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初恋のあなたとわたくし②※R15
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フラットと一緒にテラスに出て満月を見上げる。王城であるこの場所には灯りがともされているにも拘らず、一番強い月光が、イヴォンヌの銀の糸を煌めかせた。
テラス周囲には厳重に警備がなされている。二人きりのここには誰一人近寄る事すら出来ないだろう。
「イヴ」
そっと、体を引き寄せられ唇を合わせる。最初はふわりと、だが、徐々に深く激しくなっていく。セットされた髪が、王子の滑らかな手が頭を逃がさないとばかりに固定しているため乱れた。
「ん……はぁ……」
「……、このまま明日まで離したくない……。ちゅくっ」
「ん、あぁ……」
彼が何を望んでいるのか分からないほど初心ではない。
────嫌だ!
瞬間に沸き起こる思い。婚約者であるフラットの事は尊敬している。好きだし、今後は夫婦になり愛し合う人だ。嫌がるなんてとんでもないとその嫌悪の気持ちを押さえつける。けれど、どうしていいのかわからず、ただただ何も考えずに優しいこの人にすがった。
フラットは、小さく、お許しをと繰り返す美しく愛しい婚約者のその頑なな心ごと奪い去りたいと、体をかき抱きながら柔らかな唇を貪る。
王子の手が、まだふくらみの小さな彼女の胸に当てられた。指をひっかけて中に滑らせれば、あっという間にふにゃりとした先端に指先が届く。人差し指と中指でそこを少し遊べばあっという間に存在を主張するように尖る小指の先ほどの粒をくにくにいじった。
「あ、あんっ」
まだ未熟な部分と、徐々に匂い立つ色香の交じり合う彼女の白い首筋にちゅっと吸い付く。すると、紅色の花びらがそこに浮かび上がり、べろりと舐めあげた。
「イヴ……、イヴ!」
「ああ、これ以上は……、お止めくださいまし……」
足の付け根がぬめり出しているのを自覚してより身もだえる。嫌なのに、やめて欲しいのに彼の手で反応してしまう自分が嫌でたまらない。
顔を赤らめ、白い肌を染める彼女の小さな膨らみの胸に顔を埋める。だが、不埒な王子の気持ちや行動がお見通しのようにデコルテ部分が指先の侵入以外を許さなかった。
「……母上か」
このドレスは王子から贈られたものだが、最終的にデザインを許可して決めたのは王妃だ。息子の邪な考えを阻止するべく作られたであろうドレスの鞏固な壁に舌打ちをしそうになる。
そこへ、コツコツとテラスと会場の間の窓が軽く叩かれた。フラットは、イヴォンヌに自らのマントをかぶせて手櫛で髪を整える。
「殿下、そろそろ……」
「もうそんな時間か……。イヴ、別れの時間のようだ。名残惜しいが……」
「わたくしもですわ」
最後に軽く額にキスを落とし、王子はテラスから出て行く。流石にこの姿のイヴォンヌを衆目には晒せない。彼女を迎えに来た侯爵の使いの者に案内され、彼女は城から辞したのであった。
※※※※
小さな頃から、ずっと慕い恋焦がれた少年の姿を思い浮かべながら、暗い馬車の窓に映る自分の顔や乱れた髪、そして、婚約者が優しくかけてくれたマントを見つめる。ずっと側にいてくれる姉のような侍女は何も言わずに、イヴォンヌを気遣ってくれているのが分かった。
「……」
もう、口にする事が出来ない、大きな少年の名前。一緒に過ごした幸せな時間の中見せてくれた彼の笑顔と、最後に会った時の包帯でぐるぐる巻きになった顔、そして、拒絶の言葉と広い背中を思い出すと胸が痛い。
会えなくなって、もう何年経ったのだろう。背を向けられたあの時。あれがイヴォンヌに与えられた最期の機会であった。
