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儚げ美女と野獣② お忘れかもしれませんが冒頭のサブタイトルがこれの①です……
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最後に言葉を交わしてから何年経ったのだろう。
片方は手にいれたいと思いつつ諦めようとし諦められず、片方は忘れたくても心の奥底で忘れられなかった人が目の前にいる。
過去の様々な感情が二人の胸に渦を巻き、立場や体裁などといった個々を守るための鎧までもを飲み込んでいった。
サヴァイヴは彼女だけを見つめ思わず震える手を伸ばそうとするが、イヴォンヌははっと我に返りその場を去って行こうと背を向けた。
その瞬間、サヴァイヴは自分のやるべき事もしてはならない言動も家の事も、彼女の地位や立場もなにもかもが心と頭から飛んでいった。
「待ってくれ! イヴォンヌ……、ヴィー……。ヴィーを傷つけるような王子なんかやめて俺の所に来てくれ……!」
足を一歩踏み出した時、サヴァイヴの切羽詰まったかのような声がかかり、イヴォンヌの足が止まった。思わず出てしまった言葉に対して、より驚愕したのは果たしてどちらなのだろうか。
「ヴィー……、……好きだ。ずっと子供の頃から愛しているのはヴィーだけなんだ……。王子がヴィーを幸せにすると信じていたから諦めようとしたんだ。でも無理なんだ……」
一度口にしてしまった自分の、届くことのないと思っていた、でもずっと住み着いてしまった思いが口から次々あふれ出す。
相手は王子の婚約者だ。このような言葉が他者の耳に入れば二人ともただではすまないだろう。
だが、止められない。息がとまるかのようなこの時が、ずっと続けばいいとばかりにサヴァイヴの視線と言葉、そして心が一直線にイヴォンヌの背を撃ち抜き彼女の足が止まる。
「サヴァイヴさ……ま……」
「突然こんな事を言ってすまない……。だが……! 幼い頃、ヴィーの気持ちに胡座をかいて甘えきって……。自分ばかりでヴィーを蔑ろにして悲しい思いをさせてごめん。あの頃に戻れるならと何度も思った。ヴィーが俺と来てくれるなら、なんとしても妻に出来るようにしてみせる! だから……!」
────それとも、もう、俺では無理なのか……? ヴィーを裏切ったというのに、それでもアイツがいいというのか?
不器用で格好悪い言葉しかサヴァイヴは吐き出せなかった。それでも、自分の気持ちの半分も彼女に伝えられないもどかしさに唇を噛む。
彼女の口から出されるであろう拒絶の意志が恐ろしくてたまらない。王子を愛していると、はっきり言われてしまえばと思うと心と体が震えて凍りついていくかのようだ。
返事のないイヴォンヌを、恐る恐る背中からすっぽり覆うように抱き締めた。身動ぎ一つしない愛しい女性の柔らかな体と、いつまでも嗅いでいたい香りが一層高ぶる気持ちを燃え立たせる。
イヴォンヌを胸に抱きながら、彼女の「はい」という返事以外聞きたくないと力を込めて腕の中に閉じ込めた。
※※※※
背後から大きくて体温の高い彼に捕らわれる。硬い筋肉でできた要塞のような檻から逃げようと身動ぎすれば、扉は開くだろうか……。
ずっと自分の気持ちに蓋をして、辛い記憶と共に奥深くにしまっていた大切な想いが次から次へと現れ強くなっていく。
嬉しい、──どうして?
あなたが好き、──じゃあなんであんなに冷たかったの? もう終わった、気持ちなのに。
あなたが愛しい、──あの頃に聞きたかった、たった一つの言葉を今更?
ずっと抱き締めていて、──いいえ、ダメよ。フラットと歩むと決めたのに?
相反する気持ちと考えがぐるぐるイヴォンヌの中でせめぎ合う。
浅ましい、卑怯で醜い自分の気持ちが湧き出てしまい嫌になってしかたがない。
押し込めても、消そうと思ってもくすぶり続けた初めての気持ちはいとも簡単にこうやって燃え上がり大きくなるのだ。
「離して……」
小さく、離さないでという気持ちでそう言う。
それでも、彼の太い腕が解かれることが無い。そう、彼なら離さないと知っていて言った自分はとても小さな卑怯者だ。
でも、後ろから自分に顔を埋めるように抱きしめられ、熱い吐息を肌で感じて歓喜で心が震えてしまう。
「わ、わたくしは殿下の婚約者で……」
「知っている」
「もうすぐ、夫婦になるのよ……」
「……」
「望まれて、彼と歩むと決めて……」
「……」
「あ、あなたとは、もう、とっくに、終わったの……。いいえ、始まってすらいなかった……」
「……」
「わたくしは、彼と……」
「ダメだ。行かせない」
「あ、あなたがそんな事言うなんて、……言える権利など、とっくにないっ!」
「ああ、あの頃、俺が馬鹿だったばかりにその権利を手放したんだ」
サヴァイヴの表情が苦しくてたまらないと歪む。だが、反比例するかのように腕の肉が盛り上がりぐっとイヴォンヌを抱きしめた。
「離してっ!」
「離さない。もう、俺は諦めない」
本心とは真逆の言葉がイヴォンヌの口から何度も放たれる。
それを聞かされるごとにサヴァイヴは心を切り裂かれた気持ちになり眉をしかめるが、まるで大切なおもちゃを取り上げられそうになっている子供のように、彼女を更にかき抱いた。
