【完結】【R18】初恋は甘く、手が届かない? ならば、その果実をもぎ取るだけだ~今宵、俺の上で美しく踊れ

にじくす まさしよ

文字の大きさ
36 / 58

儚げ美女と野獣② お忘れかもしれませんが冒頭のサブタイトルがこれの①です……

しおりを挟む
 最後に言葉を交わしてから何年経ったのだろう。

  片方は手にいれたいと思いつつ諦めようとし諦められず、片方は忘れたくても心の奥底で忘れられなかった人が目の前にいる。

  過去の様々な感情が二人の胸に渦を巻き、立場や体裁などといった個々を守るための鎧までもを飲み込んでいった。

 サヴァイヴは彼女だけを見つめ思わず震える手を伸ばそうとするが、イヴォンヌははっと我に返りその場を去って行こうと背を向けた。
 その瞬間、サヴァイヴは自分のやるべき事もしてはならない言動も家の事も、彼女の地位や立場もなにもかもが心と頭から飛んでいった。


「待ってくれ!  イヴォンヌ……、ヴィー……。ヴィーを傷つけるような王子なんかやめて俺の所に来てくれ……!」

  足を一歩踏み出した時、サヴァイヴの切羽詰まったかのような声がかかり、イヴォンヌの足が止まった。思わず出てしまった言葉に対して、より驚愕したのは果たしてどちらなのだろうか。

「ヴィー……、……好きだ。ずっと子供の頃から愛しているのはヴィーだけなんだ……。王子がヴィーを幸せにすると信じていたから諦めようとしたんだ。でも無理なんだ……」

 一度口にしてしまった自分の、届くことのないと思っていた、でもずっと住み着いてしまった思いが口から次々あふれ出す。

 相手は王子の婚約者だ。このような言葉が他者の耳に入れば二人ともただではすまないだろう。

 だが、止められない。息がとまるかのようなこの時が、ずっと続けばいいとばかりにサヴァイヴの視線と言葉、そして心が一直線にイヴォンヌの背を撃ち抜き彼女の足が止まる。

「サヴァイヴさ……ま……」

「突然こんな事を言ってすまない……。だが……! 幼い頃、ヴィーの気持ちに胡座をかいて甘えきって……。自分ばかりでヴィーを蔑ろにして悲しい思いをさせてごめん。あの頃に戻れるならと何度も思った。ヴィーが俺と来てくれるなら、なんとしても妻に出来るようにしてみせる! だから……!」



────それとも、もう、俺では無理なのか……?  ヴィーを裏切ったというのに、それでもアイツがいいというのか?



 不器用で格好悪い言葉しかサヴァイヴは吐き出せなかった。それでも、自分の気持ちの半分も彼女に伝えられないもどかしさに唇を噛む。

  彼女の口から出されるであろう拒絶の意志が恐ろしくてたまらない。王子を愛していると、はっきり言われてしまえばと思うと心と体が震えて凍りついていくかのようだ。

  返事のないイヴォンヌを、恐る恐る背中からすっぽり覆うように抱き締めた。身動ぎ一つしない愛しい女性の柔らかな体と、いつまでも嗅いでいたい香りが一層高ぶる気持ちを燃え立たせる。

  イヴォンヌを胸に抱きながら、彼女の「はい」という返事以外聞きたくないと力を込めて腕の中に閉じ込めた。




※※※※




  背後から大きくて体温の高い彼に捕らわれる。硬い筋肉でできた要塞のような檻から逃げようと身動ぎすれば、扉は開くだろうか……。
 ずっと自分の気持ちに蓋をして、辛い記憶と共に奥深くにしまっていた大切な想いが次から次へと現れ強くなっていく。

  嬉しい、──どうして?  

  あなたが好き、──じゃあなんであんなに冷たかったの? もう終わった、気持ちなのに。
 
  あなたが愛しい、──あの頃に聞きたかった、たった一つの言葉を今更?

  ずっと抱き締めていて、──いいえ、ダメよ。フラットと歩むと決めたのに? 



  相反する気持ちと考えがぐるぐるイヴォンヌの中でせめぎ合う。

 浅ましい、卑怯で醜い自分の気持ちが湧き出てしまい嫌になってしかたがない。
  押し込めても、消そうと思ってもくすぶり続けた初めての気持ち初恋はいとも簡単にこうやって燃え上がり大きくなるのだ。

「離して……」

 小さく、離さないでという気持ちでそう言う。
  それでも、彼の太い腕が解かれることが無い。そう、彼なら離さないと知っていて言った自分はとても小さな卑怯者だ。


  でも、後ろから自分に顔を埋めるように抱きしめられ、熱い吐息を肌で感じて歓喜で心が震えてしまう。

「わ、わたくしは殿下の婚約者で……」
「知っている」
「もうすぐ、夫婦になるのよ……」
「……」
「望まれて、彼と歩むと決めて……」
「……」
「あ、あなたとは、もう、とっくに、終わったの……。いいえ、始まってすらいなかった……」
「……」
「わたくしは、彼と……」
「ダメだ。行かせない」
「あ、あなたがそんな事言うなんて、……言える権利など、とっくにないっ!」
「ああ、あの頃、俺が馬鹿だったばかりにその権利を手放したんだ」

 サヴァイヴの表情が苦しくてたまらないと歪む。だが、反比例するかのように腕の肉が盛り上がりぐっとイヴォンヌを抱きしめた。

「離してっ!」
「離さない。もう、俺は諦めない」

 本心とは真逆の言葉がイヴォンヌの口から何度も放たれる。
  それを聞かされるごとにサヴァイヴは心を切り裂かれた気持ちになり眉をしかめるが、まるで大切なおもちゃを取り上げられそうになっている子供のように、彼女を更にかき抱いた。
  彼女が本気で嫌がれば自分が作る檻はいとも簡単に開くだろう。そうならないのは、彼女の心の中で自分という存在があるに違いないと、そんな一縷の希望だけがサヴァイヴの腕に力を与えた続けたのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...