34 / 58
儚げ美女と野獣 カウントダウン2
しおりを挟む
あれほど一途に愛と安らぎをくれていたフラットの態度がそっけなくなっていった。
何か気に障るような事をしただろうか?
大きな失態もなく喧嘩も意見の食い違いも、とくに変わった何かがあったわけではない。ただ、どうした事かフラットとの距離を感じていった。
最近ではあからさまに嫌われているといった態度をとられ良い信頼関係にヒビが入り、まるでサヴァイヴにそっぽを向かれ嫌われていた頃のように疎外感を感じて悲しくなる。
数人の女性と友人にしては近い距離。仲良く恋人のようにフラットと彼女たちは密を集めたかのような時を、学園内のそこかしこで過ごしている。
その姿は何度も見かけ、その度に心にぐさりとナイフを突き立てられたかのような痛みを生んだ。
「あらぁ、イヴォンヌさまぁ」
目の前でふふふと愛らしい笑みを浮かべているのは、最近フラットと仲のよい恋人の一人である少し鼻声の甘い雰囲気のキュートな少女だ。今年入学したばかりの彼女は、王子の恋人の一人になり、男爵家からも、将来はフラットの側室の一人になれるかもしれず名誉な事だと喜ばれていると聞いた。
「ディシヴィア様……」
「あと少しで殿下と離れ離れになるだなんて、わたくし今から悲しいんですの。でも、わたくしが卒業したら、また会えるのですもの。二年この辛さにも耐えて見せますわぁ……。イヴォンヌさまもそれまでどうか殿下を……、あ、やだ、カッサンドラさまが同じ学年にいらっしゃいますものね。殿下をお願いするお相手を間違えたかしらぁ……? ふふふ」
「……殿下もディシヴィア様と離れてしまう事に今から心を痛めておいででしょう。どうぞ、殿下をお支えするためにも頑張ってくださいませね。わたくしも一日千秋の思いでディシヴィア様をお待ちしております」
ディシヴィアは、眉一つ動かさず、高位貴族の模範そのもののようなイヴォンヌにイラっとしてキッと睨みつけた。
「なによぉ、すましちゃってぇ……。ちょっと前まで殿下を一人占めにしていたからって傲慢にしていたから天罰が下されたのでは? 今じゃ微笑みすらしていただけないのですってね。ふふふ」
「ちょっと、貴女、いくらなんでも失礼すぎますわ」
「ここが学園であっても、礼節は保たなくてはならないというのに、貴女の物言いはまるで……」
「……ミレーヌ様、リリアーヌ様、よろしいのですわ。ディシヴィア様、どうぞ殿下に寄り添いくださいませ……」
「言われなくたってそうしますわぁ」
つんっと鼻を上げた後、ディシヴィアはイヴォンヌ達から遠ざかって行った。ミレーヌとリリアーヌは眉を下げてイヴォンヌに寄り添う。
「お二人とも、ありがとうございます。わたくしは大丈夫ですわ……」
「だからって、あまりにも……」
「イヴォンヌ様、顔色がすぐれませんわね。ソフィアさんを呼びますから本日はお休みになって?」
イヴォンヌは授業に出ようとしたが、二人にとめられ、迎えに来たソフィアと共に寮に帰って行った。
数日後、フラットに生徒会室に呼び出されたイヴォンヌ。そこには、フラットと彼の従者であるアルフレッド、そしてディシヴィアがいた。ディシヴィアはフラットの腕にすがりつき、悲しそうに涙をその瞳に湛えている。
「イヴォンヌ、最近私が友人である彼女と懇意にしているからといって、彼女を酷く詰問し傷つけたらしいな」
「……そのような事はしておりません」
「でんかぁ……、イヴォンヌ様ったら、取り巻きの二人と一緒になって、わたくしを取り囲んで……。でんかと別れろって大声で怒鳴ったんですぅ」
「そうか、それは怖い思いをしたね」
「……」
何を言っても、もう聞く耳は持たなさそうなフラットの様子を見て、イヴォンヌは悲しみに胸を支配される。少しずつ結婚相手として、徐々に仲を深めて来たはずの彼はどこに行ってしまったのだろう。
あの人を想って泣いた時も、戸惑い迷子のようになった不安定になる気持ちも全て受け止めて、自分だけを一途に見て愛を注いでくれていたはずなのに。
