ぎたのよ」
「わかってる」
「学生じゃないんだから、いつまでもお父さんの扶養のままじゃ困るんだぞ」
「わかってる」
「わかってる、わかってるって、わかってないから未だに面接の申し込みすらしないんじゃない」
「わかってるってば!」
私は、3人の姿も見ずに、ヘッドホンを付けたままパソコンデスクを叩く。痛くはなかったけれど、思いのほか音が大きくて自分が一番びっくりした。
こういう風にすれば、いつもはここから去っていくのに、なかなか向こうに行かなくて、胸のどこかで、嫌な予感が産まれてざわめいた。
109
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳
どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。
一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。
聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。
居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。
左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。
かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。
今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。
彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。
怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて
ムーライトノベルでも先行掲載しています。
前半はあまりイチャイチャはありません。
イラストは青ちょびれさんに依頼しました
118話完結です。
ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。
りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~
行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる