【完結】【R18】初恋は甘く、手が届かない? ならば、その果実をもぎ取るだけだ~今宵、俺の上で美しく踊れ

にじくす まさしよ

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初恋のあなたとわたくし①

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「イヴォンヌ、さあ手を」
「はい、殿下……」

 イヴォンヌの白く華奢な手が、堂々たる彼の大きな手に乗せられた。王太子夫妻のダンスのあと、このホールで王家の一員たる第四王子とダンスを披露しなければならない。

「今日も美しいな」
「まあ……」

 目を細めてにこりと笑いながら、第四王子が彼の婚約者に対して心からのたった一言を伝えた。このうわべばかりの社交界での美辞麗句の中、彼の気持ちがよくわかり頬を染めて微笑み返す。

 すっと、彼らが真正面に立つ姿は、まるでそこだけを幻想的に切り取られたかのように錯覚してしまう。
  お互いの色を衣装に取り入れつつ、要所要所でおそろいの飾りをつけた一対が、滑らかに音楽に合わせて見事なステップを踏んでいく。

 王子のホールドは安定しており、思う存分体を預ける。イヴォンヌの姿勢もしっかり体幹を保持されており、王子もまた彼女を苦もなく風に舞う花弁のように踊らせた。

 ほうっとため息を吐く貴婦人たち。彼女たちをエスコートする男性たちも、給餌や警備担当までちらちらと二人の見事なひと時を見つめていた。

 徐々に激しく、だが華麗に重力など感じさせる事無く大きく二人は踊り、やがて、静かに止まると優雅に礼をした。

 会場から割れんばかりの拍手と賛辞が贈られる。その歓声の中、王子は愛しい婚約者の腰を引き寄せ頬にキスをした。

「殿下っ……」

 蒸気した頬の赤みは、ダンスをした後だからか、それとも────

「ふふ、しばらく会えなかったからね。今日は時間の許す限り私と共に」
「はい、よろこんで……」

 王子は、二人に用意された王家のスペースに彼女をエスコートする。彼女にダンスを申し込もうと狙う貴公子たちに付け入る隙をあたえないように、さらにぐっと腰に当てた手に力を込めた。

「イヴ、ああ、残念だ……。母上や義姉上が、イヴの独り占めを許してくれないらしい」
「まぁ……。ふふふ、殿下こそ、皆様が声がかかるのを今か今かとお待ちですわ?」
「はぁ……、君と折角こうして会えたのに。それじゃあ、行ってくるよ」

 王子は立ち上がると、腰をかがめてイヴォンヌの頬に唇を当てる。ちゅっと吸い付くように当てられたそこから、リップ音がなり、近くで聞こえた初心なレディたちがキャアと黄色い声を上げた。

「行ってらっしゃいませ」
「すぐ戻る」

 そう言うと、彼女の手の平にもキスを落とすと、王子は側近たちを伴い会場にいる彼の支援者たちのほうに足を運んだ。

 颯爽と華麗に歩くその背を、いたる所でため息を漏らしながら視線を送るレディたちがいる。イヴォンヌは、使いに耳打ちされると、彼女を呼んだ王妃と王太子妃の元へ静かに移動した。

「イヴォンヌ、こちらへ」
「星の煌めきよりも麗しい王妃殿下、本日はお招きいただき……」

「ああ、そんな風に畏まらなくていいわよ。ここにはわたくしたちだけなのですから。ねえ、王妃様」
「ふふふ、そうですよ。学園を卒業してフラットと結婚する日が待ち遠しいわねぇ」

 婚約してから王子妃として教育されてきたイヴォンヌは、その美しさと謙虚さ、そして、生来の頭の良さに加えて覚えがいいため彼女たちに気に入られていた。王子と二人で会う日ですら、彼女たちに呼ばれるほどである。

「もったいなきお言葉ですわ」

 王太子と、第四王子はこの目の前の正妃である彼女の子だ。第二王子、第三王子は愛妾の子であり継承権はない。王女は一人もおらず、こうして王太子の妃であるレティシア妃と、将来の義娘になるイヴォンヌを娘のようにかわいがっている。
 暫く三人で会話を楽しんでいた。

「結婚したらフラットと一緒に領地に行ってしまうのよねえ……。イヴォンヌだけここにいてもいいのだけれど」
「まあ、それはいい考えですわっ!」

 王妃の無茶な言葉に、王太子妃も心底賛同して手を合わせて笑い合う二人。こんなにも受け入れてくれる現状に胸が熱くなる。

「クスクス、フラットが聞いたら悲しむようなことを。母上、その辺で勘弁してあげてください。未来の義妹が困っている」

「あなた」
「ちょっとした冗談ではないのよ」

「レティシア、そろそろ公式行事に来ておくれ。彼女を連れて行く許可を頂けますか?」
「許しましょう」

 王太子が妻であるレティシアをエスコートし、この公式であり、非公式のような場から去って行くと同時に、王妃も優しかった表情を引き締め、玉座の隣に戻っていった。

 イヴォンヌは、このように彼女たちが仲のよい所を周囲に見せつける必要もあったとはいえ、迎えにきたフラットや周囲に大切にされているこの場所と時間を大切に思い楽しんでいたのである。

 
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