【完結】【R18】初恋は甘く、手が届かない? ならば、その果実をもぎ取るだけだ~今宵、俺の上で美しく踊れ

にじくす まさしよ

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憂いの美女と恐怖の野獣③

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「聞きまして? 先日の休みに、子爵家の次女であるカミーユさんが、どうしても断れない高位の貴族の方とのお見合いで涙を流していらしたらしいわ……」
「まぁ……。悲しくて恐ろしい思いをされたのですね……。カミーユさんは今、弱い立場である以上仕方のない事とはいえ、なんて気の毒な……」
「彼女の家は、事業の失敗が元で資金繰りが難しく、亡くなられたお母様の代わりに姉妹で助け合って過ごされているから……。そんなしっかり者の素敵なカミーユさんが涙を流すなんて……」


 イヴォンヌは、同じクラスの少女たちが口々に違うクラスのカミーユ子爵令嬢の断れない恐ろしい相手とのお見合い話に耳を傾けていた。

「まぁ……。お相手はそれほど酷い方でしたの?」

「ええ、イヴォンヌ様。とても恐ろしく会話もろくにしないまま、最後には地獄の底にいる鬼のような声で断ると言われたそうですの」

「まぁ……」

 それは、お見合い以前の問題ではないだろうか。カミーユ子爵令嬢といえば、家の事がなければ可愛らしく人気の少女だ。その彼女に気に入らない部分があったとしても泣かせるなんてと、イヴォンヌは見知らぬ相手の男に憤りを感じた。

  だが、家同士のしがらみの中、意に添わぬ相手と結婚しなければならない時もある。
 お互いに敬愛し歩み寄ろうとしなければ結婚はうまくいかないだろう。

「でしたらカミーユさんにはもっと良いご縁談があるのではないかしら……。早く、そのような酷い人を忘れて、カミーユさんが幸せになれるお相手が見つかるといいですわね……」
「ええ、ええ。本当に……。わたくしたちはすでにとても良い婚約者がいますが、彼に出会うまではやはり合わない方や、意地悪をする方もいましたもの」
「本当に……。イヴォンヌ様も、とっても愛されておりますものね。わたくし、婚約者と、イヴォンヌ様と殿下のようになりたいねって言われておりますの……」

 頬を染めて、惚気始める少女たち。イヴォンヌは、気の毒で辛い思いをしたカミーユ子爵令嬢がよりよい縁談がなければ手助けをしたほうがいいかと考えながら、話題の変わった彼女たちとともにお茶会を楽しんだのである。

「やぁ、イヴ、少しいいかい?」

「まぁ、殿下……」
「「殿下……!」」

 慌てて席を立ちあがり礼を示す令嬢たちに、フラットは、見る者を魅了する笑みを浮かべて楽にするよう伝える。

「突然悪いが、少々生徒会の仕事を手伝ってくれないか? 女性の意見を聞きたくてね」
「わたくしでよろしいのですか?」
「出来れば、この後時間があれば、ご令嬢たちも是非」

 美しい王子の申し出に、彼女たちの心が沸き立ち頬が熱くなる。学園内では最低限の礼節を守りながら、王子であっても無理強いはしてはならない決まりがあり、用事のある少女は断っても良い。

「皆様、よろしいのですか?」
「ええ、明日であれば婚約者と会う日でしたが今日でしたらかまいませんわ」
「わたくしも」

「時間はあまりとらせない。では、ここで意見を聞こうと思うが……」

「殿下がこちらで、ですか?」

「ああ。それに、ちょっと生徒会室の仕事から逃げたいというのもある。匿ってくれるかい?」

「まぁ……」
「ふふふ、殿下、イヴォンヌ様にお会いしたかっただけでは?」
「あら、ではわたくしたちは席を外したほうがよろしいかしら?」

 イヴォンヌは王子の言葉に目を見開き困った人だと思ったが、他の二人は、王子がわざわざイヴォンヌに会いにくるために口実を作ったのだと判断したようだ。

「ははは、そう言わず。ここで話を聞いてくれ」

 和気あいあいと、来年の新年のパーティのコンセプトや最近の少女たちの好みなど、流行の最先端にいるイヴォンヌや彼女たちの話をまとめていった。

「ふむ、ありがとう。例年通りではつまらないし、こうして今この時に学園にいる君たちの意見は貴重だからね。この事を参考に、少々変えていけるところは変えようと思う」

「まぁ、それは楽しみですわ」
「ええ、今ならではのパーティになるのですね」
「わたくしたちの意見が取り入れられるなんて、とても光栄ですわ」

「予算や、頭の固い教師たちがいるから難しい事もある。でも、折角だからこれを機に変えていきたい」

「微力ながらお手伝いいたしますわ」

「イヴ、君ならそう言ってくれるって信じていたよ。ありがとう」

「あの、殿下、イヴォンヌ様、そろそろ戻らねばなりませんの」
「わたくしも。これにて失礼いたしますわ」

 二人の令嬢は、たちまち目の前で見つめ合い微笑む二人の空間が出来上がった事を察知して、その席を去って行った。

「ははは、君のご友人たちは本当に気が利くねぇ」
「殿下ったら……」

 フラットは側に仕えていたアルフレッドとソフィアを下がらせると、隣同士に座ったままイヴォンヌの手を握った。

「会いたかったよ」
「まぁ、毎日教室でお会いしますのに」
「ふふふ、こうして二人っきりではなかっただろう?」
「フラット……」

 彼の顔がそっとイヴォンヌに近づく。ゆっくり二人きりの時間が激減しているものの、フラットとイヴォンヌの距離は近いままだ。
 そっと唇を合わせて離れる。

「イヴ……」

 二度、三度と唇を合わせていると、アルフレッドがフラットを呼んだ。

「早く卒業して結婚したいなぁ……」
「フラットったら……。ふふふ」
「じゃあ、また明日」
「はい、また……」

 フラットは最後にちゅっとキスを贈った後、アルフレッドと一緒にその場を去ったのである。

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