彼女が本気で嫌がれば自分が作る檻はいとも簡単に開くだろう。そうならないのは、彼女の心の中で自分という存在があるに違いないと、そんな一縷の希望だけがサヴァイヴの腕に力を与えた続けたのであった。
片方は手にいれたいと思いつつ諦めようとし諦められず、片方は忘れたくても心の奥底で忘れられなかった人が目の前にいる。
過去の様々な感情が二人の胸に渦を巻き、立場や体裁などといった個々を守るための鎧までもを飲み込んでいった。
サヴァイヴは彼女だけを見つめ思わず震える手を伸ばそうとするが、イヴォンヌははっと我に返りその場を去って行こうと背を向けた。
その瞬間、サヴァイヴは自分のやるべき事もしてはならない言動も家の事も、彼女の地位や立場もなにもかもが心と頭から飛んでいった。
「待ってくれ! イヴォンヌ……、ヴィー……。ヴィーを傷つけるような王子なんかやめて俺の所に来てくれ……!」
足を一歩踏み出した時、サヴァイヴの切羽詰まったかのような声がかかり、イヴォンヌの足が止まった。思わず出てしまった言葉に対して、より驚愕したのは果たしてどちらなのだろうか。
「ヴィー……、……好きだ。ずっと子供の頃から愛しているのはヴィーだけなんだ……。王子がヴィーを幸せにすると信じていたから諦めようとしたんだ。でも無理なんだ……」
一度口にしてしまった自分の、届くことのないと思っていた、でもずっと住み着いてしまった思いが口から次々あふれ出す。
相手は王子の婚約者だ。このような言葉が他者の耳に入れば二人ともただではすまないだろう。
だが、止められない。息がとまるかのようなこの時が、ずっと続けばいいとばかりにサヴァイヴの視線と言葉、そして心が一直線にイヴォンヌの背を撃ち抜き彼女の足が止まる。
「サヴァイヴさ……ま……」
「突然こんな事を言ってすまない……。だが……! 幼い頃、ヴィーの気持ちに胡座をかいて甘えきって……。自分ばかりでヴィーを蔑ろにして悲しい思いをさせてごめん。あの頃に戻れるならと何度も思った。ヴィーが俺と来てくれるなら、なんとしても妻に出来るようにしてみせる! だから……!」
────それとも、もう、俺では無理なのか……? ヴィーを裏切ったというのに、それでもアイツがいいというのか?
不器用で格好悪い言葉しかサヴァイヴは吐き出せなかった。それでも、自分の気持ちの半分も彼女に伝えられないもどかしさに唇を噛む。
彼女の口から出されるであろう拒絶の意志が恐ろしくてたまらない。王子を愛していると、はっきり言われてしまえばと思うと心と体が震えて凍りついていくかのようだ。
返事のないイヴォンヌを、恐る恐る背中からすっぽり覆うように抱き締めた。身動ぎ一つしない愛しい女性の柔らかな体と、いつまでも嗅いでいたい香りが一層高ぶる気持ちを燃え立たせる。
イヴォンヌを胸に抱きながら、彼女の「はい」という返事以外聞きたくないと力を込めて腕の中に閉じ込めた。
※※※※
背後から大きくて体温の高い彼に捕らわれる。硬い筋肉でできた要塞のような檻から逃げようと身動ぎすれば、扉は開くだろうか……。
ずっと自分の気持ちに蓋をして、辛い記憶と共に奥深くにしまっていた大切な想いが次から次へと現れ強くなっていく。
嬉しい、──どうして?
あなたが好き、──じゃあなんであんなに冷たかったの? もう終わった、気持ちなのに。
あなたが愛しい、──あの頃に聞きたかった、たった一つの言葉を今更?
ずっと抱き締めていて、──いいえ、ダメよ。フラットと歩むと決めたのに?
相反する気持ちと考えがぐるぐるイヴォンヌの中でせめぎ合う。
浅ましい、卑怯で醜い自分の気持ちが湧き出てしまい嫌になってしかたがない。
押し込めても、消そうと思ってもくすぶり続けた初めての気持ちはいとも簡単にこうやって燃え上がり大きくなるのだ。
「離して……」
小さく、離さないでという気持ちでそう言う。
それでも、彼の太い腕が解かれることが無い。そう、彼なら離さないと知っていて言った自分はとても小さな卑怯者だ。
でも、後ろから自分に顔を埋めるように抱きしめられ、熱い吐息を肌で感じて歓喜で心が震えてしまう。
「わ、わたくしは殿下の婚約者で……」
「知っている」
「もうすぐ、夫婦になるのよ……」
「……」
「望まれて、彼と歩むと決めて……」
「……」
「あ、あなたとは、もう、とっくに、終わったの……。いいえ、始まってすらいなかった……」
「……」
「わたくしは、彼と……」
「ダメだ。行かせない」
「あ、あなたがそんな事言うなんて、……言える権利など、とっくにないっ!」
「ああ、あの頃、俺が馬鹿だったばかりにその権利を手放したんだ」
サヴァイヴの表情が苦しくてたまらないと歪む。だが、反比例するかのように腕の肉が盛り上がりぐっとイヴォンヌを抱きしめた。
「離してっ!」
「離さない。もう、俺は諦めない」
本心とは真逆の言葉がイヴォンヌの口から何度も放たれる。
それを聞かされるごとにサヴァイヴは心を切り裂かれた気持ちになり眉をしかめるが、まるで大切なおもちゃを取り上げられそうになっている子供のように、彼女を更にかき抱いた。
彼女が本気で嫌がれば自分が作る檻はいとも簡単に開くだろう。そうならないのは、彼女の心の中で自分という存在があるに違いないと、そんな一縷の希望だけがサヴァイヴの腕に力を与えた続けたのであった。
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