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父たちはすぐ、被害者たちから依頼されていた弁護士とコンタクトを取った。幸い、姉の夫のひとりが法曹界に顔が利くため、今回のこともスムーズに相談できたのである。
数日で様々な情報が入り、ドーハンが報告するために、ふさぎ込んで部屋に閉じこもったエンフィのもとを訪れた。
「では、これまでの被害者の方々も、わたしと同じようにロイエさんのことを答えようとしてもできないということなのね?」
「その通りです、エンフィ様。弁護士によると、こういった精神系の魔法は細かな規定があり、ロイエという人物が行ったことは禁忌事項に値するとのこと。しかも、どうしようもない状況ではなく、完全に犯罪に使用しており情状酌量の余地はないとのことです」
「まぁ……。じゃあ、やっぱりイヤルは彼女になんらかの精神操作を受けていたということ?」
「ロイエという人物が、件の犯人であればその可能性は高いです。しかも、ルドメテ様についてはご実家もご存じなかったようですね。彼がエンフィ様にしたことをお聞きになり、大層憤慨されていたようです」
エンフィは、思いもかけない名前を聞き、目を丸くした。短期間にショックが立て続けに起こったので、ルドメテのことまで思いを馳せる余裕がなかった。当然のように、彼は無関係だと思い込んでいたのもある。
「ルド……? ルドがどうしたっていうの? その言い方だと、まるで彼も……」
手足の先が冷たい。イヤルだけでもあっぷあっぷだった心が、軋みをあげていった。顔色が悪くなりふらついた。ドーハンは、そんなエンフィの体を支える。今日はこれ以上話をしないほうがいいだろうと思ったが、ほかならぬ彼女が聞きたがり、少し考えたのち、言いづらそうに続けた。
「エンフィ様、気を確かにお聞きくださいね。これもまた、確実な情報ではありませんが、犯罪集団のひとりに、ルドメテ様によく似た大男が目撃されていたのです。おそらく、今回のエンフィ様とのご結婚も、予め計画されていたのではないかと。とはいえ、彼の存在が大きな手掛かりになると、大規模な取り締まりを早急に行うようになったので、ご心配なさらず」
「まさか、ルドまで……。イヤルから、ルドはロイエさんからの強い推薦があり、うちもあちらのご家族も賛成したというから彼を受け入れたのに……いえ、今更こんなことを言っても仕方がないわね。それよりも、イヤルは? イヤルもその集団の一味として捕まえられるのかしら?」
「イヤル様については、今のところ半々という見解のようです。取り調べの結果、イヤル様も罪を償わなければなりませんし、被害者であるのならば危険だから早く助けなくてはなりません。だからこそ、今回の捜査の先行部隊はすでにあちらに向かっているようですね。後者であるのなら、再婚どころかエンフィ様との離婚も無効になりますし、元通りになるのです」
「そうなのね……」
エンフィは、イヤルもルドも被害者であってほしいと願う。彼らが犯罪行為の片棒を担いでいたなど、信じたくもなかった。
しかし、問題は犯罪のことだけではない。一番肝心なのは、イヤルとルドが彼女を愛しているということだ。しかも、ロイエのお腹には彼の子がいる。彼が無関係であったとしても、もう幸せしかなかった頃のふたりには戻れない。男女として、元通りの夫婦としての修復は望めないだろうと、きゅっと唇を結んだ。
ドーハンは、そんな彼女をまじまじと見つめる。
「エンフィ様、あなたは彼らが憎くないのですか?」
「憎くないとは言えないわ。それ以上に悲しいの。ただでさえ、一気にいろんなことがありすぎて、もうどうしていいのか、わたしにはわからない」
「エンフィ様、私の配慮が足らず申し訳ございませんでした。きっと、彼らはロイエに魔法で騙されているのです。ロイエさえ捕まれば……」
小さく震える華奢な肩に、ドーハンの大きな手が添えられる。ドーハンは、こんな風に傷つく彼女を見たくなかった。使用人である自分では望むことのできない彼女が、イヤルのもとに行ったあの日、彼が彼女を、ずっと笑顔でいさせてくれると思っていたのだ。
こんなことになるくらいなら、あの時、「エンフィ様、どうかお幸せに」などと門出を祝福するのではなかったと奥歯をかみしめた。
「ドーハン……。イヤルたちとは、もう終わったのよ。ううん、とっくの昔に終わっていたの。ルドも、あの時彼女に寄り添ったもの。たまたま、犯罪と関わりがあるかもしれないという事実があっただけで、彼らが彼女を選んだ事実は変わらない。でもね、彼らの不幸を望んでいるわけじゃないわ。だから、犯罪などとは、無関係であってほしいし、被害者なら、被害がこれ以上拡大しないように早く助かって欲しいと思う」
エンフィの、祈りのような願いは、彼女への想いを胸の奥深く隠していたドーハンの心を強く打つ。今の、ともすれば消えてしまいそうな彼女を、一度は手放した人を、自分自身で再び笑顔にしたいと強く願った。
数日で様々な情報が入り、ドーハンが報告するために、ふさぎ込んで部屋に閉じこもったエンフィのもとを訪れた。
「では、これまでの被害者の方々も、わたしと同じようにロイエさんのことを答えようとしてもできないということなのね?」
「その通りです、エンフィ様。弁護士によると、こういった精神系の魔法は細かな規定があり、ロイエという人物が行ったことは禁忌事項に値するとのこと。しかも、どうしようもない状況ではなく、完全に犯罪に使用しており情状酌量の余地はないとのことです」
「まぁ……。じゃあ、やっぱりイヤルは彼女になんらかの精神操作を受けていたということ?」
「ロイエという人物が、件の犯人であればその可能性は高いです。しかも、ルドメテ様についてはご実家もご存じなかったようですね。彼がエンフィ様にしたことをお聞きになり、大層憤慨されていたようです」
エンフィは、思いもかけない名前を聞き、目を丸くした。短期間にショックが立て続けに起こったので、ルドメテのことまで思いを馳せる余裕がなかった。当然のように、彼は無関係だと思い込んでいたのもある。
「ルド……? ルドがどうしたっていうの? その言い方だと、まるで彼も……」
手足の先が冷たい。イヤルだけでもあっぷあっぷだった心が、軋みをあげていった。顔色が悪くなりふらついた。ドーハンは、そんなエンフィの体を支える。今日はこれ以上話をしないほうがいいだろうと思ったが、ほかならぬ彼女が聞きたがり、少し考えたのち、言いづらそうに続けた。
「エンフィ様、気を確かにお聞きくださいね。これもまた、確実な情報ではありませんが、犯罪集団のひとりに、ルドメテ様によく似た大男が目撃されていたのです。おそらく、今回のエンフィ様とのご結婚も、予め計画されていたのではないかと。とはいえ、彼の存在が大きな手掛かりになると、大規模な取り締まりを早急に行うようになったので、ご心配なさらず」
「まさか、ルドまで……。イヤルから、ルドはロイエさんからの強い推薦があり、うちもあちらのご家族も賛成したというから彼を受け入れたのに……いえ、今更こんなことを言っても仕方がないわね。それよりも、イヤルは? イヤルもその集団の一味として捕まえられるのかしら?」
「イヤル様については、今のところ半々という見解のようです。取り調べの結果、イヤル様も罪を償わなければなりませんし、被害者であるのならば危険だから早く助けなくてはなりません。だからこそ、今回の捜査の先行部隊はすでにあちらに向かっているようですね。後者であるのなら、再婚どころかエンフィ様との離婚も無効になりますし、元通りになるのです」
「そうなのね……」
エンフィは、イヤルもルドも被害者であってほしいと願う。彼らが犯罪行為の片棒を担いでいたなど、信じたくもなかった。
しかし、問題は犯罪のことだけではない。一番肝心なのは、イヤルとルドが彼女を愛しているということだ。しかも、ロイエのお腹には彼の子がいる。彼が無関係であったとしても、もう幸せしかなかった頃のふたりには戻れない。男女として、元通りの夫婦としての修復は望めないだろうと、きゅっと唇を結んだ。
ドーハンは、そんな彼女をまじまじと見つめる。
「エンフィ様、あなたは彼らが憎くないのですか?」
「憎くないとは言えないわ。それ以上に悲しいの。ただでさえ、一気にいろんなことがありすぎて、もうどうしていいのか、わたしにはわからない」
「エンフィ様、私の配慮が足らず申し訳ございませんでした。きっと、彼らはロイエに魔法で騙されているのです。ロイエさえ捕まれば……」
小さく震える華奢な肩に、ドーハンの大きな手が添えられる。ドーハンは、こんな風に傷つく彼女を見たくなかった。使用人である自分では望むことのできない彼女が、イヤルのもとに行ったあの日、彼が彼女を、ずっと笑顔でいさせてくれると思っていたのだ。
こんなことになるくらいなら、あの時、「エンフィ様、どうかお幸せに」などと門出を祝福するのではなかったと奥歯をかみしめた。
「ドーハン……。イヤルたちとは、もう終わったのよ。ううん、とっくの昔に終わっていたの。ルドも、あの時彼女に寄り添ったもの。たまたま、犯罪と関わりがあるかもしれないという事実があっただけで、彼らが彼女を選んだ事実は変わらない。でもね、彼らの不幸を望んでいるわけじゃないわ。だから、犯罪などとは、無関係であってほしいし、被害者なら、被害がこれ以上拡大しないように早く助かって欲しいと思う」
エンフィの、祈りのような願いは、彼女への想いを胸の奥深く隠していたドーハンの心を強く打つ。今の、ともすれば消えてしまいそうな彼女を、一度は手放した人を、自分自身で再び笑顔にしたいと強く願った。
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