30 / 58
憂いの美女と恐怖の野獣③
しおりを挟む
「聞きまして? 先日の休みに、子爵家の次女であるカミーユさんが、どうしても断れない高位の貴族の方とのお見合いで涙を流していらしたらしいわ……」
「まぁ……。悲しくて恐ろしい思いをされたのですね……。カミーユさんは今、弱い立場である以上仕方のない事とはいえ、なんて気の毒な……」
「彼女の家は、事業の失敗が元で資金繰りが難しく、亡くなられたお母様の代わりに姉妹で助け合って過ごされているから……。そんなしっかり者の素敵なカミーユさんが涙を流すなんて……」
イヴォンヌは、同じクラスの少女たちが口々に違うクラスのカミーユ子爵令嬢の断れない恐ろしい相手とのお見合い話に耳を傾けていた。
「まぁ……。お相手はそれほど酷い方でしたの?」
「ええ、イヴォンヌ様。とても恐ろしく会話もろくにしないまま、最後には地獄の底にいる鬼のような声で断ると言われたそうですの」
「まぁ……」
それは、お見合い以前の問題ではないだろうか。カミーユ子爵令嬢といえば、家の事がなければ可愛らしく人気の少女だ。その彼女に気に入らない部分があったとしても泣かせるなんてと、イヴォンヌは見知らぬ相手の男に憤りを感じた。
だが、家同士のしがらみの中、意に添わぬ相手と結婚しなければならない時もある。
お互いに敬愛し歩み寄ろうとしなければ結婚はうまくいかないだろう。
「でしたらカミーユさんにはもっと良いご縁談があるのではないかしら……。早く、そのような酷い人を忘れて、カミーユさんが幸せになれるお相手が見つかるといいですわね……」
「ええ、ええ。本当に……。わたくしたちはすでにとても良い婚約者がいますが、彼に出会うまではやはり合わない方や、意地悪をする方もいましたもの」
「本当に……。イヴォンヌ様も、とっても愛されておりますものね。わたくし、婚約者と、イヴォンヌ様と殿下のようになりたいねって言われておりますの……」
頬を染めて、惚気始める少女たち。イヴォンヌは、気の毒で辛い思いをしたカミーユ子爵令嬢がよりよい縁談がなければ手助けをしたほうがいいかと考えながら、話題の変わった彼女たちとともにお茶会を楽しんだのである。
「やぁ、イヴ、少しいいかい?」
「まぁ、殿下……」
「「殿下……!」」
慌てて席を立ちあがり礼を示す令嬢たちに、フラットは、見る者を魅了する笑みを浮かべて楽にするよう伝える。
「突然悪いが、少々生徒会の仕事を手伝ってくれないか? 女性の意見を聞きたくてね」
「わたくしでよろしいのですか?」
「出来れば、この後時間があれば、ご令嬢たちも是非」
美しい王子の申し出に、彼女たちの心が沸き立ち頬が熱くなる。学園内では最低限の礼節を守りながら、王子であっても無理強いはしてはならない決まりがあり、用事のある少女は断っても良い。
「皆様、よろしいのですか?」
「ええ、明日であれば婚約者と会う日でしたが今日でしたらかまいませんわ」
「わたくしも」
「時間はあまりとらせない。では、ここで意見を聞こうと思うが……」
「殿下がこちらで、ですか?」
「ああ。それに、ちょっと生徒会室の仕事から逃げたいというのもある。匿ってくれるかい?」
「まぁ……」
「ふふふ、殿下、イヴォンヌ様にお会いしたかっただけでは?」
「あら、ではわたくしたちは席を外したほうがよろしいかしら?」
イヴォンヌは王子の言葉に目を見開き困った人だと思ったが、他の二人は、王子がわざわざイヴォンヌに会いにくるために口実を作ったのだと判断したようだ。
「ははは、そう言わず。ここで話を聞いてくれ」
和気あいあいと、来年の新年のパーティのコンセプトや最近の少女たちの好みなど、流行の最先端にいるイヴォンヌや彼女たちの話をまとめていった。
「ふむ、ありがとう。例年通りではつまらないし、こうして今この時に学園にいる君たちの意見は貴重だからね。この事を参考に、少々変えていけるところは変えようと思う」
「まぁ、それは楽しみですわ」
「ええ、今ならではのパーティになるのですね」
「わたくしたちの意見が取り入れられるなんて、とても光栄ですわ」
「予算や、頭の固い教師たちがいるから難しい事もある。でも、折角だからこれを機に変えていきたい」
「微力ながらお手伝いいたしますわ」
「イヴ、君ならそう言ってくれるって信じていたよ。ありがとう」
「あの、殿下、イヴォンヌ様、そろそろ戻らねばなりませんの」
「わたくしも。これにて失礼いたしますわ」
二人の令嬢は、たちまち目の前で見つめ合い微笑む二人の空間が出来上がった事を察知して、その席を去って行った。
「ははは、君のご友人たちは本当に気が利くねぇ」
「殿下ったら……」
フラットは側に仕えていたアルフレッドとソフィアを下がらせると、隣同士に座ったままイヴォンヌの手を握った。
「会いたかったよ」
「まぁ、毎日教室でお会いしますのに」
「ふふふ、こうして二人っきりではなかっただろう?」
「フラット……」
彼の顔がそっとイヴォンヌに近づく。ゆっくり二人きりの時間が激減しているものの、フラットとイヴォンヌの距離は近いままだ。
そっと唇を合わせて離れる。
「イヴ……」
二度、三度と唇を合わせていると、アルフレッドがフラットを呼んだ。
「早く卒業して結婚したいなぁ……」
「フラットったら……。ふふふ」
「じゃあ、また明日」
「はい、また……」