イヴォンヌ自身の心も、フラットと共に歩む覚悟の他、気持ちも追いつき始め、卒業後にはフラットに予定されている領地の事もすでに携わり、『二人で手を合わせそこで生きて行こうね』と誓い合った彼はもういないのだろうか。
「イヴォンヌ、君の事は私の正室として慈しんできた。私は、治めるべき領民のため、この国を支える兄上のために共に力を合わせようと君と誓い合った仲のはずだ。それが、私の友人であるというだけで、身分が低く立場の弱い、か弱いディシヴィアをいじめるとは何事か」
「……、そのようなつもりはございませんでしたが、ディシヴィア様が傷ついたのであればわたくしの不徳と致すところです。申し訳ございません」
「ディシヴィア、彼女もこう言っている。許したらどうだ?」
「でんかがそうおっしゃるのならぁ……。許しますぅ」
途端に二人だけの世界が広がる。ちらりと後方のアルフレッドに視線を投げかけると目礼される。潮時かと判断して一礼の後、部屋から出て行った。
──所かまわず何かをする事はあっても、ここまで悪評が立つほどの行動はされなかったはずなのに……
自分だけを愛してくれていた人の心変わりに対してツキンと胸が痛む。今の彼の心は他の人物に向けられているのかもしれない。ディシヴィアの言い分しか検討しようともしないフラットに違和感を感じつつも、これまで信じ、共に歩む未来のために寄り添って来た彼の姿を思い返すと涙が溢れそうになる。
──わたくしは、また、嫌われてしまったのね……。これも、きっとわたくしが彼を完全に忘れる事が出来ないから、ディシヴィア様のいうように天罰が下されたのかもしれない……
生徒会室から少し離れた廊下の壁に手をつき、いつの間にか早足で移動してきていたため呼吸が荒くなっていたのを鎮めようとゆっくり息を繰り返す。
あの人に嫌われ、あれ以上心が傷つく事は二度とないと信じさせてくれていた、フラットが与えてくれていた幸せな日々がぼろぼろと崩れ去っていくのを感じたのであった。
何か気に障るような事をしただろうか?
大きな失態もなく喧嘩も意見の食い違いも、とくに変わった何かがあったわけではない。ただ、どうした事かフラットとの距離を感じていった。
最近ではあからさまに嫌われているといった態度をとられ良い信頼関係にヒビが入り、まるでサヴァイヴにそっぽを向かれ嫌われていた頃のように疎外感を感じて悲しくなる。
数人の女性と友人にしては近い距離。仲良く恋人のようにフラットと彼女たちは密を集めたかのような時を、学園内のそこかしこで過ごしている。
その姿は何度も見かけ、その度に心にぐさりとナイフを突き立てられたかのような痛みを生んだ。
「あらぁ、イヴォンヌさまぁ」
目の前でふふふと愛らしい笑みを浮かべているのは、最近フラットと仲のよい恋人の一人である少し鼻声の甘い雰囲気のキュートな少女だ。今年入学したばかりの彼女は、王子の恋人の一人になり、男爵家からも、将来はフラットの側室の一人になれるかもしれず名誉な事だと喜ばれていると聞いた。
「ディシヴィア様……」
「あと少しで殿下と離れ離れになるだなんて、わたくし今から悲しいんですの。でも、わたくしが卒業したら、また会えるのですもの。二年この辛さにも耐えて見せますわぁ……。イヴォンヌさまもそれまでどうか殿下を……、あ、やだ、カッサンドラさまが同じ学年にいらっしゃいますものね。殿下をお願いするお相手を間違えたかしらぁ……? ふふふ」
「……殿下もディシヴィア様と離れてしまう事に今から心を痛めておいででしょう。どうぞ、殿下をお支えするためにも頑張ってくださいませね。わたくしも一日千秋の思いでディシヴィア様をお待ちしております」
ディシヴィアは、眉一つ動かさず、高位貴族の模範そのもののようなイヴォンヌにイラっとしてキッと睨みつけた。
「なによぉ、すましちゃってぇ……。ちょっと前まで殿下を一人占めにしていたからって傲慢にしていたから天罰が下されたのでは? 今じゃ微笑みすらしていただけないのですってね。ふふふ」
「ちょっと、貴女、いくらなんでも失礼すぎますわ」
「ここが学園であっても、礼節は保たなくてはならないというのに、貴女の物言いはまるで……」
「……ミレーヌ様、リリアーヌ様、よろしいのですわ。ディシヴィア様、どうぞ殿下に寄り添いくださいませ……」
「言われなくたってそうしますわぁ」
つんっと鼻を上げた後、ディシヴィアはイヴォンヌ達から遠ざかって行った。ミレーヌとリリアーヌは眉を下げてイヴォンヌに寄り添う。
「お二人とも、ありがとうございます。わたくしは大丈夫ですわ……」
「だからって、あまりにも……」
「イヴォンヌ様、顔色がすぐれませんわね。ソフィアさんを呼びますから本日はお休みになって?」
イヴォンヌは授業に出ようとしたが、二人にとめられ、迎えに来たソフィアと共に寮に帰って行った。
数日後、フラットに生徒会室に呼び出されたイヴォンヌ。そこには、フラットと彼の従者であるアルフレッド、そしてディシヴィアがいた。ディシヴィアはフラットの腕にすがりつき、悲しそうに涙をその瞳に湛えている。
「イヴォンヌ、最近私が友人である彼女と懇意にしているからといって、彼女を酷く詰問し傷つけたらしいな」
「……そのような事はしておりません」
「でんかぁ……、イヴォンヌ様ったら、取り巻きの二人と一緒になって、わたくしを取り囲んで……。でんかと別れろって大声で怒鳴ったんですぅ」
「そうか、それは怖い思いをしたね」
「……」
何を言っても、もう聞く耳は持たなさそうなフラットの様子を見て、イヴォンヌは悲しみに胸を支配される。少しずつ結婚相手として、徐々に仲を深めて来たはずの彼はどこに行ってしまったのだろう。
あの人を想って泣いた時も、戸惑い迷子のようになった不安定になる気持ちも全て受け止めて、自分だけを一途に見て愛を注いでくれていたはずなのに。
イヴォンヌ自身の心も、フラットと共に歩む覚悟の他、気持ちも追いつき始め、卒業後にはフラットに予定されている領地の事もすでに携わり、『二人で手を合わせそこで生きて行こうね』と誓い合った彼はもういないのだろうか。
「イヴォンヌ、君の事は私の正室として慈しんできた。私は、治めるべき領民のため、この国を支える兄上のために共に力を合わせようと君と誓い合った仲のはずだ。それが、私の友人であるというだけで、身分が低く立場の弱い、か弱いディシヴィアをいじめるとは何事か」
「……、そのようなつもりはございませんでしたが、ディシヴィア様が傷ついたのであればわたくしの不徳と致すところです。申し訳ございません」
「ディシヴィア、彼女もこう言っている。許したらどうだ?」
「でんかがそうおっしゃるのならぁ……。許しますぅ」
途端に二人だけの世界が広がる。ちらりと後方のアルフレッドに視線を投げかけると目礼される。潮時かと判断して一礼の後、部屋から出て行った。
──所かまわず何かをする事はあっても、ここまで悪評が立つほどの行動はされなかったはずなのに……
自分だけを愛してくれていた人の心変わりに対してツキンと胸が痛む。今の彼の心は他の人物に向けられているのかもしれない。ディシヴィアの言い分しか検討しようともしないフラットに違和感を感じつつも、これまで信じ、共に歩む未来のために寄り添って来た彼の姿を思い返すと涙が溢れそうになる。
──わたくしは、また、嫌われてしまったのね……。これも、きっとわたくしが彼を完全に忘れる事が出来ないから、ディシヴィア様のいうように天罰が下されたのかもしれない……
生徒会室から少し離れた廊下の壁に手をつき、いつの間にか早足で移動してきていたため呼吸が荒くなっていたのを鎮めようとゆっくり息を繰り返す。
あの人に嫌われ、あれ以上心が傷つく事は二度とないと信じさせてくれていた、フラットが与えてくれていた幸せな日々がぼろぼろと崩れ去っていくのを感じたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる