変態騎士に好かれても困ります

むふ

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不能の訳

不能の訳3/6

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 そして5年もの歳月が過ぎた。


 騎士団の隊長となったルーカスは、本城から出て訓練場へ向かっていた。長い廊下を抜けて、訓練場につながる庭を抜けて行く。この渡り廊下は途中で城の管理など領地運営全般を司る部署が詰められた行政所に繋がっている。しかし、訓練場に行くにも行政所に行くにも正規のルートより遠回りの為、あまり利用する者はおらず人通りはかなりまばらだった。ここを通る物好きは、少しサボりたいか、途中にある小さな庭園目当てか、外部から来て迷ったかあたりだ。


 そして俺は何故か第3皇女に呼び出され、自分を直属の騎士にならないかとスカウトという名の夜のお誘いだった。


 ――忙しい中、急用だと言うから行ってみたら、寝室に引き込まれるとは思ってなかった……。


 すぐさま丁重にお断りして、扉の外に待っていた従者に一言釘を刺すことと、お嬢様がお疲れのようだからお休みになるように伝えてと足早に出てきた。


 下手したら子どもが出来ましたなどと言われて、騎士団追放、皇女の愛人アクセサリーにされかねない。


 ――ありがたいお誘いではあるが、俺は不能だから……。


 忙しいところ特に急用でもない事に呼び出されたことへの苛立ちと、自分が相変わらず男性としての役目の1つが果たせない事へのやるせなさに肩を落とした。


 無意識に足運びが雑になり、いつもより鎧の擦れる音が大きい気がするが気にしない。
 紳士なルーカスも苛立つ時はある。


 早く訓練場に戻って指導と、次行われる王城主催の有力者達を招いたパーティの護衛編成をしなければならない。




 足早に長い渡り廊下を歩いていると、前から明らかに薄汚れたローブを目深に被った人が歩いて来た。
 ここは王城の敷地内、これほど汚れた装いは場に相応しくなく、否が応でも浮く。


 ――侵入者?いや、それにしては不審な挙動はない。外部からの訪問者か。


 門で身体検査を行い、入城許可証が発行される。
 どこの部署、場所に目的があるのかそれによって許可証の色、記載内容が変わってくる。
 首から下げている許可証を見つけ、そのまま素通りしようと視線を上げた。




 すれ違いざまにチラリと見えた顔は女性。その女性をどこかで見たことがあるような、と思考を巡らせようとした途端、鼻腔に強烈な刺激臭。


「っ!!!?待って!」


 咄嗟に振り向いて、その女性の腕を掴んでしまった。
 いきなり腕を掴まれた女性は、後ろに引かれた拍子でフードが脱げた。


「……なんでしょうか」



 いきなり掴まれた事で不機嫌を隠そうとしない女性。
 顔が見えたが、やはり見覚えがある。


 ――……どこかで……。


「……あの、痛いです」
「え……ぁ、すまない」

 無意識に腕を伸ばしてしまっていた。彼女を止めてしまった建前、何かそれっぽい理由を話さなければいけないと思考を巡らせた。


「……ぁー、えー、急に失礼した。その、王城では見ない装いだったもので、ね。俺は騎士だから王城の警備も兼ねてるから……」


 あまりにも見た目が汚いから、どう言った要件でここに来ているかと、なんとかそれっぽい理由を聞けた。
 服だけでは無く、顔も茶色く汚れていて、汗なのか油なのか髪がしっとりおでこに張り付いていた。


「……申し訳ありません。カバン洞窟の調査の帰りなのです。トラブルなのか、報告期日を過ぎてしまったようで直接伺った次第です」


 掴んでいた腕を離しすと、丁寧に頭を下げられた。
 入城許可証を盗み見ると、緑の線。


 ――城外環境課か……。名前が見えないっ。


「そうか。すまなかったね。……俺もそちらの方に用事があるから途中までご一緒しても?」
「はい。どうぞ」


 風に乗って時折流れてくる刺激臭。
 最初嗅いだ時、脳に電撃が走った。
 今も匂いを感じる度に、体の血が駆け巡るのが分かる。


 ――この匂い……。やばいっ、もっと嗅ぎたい。


 出来るだけ風下に入れるようピッタリと横に着くが、気を抜くと顔を首筋に近づけようとしてしまう。


 特に何を話す訳でもなく、たまに意識を飛ばしながら歩みを進めるとあっという間に行政所の建物についてしまった。


「私、ここですので失礼します」
「ぇ、ぁ」

 そう言って彼女はすっと建物に入ってしまった。
 突然の別れに何も言えず、歯切れの悪い小さな声を発する事しかできなかった。
 残った残り香が鼻を擽り、彼女が入って行った扉を見つめる。惚けていた数分の時が過ぎて、後ろから声をかけられるまでその場に突っ立っていた。
 声をかけられると同時に、自分のモノがとても窮屈に頭をもたげている事に気がついた。


「え!ぁ、すまないっ」


 扉の前に立っていたので、すぐ横にずれる。相手に向き変えることはせず、背中を向けたまま自分のアソコが見えないようにドギマギしていた。




 ――……っ、勃起たった。





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