フラットは最後にちゅっとキスを贈った後、アルフレッドと一緒にその場を去ったのである。
「まぁ……。悲しくて恐ろしい思いをされたのですね……。カミーユさんは今、弱い立場である以上仕方のない事とはいえ、なんて気の毒な……」
「彼女の家は、事業の失敗が元で資金繰りが難しく、亡くなられたお母様の代わりに姉妹で助け合って過ごされているから……。そんなしっかり者の素敵なカミーユさんが涙を流すなんて……」
イヴォンヌは、同じクラスの少女たちが口々に違うクラスのカミーユ子爵令嬢の断れない恐ろしい相手とのお見合い話に耳を傾けていた。
「まぁ……。お相手はそれほど酷い方でしたの?」
「ええ、イヴォンヌ様。とても恐ろしく会話もろくにしないまま、最後には地獄の底にいる鬼のような声で断ると言われたそうですの」
「まぁ……」
それは、お見合い以前の問題ではないだろうか。カミーユ子爵令嬢といえば、家の事がなければ可愛らしく人気の少女だ。その彼女に気に入らない部分があったとしても泣かせるなんてと、イヴォンヌは見知らぬ相手の男に憤りを感じた。
だが、家同士のしがらみの中、意に添わぬ相手と結婚しなければならない時もある。
お互いに敬愛し歩み寄ろうとしなければ結婚はうまくいかないだろう。
「でしたらカミーユさんにはもっと良いご縁談があるのではないかしら……。早く、そのような酷い人を忘れて、カミーユさんが幸せになれるお相手が見つかるといいですわね……」
「ええ、ええ。本当に……。わたくしたちはすでにとても良い婚約者がいますが、彼に出会うまではやはり合わない方や、意地悪をする方もいましたもの」
「本当に……。イヴォンヌ様も、とっても愛されておりますものね。わたくし、婚約者と、イヴォンヌ様と殿下のようになりたいねって言われておりますの……」
頬を染めて、惚気始める少女たち。イヴォンヌは、気の毒で辛い思いをしたカミーユ子爵令嬢がよりよい縁談がなければ手助けをしたほうがいいかと考えながら、話題の変わった彼女たちとともにお茶会を楽しんだのである。
「やぁ、イヴ、少しいいかい?」
「まぁ、殿下……」
「「殿下……!」」
慌てて席を立ちあがり礼を示す令嬢たちに、フラットは、見る者を魅了する笑みを浮かべて楽にするよう伝える。
「突然悪いが、少々生徒会の仕事を手伝ってくれないか? 女性の意見を聞きたくてね」
「わたくしでよろしいのですか?」
「出来れば、この後時間があれば、ご令嬢たちも是非」
美しい王子の申し出に、彼女たちの心が沸き立ち頬が熱くなる。学園内では最低限の礼節を守りながら、王子であっても無理強いはしてはならない決まりがあり、用事のある少女は断っても良い。
「皆様、よろしいのですか?」
「ええ、明日であれば婚約者と会う日でしたが今日でしたらかまいませんわ」
「わたくしも」
「時間はあまりとらせない。では、ここで意見を聞こうと思うが……」
「殿下がこちらで、ですか?」
「ああ。それに、ちょっと生徒会室の仕事から逃げたいというのもある。匿ってくれるかい?」
「まぁ……」
「ふふふ、殿下、イヴォンヌ様にお会いしたかっただけでは?」
「あら、ではわたくしたちは席を外したほうがよろしいかしら?」
イヴォンヌは王子の言葉に目を見開き困った人だと思ったが、他の二人は、王子がわざわざイヴォンヌに会いにくるために口実を作ったのだと判断したようだ。
「ははは、そう言わず。ここで話を聞いてくれ」
和気あいあいと、来年の新年のパーティのコンセプトや最近の少女たちの好みなど、流行の最先端にいるイヴォンヌや彼女たちの話をまとめていった。
「ふむ、ありがとう。例年通りではつまらないし、こうして今この時に学園にいる君たちの意見は貴重だからね。この事を参考に、少々変えていけるところは変えようと思う」
「まぁ、それは楽しみですわ」
「ええ、今ならではのパーティになるのですね」
「わたくしたちの意見が取り入れられるなんて、とても光栄ですわ」
「予算や、頭の固い教師たちがいるから難しい事もある。でも、折角だからこれを機に変えていきたい」
「微力ながらお手伝いいたしますわ」
「イヴ、君ならそう言ってくれるって信じていたよ。ありがとう」
「あの、殿下、イヴォンヌ様、そろそろ戻らねばなりませんの」
「わたくしも。これにて失礼いたしますわ」
二人の令嬢は、たちまち目の前で見つめ合い微笑む二人の空間が出来上がった事を察知して、その席を去って行った。
「ははは、君のご友人たちは本当に気が利くねぇ」
「殿下ったら……」
フラットは側に仕えていたアルフレッドとソフィアを下がらせると、隣同士に座ったままイヴォンヌの手を握った。
「会いたかったよ」
「まぁ、毎日教室でお会いしますのに」
「ふふふ、こうして二人っきりではなかっただろう?」
「フラット……」
彼の顔がそっとイヴォンヌに近づく。ゆっくり二人きりの時間が激減しているものの、フラットとイヴォンヌの距離は近いままだ。
そっと唇を合わせて離れる。
「イヴ……」
二度、三度と唇を合わせていると、アルフレッドがフラットを呼んだ。
「早く卒業して結婚したいなぁ……」
「フラットったら……。ふふふ」
「じゃあ、また明日」
「はい、また……」
フラットは最後にちゅっとキスを贈った後、アルフレッドと一緒にその場を去ったのである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる