【完結】【R18】初恋は甘く、手が届かない? ならば、その果実をもぎ取るだけだ~今宵、俺の上で美しく踊れ

にじくす まさしよ

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儚げ美女と野獣 カウントダウン2

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  あれほど一途に愛と安らぎをくれていたフラットの態度がそっけなくなっていった。

  何か気に障るような事をしただろうか?

  大きな失態もなく喧嘩も意見の食い違いも、とくに変わった何かがあったわけではない。ただ、どうした事かフラットとの距離を感じていった。

  最近ではあからさまに嫌われているといった態度をとられ良い信頼関係にヒビが入り、まるでサヴァイヴにそっぽを向かれ嫌われていた頃のように疎外感を感じて悲しくなる。

  数人の女性と友人にしては近い距離。仲良く恋人のようにフラットと彼女たちは密を集めたかのような時を、学園内のそこかしこで過ごしている。

  その姿は何度も見かけ、その度に心にぐさりとナイフを突き立てられたかのような痛みを生んだ。

「あらぁ、イヴォンヌさまぁ」

 目の前でふふふと愛らしい笑みを浮かべているのは、最近フラットと仲のよい恋人の一人である少し鼻声の甘い雰囲気のキュートな少女だ。今年入学したばかりの彼女は、王子の恋人の一人になり、男爵家からも、将来はフラットの側室の一人になれるかもしれず名誉な事だと喜ばれていると聞いた。

「ディシヴィア様……」

「あと少しで殿下と離れ離れになるだなんて、わたくし今から悲しいんですの。でも、わたくしが卒業したら、また会えるのですもの。二年この辛さにも耐えて見せますわぁ……。イヴォンヌさまもそれまでどうか殿下を……、あ、やだ、カッサンドラさまが同じ学年にいらっしゃいますものね。殿下をお願いするお相手を間違えたかしらぁ……? ふふふ」

「……殿下もディシヴィア様と離れてしまう事に今から心を痛めておいででしょう。どうぞ、殿下をお支えするためにも頑張ってくださいませね。わたくしも一日千秋の思いでディシヴィア様をお待ちしております」

 ディシヴィアは、眉一つ動かさず、高位貴族の模範そのもののようなイヴォンヌにイラっとしてキッと睨みつけた。

「なによぉ、すましちゃってぇ……。ちょっと前まで殿下を一人占めにしていたからって傲慢にしていたから天罰が下されたのでは? 今じゃ微笑みすらしていただけないのですってね。ふふふ」

「ちょっと、貴女、いくらなんでも失礼すぎますわ」
「ここが学園であっても、礼節は保たなくてはならないというのに、貴女の物言いはまるで……」

「……ミレーヌ様、リリアーヌ様、よろしいのですわ。ディシヴィア様、どうぞ殿下に寄り添いくださいませ……」

「言われなくたってそうしますわぁ」

 つんっと鼻を上げた後、ディシヴィアはイヴォンヌ達から遠ざかって行った。ミレーヌとリリアーヌは眉を下げてイヴォンヌに寄り添う。

「お二人とも、ありがとうございます。わたくしは大丈夫ですわ……」
「だからって、あまりにも……」
「イヴォンヌ様、顔色がすぐれませんわね。ソフィアさんを呼びますから本日はお休みになって?」

 イヴォンヌは授業に出ようとしたが、二人にとめられ、迎えに来たソフィアと共に寮に帰って行った。


 数日後、フラットに生徒会室に呼び出されたイヴォンヌ。そこには、フラットと彼の従者であるアルフレッド、そしてディシヴィアがいた。ディシヴィアはフラットの腕にすがりつき、悲しそうに涙をその瞳に湛えている。


「イヴォンヌ、最近私が友人である彼女と懇意にしているからといって、彼女を酷く詰問し傷つけたらしいな」
「……そのような事はしておりません」

「でんかぁ……、イヴォンヌ様ったら、取り巻きの二人と一緒になって、わたくしを取り囲んで……。でんかと別れろって大声で怒鳴ったんですぅ」
「そうか、それは怖い思いをしたね」
「……」

 何を言っても、もう聞く耳は持たなさそうなフラットの様子を見て、イヴォンヌは悲しみに胸を支配される。少しずつ結婚相手として、徐々に仲を深めて来たはずの彼はどこに行ってしまったのだろう。
 あの人を想って泣いた時も、戸惑い迷子のようになった不安定になる気持ちも全て受け止めて、自分だけを一途に見て愛を注いでくれていたはずなのに。
 イヴォンヌ自身の心も、フラットと共に歩む覚悟の他、気持ちも追いつき始め、卒業後にはフラットに予定されている領地の事もすでに携わり、『二人で手を合わせそこで生きて行こうね』と誓い合った彼はもういないのだろうか。

「イヴォンヌ、君の事は私の正室として慈しんできた。私は、治めるべき領民のため、この国を支える兄上のために共に力を合わせようと君と誓い合った仲のはずだ。それが、私の友人であるというだけで、身分が低く立場の弱い、か弱いディシヴィアをいじめるとは何事か」
「……、そのようなつもりはございませんでしたが、ディシヴィア様が傷ついたのであればわたくしの不徳と致すところです。申し訳ございません」

「ディシヴィア、彼女もこう言っている。許したらどうだ?」
「でんかがそうおっしゃるのならぁ……。許しますぅ」

 途端に二人だけの世界が広がる。ちらりと後方のアルフレッドに視線を投げかけると目礼される。潮時かと判断して一礼の後、部屋から出て行った。


──所かまわず何かをする事はあっても、ここまで悪評が立つほどの行動はされなかったはずなのに……


 自分だけを愛してくれていた人の心変わりに対してツキンと胸が痛む。今の彼の心は他の人物に向けられているのかもしれない。ディシヴィアの言い分しか検討しようともしないフラットに違和感を感じつつも、これまで信じ、共に歩む未来のために寄り添って来た彼の姿を思い返すと涙が溢れそうになる。


──わたくしは、また、嫌われてしまったのね……。これも、きっとわたくしが彼を完全に忘れる事が出来ないから、ディシヴィア様のいうように天罰が下されたのかもしれない……


 生徒会室から少し離れた廊下の壁に手をつき、いつの間にか早足で移動してきていたため呼吸が荒くなっていたのを鎮めようとゆっくり息を繰り返す。

 あの人に嫌われ、あれ以上心が傷つく事は二度とないと信じさせてくれていた、フラットが与えてくれていた幸せな日々がぼろぼろと崩れ去っていくのを感じたのであった。














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