完結 R18 さっぱり記憶にございませんっ!〜眼の前のだらし騎士(ナイト)は、私の婚約者らしい

にじくす まさしよ

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 彼の体型が、再びふっくらしてくると、鬱陶しかった女性のアプローチがあっという間に遠のいた。

 体型がちょっと変わっただけで現金なものねと呆れながら、この素晴らしいぷにぷにを独占できる喜びに浸る。

「おかあちゃまー」
「ひゃひゃうえー」
「……」

 三つ子がコロコロ転がりながら、(実際は転がっていない)駆け寄ってくる。三人とも夫に似てとてもかわいい。成長具合はそれぞれ個性があるが、皆元気いっぱいで、素直ないいコたちだ。

 ふにふにほっぺと、ふんわりした小さな体を三人まとめて抱きしめる。

 一番小さくて、まだ言葉が出せないコのことは心配がつきない。ただ、義母が言うには、夫も言葉を4歳くらいまで出せなかったらしい。ひとことしゃべりだしたら、あっという間に同年代のコたち以上の言葉をしゃべりだして、これなぁに攻撃に参ったほどだという。

 今の夫では味わえない、やわらかぷにぷにに包まれる極上のパラダイスを堪能する。獣化状態で遊んだのか、草と泥と汗の匂いが愛おしい。

「さあ、もうすぐお父様が帰ってくるわ。身支度してお迎えしましょうね」

 幸い、夫の仕事は、繁忙期でないかぎり定時上がりだ。時々、太りすぎないように訓練もしているようだが、夕食は家族全員でいただいている。

 もっと遊びたいとダダをこねるが、このコたちもパパが大好きだ。三人まとめてお風呂に入れると、お風呂で遊びだす。
 なかなか言うことを聞いてくれないやんちゃたちと一緒にびしょぬれになって、頭の先から爪の間までぴかぴかに磨いた。

 すると、お風呂の途中で彼が帰って来る。これもいつもの風景しあわせ

「ただいまー」
「あなた、おかえりなさい」
「あにゃた、おきゃえりー。じゃなきゃった。おとうちゃま、おきゃえりー」
「ちちうぇ、おかーりー」
「……」

 仕事で疲れているだろうに、子どもたちのお風呂の続きをしてくれるのもいつもの風景しあわせ。さっきまで一緒に悪戦苦闘していた侍女たちは、彼が入ってくると同時に風呂場から消えている。

「お、今日もみんなもっちもちだな! いい子たちだ!」
「もっちもちー」
「もっちー」
「……」

 子どもたちの面倒を見ながら、こっちをチラチラ見てくる視線は隠す気もなさそうだ。裸ではないものの、ぴったりひっついた薄い生地一枚が恥ずかしい。

「今日の晩御飯はなんだい?」
「んーと、ぷちょていーん」
「ぶりょっこりー」
「そうかそうか」

 彼にとってちょうどいい体型を維持するのも難しい。ぷに度もある程度欲しいため、ほどよく高タンパク低カロリーで、体に良いの食事の内容は、コック長が騎士団におすすめメニューを聞いて美味しくしあげてくれている。

「……」
「ん? まさか、父様のきらいなアレもあるのか?」
「……」
「そんな……。それは、ちょっと外してもらおう」
「……」
「え? ダメだって? ちょっとくらいいいだろ?」
「ぴーみゃんもたべなきゃダメだー」
「ダメー」
「……」

 言葉の出ないコが、彼のぽにっとしたお腹をぽんぽん叩くと、はいかいいえで答えられるように言葉を変えてくる優しい夫がいて、とても幸せだと思う。

「ピーマンを残さず食べるコはどこですかー?」
「ひゃーい」
「あーい」
「……」

 三つ子が元気よく手をあげる。子供たちがこれなのだから、渋々彼も手をあげた。

「ふふふ、皆おりこうさんね。今日は、ピーマンの肉詰めと、えんどう豆の豆ごはん。それに、厚揚げ豆腐のステーキと……デザートは、イチゴパフェよ。勿論、デザートは全部残さず食べた子だけね」
「やった!」
「わーい」
「……」

 今夜のメニューを言うと、子供だちが食堂に競争だと走っていく。

 彼は、イチゴパフェのような高カロリーのデザートは、ここ1ヶ月食べていない。甘党の彼は、きっと大嫌いなピーマンを食べるだろう。

「カティちゃん、僕だけピーマンを……」
「ええ、大丈夫、わかってるわ」
「カティちゃん!」

 嬉しそうに微笑む彼に、

「小さめのものにしたから、食べれるわよね?」
「え″……僕のだけナシとかじゃぁ」
「小さいものよ? 大丈夫でしょ?」
「うううう、うぅん……」

 どっちつかずの返事だが、食堂では決死の覚悟で食べるだろう。こんな、子供よりも子供っぽい彼のことも大好きでたまらない。

「もうすぐ妹か弟たちが産まれるんだから、頑張ってね、パパ」
「え?」

 カーテがお腹を擦りながら、さっき知ったばかりの医師の診断を伝える。すると、本当に嬉しそうに満面の笑顔になった。

「うそ、ほんとに?」
「ええ。ここ数年、気配すらなかったからあきらめていたけど」

 異種族のカップルでは子供ができにくい。だから、もう三つ子だけだと心から諦めていた矢先の朗報だった。

「そっか、そっかぁ。なら、もっと頑張らないとだね」
「ふふふ。もう充分すぎるほど頑張ってくれているわ。それに、あのコたちも、きっといいお兄ちゃんになってくれると思う」

 タッセルにそっと抱えられ、ゆっくり食堂に移動する。とっくに到着しているだろう子どもたちは、まだかまだかと待っているだろう。

 食事が始まり、運ばれてきたピーマンの肉詰めを彼が見た時、緑色がないただのハンバーグがお皿に乗っていた。それを見て、もっと喜んでいたのは言うまでもない。



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