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小さな恋の始まりに……
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二人は3人の子を設けた。
長男は母に似たのか大人しく、争いを好まないが所作が美しく頭が良い。さらに、整った容姿のため、周囲が放っておかなかった。
長女は活発で、母に似た顔立ちの美少女である。今日も剣を振り回して騎士たちを困らせている。
次女は父に似て、整っているがやや怖く見える顔立ちで、十分にかわいらしいのに、いつも一人で本を読んでいるような大人しい少女だ。
次女が、野草の本を片手に、砦の敷地内にある野原をあっち行きこっち行きしていると、いつも彼女の邪魔をするかのように、母方のいとこである侯爵家の跡取りの子がいじわるをしてくる。
「なんだよ、また本なんか片手に一人でこんなとこに来て。せっかく俺たちが来てんだからさ、皆がいる所に戻ろうぜ」
「あ……」
乱暴に手を取られたために大事な本を落としてしまう。昨日降った雨のため、ぬかるんだ泥の中に沈んだため、少女の目があっという間に透明の水でいっぱいになった。
「……あっ。…………そ、外なんかに本を持ってくるからなんだぞ! なんだよ、そんな本!」
少年が、一瞬申し訳ないかのように眉をハノ字にした。けれども、何も言わずに本だけを見つめて涙をポタポタと落とす少女が自分を見てくれない事にイライラして大きな声をあげて彼女を責めてしまう。
そこに、フラットが隣国との定例会のために連れて来ている養子に迎えた、現王の3番目に生まれた男の子がやってくる。彼の義父母は、少女の両親と仲が良い。特に母親同士は親友として長い間交流を深めていた。
「やあ、二人とも、いないから探したよ。皆、心配しているから帰ろうか」
彼らよりも3つ年上の少年は、養父に似た容貌で彼の子だと言われてもなんら違和感がない。
「ヴァレリー、ほら。本は持って帰ったら修復してくれる大人がいるから大丈夫だよ」
「グスッ……。フレドお兄様……」
フレドと呼ばれた少年は、泥の中にあった本をそっと取り上げると、着ていたジャケットに包んだ。
「フレデリック様はそんな事をなさらず、ここは俺に任せてどうか皆の所に早くお戻りください!」
「そんな訳にはいかないだろう? さあ、ロランも。戻ろう」
フレデリックが優しくヴァレリーの手を握り、彼女に合わせてゆっくり歩いて行く。ヴァレリーは嬉しそうに、いつも優しいフレデリックを見上げて頬を染めた。
「ヴァレリー、もう泣かないでね。きっときれいになるから」
「うん、フレドお兄様」
「……」
ロランは、二人のやや後ろから、恨めしそうにその握られた手を見ていた。ぎゅっと拳を作ったあと、どんっとヴァレリーの小さな背を押した。
「きゃあ!」
「ロラン? ヴァレリー大丈夫かい? ほら、立ち上がって」
ロランが押した事で、折角離れた二人の手が再び、さっきよりも強く握られた。
「い、いつまでも、本を読んでおけばいいんだ! とろとろしちゃってさ! ばーか!」
ロランが、イライラしたまま悪態をつき、そのまま去って行った。ヴァレリーはとうとう大きな目からぽろぽろ涙を流し始めてしまい、フレデリックが泣き止むまで優しく彼女を慰め続けたのであった。
そんな彼らの小さな恋は、彼らが紡ぐ新たな物語になっていく──
【R18】初恋は甘く、手が届かない? ならば、その果実をもぎ取るだけだ~今宵、俺の上で美しく踊れ──完
長男は母に似たのか大人しく、争いを好まないが所作が美しく頭が良い。さらに、整った容姿のため、周囲が放っておかなかった。
長女は活発で、母に似た顔立ちの美少女である。今日も剣を振り回して騎士たちを困らせている。
次女は父に似て、整っているがやや怖く見える顔立ちで、十分にかわいらしいのに、いつも一人で本を読んでいるような大人しい少女だ。
次女が、野草の本を片手に、砦の敷地内にある野原をあっち行きこっち行きしていると、いつも彼女の邪魔をするかのように、母方のいとこである侯爵家の跡取りの子がいじわるをしてくる。
「なんだよ、また本なんか片手に一人でこんなとこに来て。せっかく俺たちが来てんだからさ、皆がいる所に戻ろうぜ」
「あ……」
乱暴に手を取られたために大事な本を落としてしまう。昨日降った雨のため、ぬかるんだ泥の中に沈んだため、少女の目があっという間に透明の水でいっぱいになった。
「……あっ。…………そ、外なんかに本を持ってくるからなんだぞ! なんだよ、そんな本!」
少年が、一瞬申し訳ないかのように眉をハノ字にした。けれども、何も言わずに本だけを見つめて涙をポタポタと落とす少女が自分を見てくれない事にイライラして大きな声をあげて彼女を責めてしまう。
そこに、フラットが隣国との定例会のために連れて来ている養子に迎えた、現王の3番目に生まれた男の子がやってくる。彼の義父母は、少女の両親と仲が良い。特に母親同士は親友として長い間交流を深めていた。
「やあ、二人とも、いないから探したよ。皆、心配しているから帰ろうか」
彼らよりも3つ年上の少年は、養父に似た容貌で彼の子だと言われてもなんら違和感がない。
「ヴァレリー、ほら。本は持って帰ったら修復してくれる大人がいるから大丈夫だよ」
「グスッ……。フレドお兄様……」
フレドと呼ばれた少年は、泥の中にあった本をそっと取り上げると、着ていたジャケットに包んだ。
「フレデリック様はそんな事をなさらず、ここは俺に任せてどうか皆の所に早くお戻りください!」
「そんな訳にはいかないだろう? さあ、ロランも。戻ろう」
フレデリックが優しくヴァレリーの手を握り、彼女に合わせてゆっくり歩いて行く。ヴァレリーは嬉しそうに、いつも優しいフレデリックを見上げて頬を染めた。
「ヴァレリー、もう泣かないでね。きっときれいになるから」
「うん、フレドお兄様」
「……」
ロランは、二人のやや後ろから、恨めしそうにその握られた手を見ていた。ぎゅっと拳を作ったあと、どんっとヴァレリーの小さな背を押した。
「きゃあ!」
「ロラン? ヴァレリー大丈夫かい? ほら、立ち上がって」
ロランが押した事で、折角離れた二人の手が再び、さっきよりも強く握られた。
「い、いつまでも、本を読んでおけばいいんだ! とろとろしちゃってさ! ばーか!」
ロランが、イライラしたまま悪態をつき、そのまま去って行った。ヴァレリーはとうとう大きな目からぽろぽろ涙を流し始めてしまい、フレデリックが泣き止むまで優しく彼女を慰め続けたのであった。
そんな彼らの小さな恋は、彼らが紡ぐ新たな物語になっていく──
【R18】初恋は甘く、手が届かない? ならば、その果実をもぎ取るだけだ~今宵、俺の上で美しく踊れ──完
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