父である侯爵は、それ以上の彼との中途半端な状態を許してはくれなかった。あの時、何らかの形で彼との将来が約束されなければ、一方通行の恋を諦めて前から非公式ではあるが王家からプレッシャーのあったフラットとの婚約を受け入れなければならなかったのである。フラット自身の意志もあり、正式な打診は止められていたようだが。
王都に来るたび、お茶会に参加していた彼女の美しさや聡明さ、どこに出しても恥ずかしくないほどのマナーは王都の社交界ですでに知らぬ者はいないほどであった。王家でだけでなく、各家から彼女自身や彼女の家に対して縁を結びたいと毎日のように手紙が届けられていたのである。
『ヴィー……。お前がヴァイス君を好きだと言うから様子を見て来た。だが、彼はどうだ? 好きであればあるほど、返されない想いは辛く悲しいものだ。私は、ヴィーに誰よりも幸せになって欲しい。彼の気持ちがない以上、これまでのように彼と会う事は許さん』
『そんな、お父さま!』
『そうよ、ヴィー……。政略とはいえ、気持ちを通じ合わせられのないのなら、泣くのはいつだって女なの。それに、戦だっていつ終わるかわからないわ? お願い、あんな危ない場所じゃなくて、この王都でお互いに尊重し愛し合える人と一緒になって……』
『お母さままで……』
これっぽっちも力のない自分の不甲斐なさが悔しい。会いに行けない現状が哀しく涙がぽろぽろと零れる。だが、何よりも、サヴァイヴの自分への気持ちが無い事が小さな胸を抉り、じくじくと治らない傷を作ってどんどんひどくなる。
物心ついた時にはすでに彼はイヴォンヌの中にあった。彼が全てだと言うほど、誰よりも勉強し、苦手な社交を頑張って来たのは、たった一人、社交に疎い彼だけのためだったはずなのに。
あれほど長い時をかけても、彼の恋心を得る事が終ぞなかった。それどころか、そっけなくされ嫌われたような気がして悲しかった最後の数年間。
それから、二度と彼の側に行く事が無くなった。小さなイヴォンヌの温めて来た初恋が、終わりを告げたのであった。
テラス周囲には厳重に警備がなされている。二人きりのここには誰一人近寄る事すら出来ないだろう。
「イヴ」
そっと、体を引き寄せられ唇を合わせる。最初はふわりと、だが、徐々に深く激しくなっていく。セットされた髪が、王子の滑らかな手が頭を逃がさないとばかりに固定しているため乱れた。
「ん……はぁ……」
「……、このまま明日まで離したくない……。ちゅくっ」
「ん、あぁ……」
彼が何を望んでいるのか分からないほど初心ではない。
────嫌だ!
瞬間に沸き起こる思い。婚約者であるフラットの事は尊敬している。好きだし、今後は夫婦になり愛し合う人だ。嫌がるなんてとんでもないとその嫌悪の気持ちを押さえつける。けれど、どうしていいのかわからず、ただただ何も考えずに優しいこの人にすがった。
フラットは、小さく、お許しをと繰り返す美しく愛しい婚約者のその頑なな心ごと奪い去りたいと、体をかき抱きながら柔らかな唇を貪る。
王子の手が、まだふくらみの小さな彼女の胸に当てられた。指をひっかけて中に滑らせれば、あっという間にふにゃりとした先端に指先が届く。人差し指と中指でそこを少し遊べばあっという間に存在を主張するように尖る小指の先ほどの粒をくにくにいじった。
「あ、あんっ」
まだ未熟な部分と、徐々に匂い立つ色香の交じり合う彼女の白い首筋にちゅっと吸い付く。すると、紅色の花びらがそこに浮かび上がり、べろりと舐めあげた。
「イヴ……、イヴ!」
「ああ、これ以上は……、お止めくださいまし……」
足の付け根がぬめり出しているのを自覚してより身もだえる。嫌なのに、やめて欲しいのに彼の手で反応してしまう自分が嫌でたまらない。
顔を赤らめ、白い肌を染める彼女の小さな膨らみの胸に顔を埋める。だが、不埒な王子の気持ちや行動がお見通しのようにデコルテ部分が指先の侵入以外を許さなかった。
「……母上か」
このドレスは王子から贈られたものだが、最終的にデザインを許可して決めたのは王妃だ。息子の邪な考えを阻止するべく作られたであろうドレスの鞏固な壁に舌打ちをしそうになる。
そこへ、コツコツとテラスと会場の間の窓が軽く叩かれた。フラットは、イヴォンヌに自らのマントをかぶせて手櫛で髪を整える。
「殿下、そろそろ……」
「もうそんな時間か……。イヴ、別れの時間のようだ。名残惜しいが……」
「わたくしもですわ」
最後に軽く額にキスを落とし、王子はテラスから出て行く。流石にこの姿のイヴォンヌを衆目には晒せない。彼女を迎えに来た侯爵の使いの者に案内され、彼女は城から辞したのであった。
※※※※
小さな頃から、ずっと慕い恋焦がれた少年の姿を思い浮かべながら、暗い馬車の窓に映る自分の顔や乱れた髪、そして、婚約者が優しくかけてくれたマントを見つめる。ずっと側にいてくれる姉のような侍女は何も言わずに、イヴォンヌを気遣ってくれているのが分かった。
「……」
もう、口にする事が出来ない、大きな少年の名前。一緒に過ごした幸せな時間の中見せてくれた彼の笑顔と、最後に会った時の包帯でぐるぐる巻きになった顔、そして、拒絶の言葉と広い背中を思い出すと胸が痛い。
会えなくなって、もう何年経ったのだろう。背を向けられたあの時。あれがイヴォンヌに与えられた最期の機会であった。
父である侯爵は、それ以上の彼との中途半端な状態を許してはくれなかった。あの時、何らかの形で彼との将来が約束されなければ、一方通行の恋を諦めて前から非公式ではあるが王家からプレッシャーのあったフラットとの婚約を受け入れなければならなかったのである。フラット自身の意志もあり、正式な打診は止められていたようだが。
王都に来るたび、お茶会に参加していた彼女の美しさや聡明さ、どこに出しても恥ずかしくないほどのマナーは王都の社交界ですでに知らぬ者はいないほどであった。王家でだけでなく、各家から彼女自身や彼女の家に対して縁を結びたいと毎日のように手紙が届けられていたのである。
『ヴィー……。お前がヴァイス君を好きだと言うから様子を見て来た。だが、彼はどうだ? 好きであればあるほど、返されない想いは辛く悲しいものだ。私は、ヴィーに誰よりも幸せになって欲しい。彼の気持ちがない以上、これまでのように彼と会う事は許さん』
『そんな、お父さま!』
『そうよ、ヴィー……。政略とはいえ、気持ちを通じ合わせられのないのなら、泣くのはいつだって女なの。それに、戦だっていつ終わるかわからないわ? お願い、あんな危ない場所じゃなくて、この王都でお互いに尊重し愛し合える人と一緒になって……』
『お母さままで……』
これっぽっちも力のない自分の不甲斐なさが悔しい。会いに行けない現状が哀しく涙がぽろぽろと零れる。だが、何よりも、サヴァイヴの自分への気持ちが無い事が小さな胸を抉り、じくじくと治らない傷を作ってどんどんひどくなる。
物心ついた時にはすでに彼はイヴォンヌの中にあった。彼が全てだと言うほど、誰よりも勉強し、苦手な社交を頑張って来たのは、たった一人、社交に疎い彼だけのためだったはずなのに。
あれほど長い時をかけても、彼の恋心を得る事が終ぞなかった。それどころか、そっけなくされ嫌われたような気がして悲しかった最後の数年間。
それから、二度と彼の側に行く事が無くなった。小さなイヴォンヌの温めて来た初恋が、終わりを告げたのであった。
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