ヒレイスト物語

第五章 旅立ち

表裏

「わかったみたいだな」


「なんとなく。ツァール様が思ってそうなことは・・・ツァール様が一番変わったんじゃないですか？」


「そうか？誰かに似てきたとは思うがな」


「確かに」


「まあ、ツァール様に悪意はない、それだけだ、俺に言えることは」


「それはわかってますけど・・・」


それにしてもだ。それをまとめる人の気持ちも考えて欲しい。今の状態では目的が違いすぎる。一番それに相応しい人選だとしても、それにだけ集中されても困る。まあ、そこら辺はそっちでどうにかしろということなんだと思う


「そんなに考え込んでどうしたんだ？」



「ツァール様はとんでもないものを背負わせたなと思いまして」


「なんだかよくわからんが、ツァール様はお前を信用してるんだよ。ビスならそれぐらいはできるだろうと」


「簡単に言ってくれますね。過大評価しすぎですよ」


「そうであったら、そこまでの話ってとこだろ。お前が無理と判断したら、無理矢理突き進むやつでもないこともお見通しなんじゃないか」


「それこそ、過大評価です。俺はそんなにお利口じゃないです」


「ははは、“お利口”じゃないか。まあ、それも俺の想像でしかないからな、真相はわからない」


ここまでクラフトと話していてわかったことがある。クラフトはツァールから話を聞いているはずだということ、でなければ色々とおかしい。そう思えば思うほど、ツァールのことを恐ろしく感じる。

ここまで承知の上で動いているとなると、掌の上で踊らされているようだ。変わったというより、本質を知らな過ぎたのだろう。優しすぎる、裏を返せば相手をよく見ているということ、相手の気持ちを捉えることに長けているともいえる。“すぎる”が消えそれが表に出てきたのだ、それだけ。ただ、このままでいるのは癪に障る


「すごいですね」


「だろ。俺の主君は、今も昔もすごいんだよ」


「なんでさっきの言葉、ツァール様のことだと思ったんですか？別に誰とも言ってませんよね？」


「ん？そうだったか、あー、えーと」


クラフトが言葉に詰まっている。俺の予想は大体あたっていたのだろう。これ幸いに問い詰めてやろうと思ったらドアがノックされる。


「クラフト様、こちらにいらっしゃると伺ったのですが、いらっしゃいますか？」


「ああ、ここにいる。ちょっと待ってくれ」


クラフトにお客のようだ。クラフトは席を立ちドアの方へ向かう。なぜこのタイミングで、いいところだったのに。そんなことを思っているとクラフトが頭を掻いて戻ってきた。


「ははは、ツァール様がお呼びのようでな、済まんがここで退散させてもらう」


「はっ!?」



驚きすぎて思わずそんな言葉が出てきた。本当に恐すぎる、ここまで計算通りってか。そう思いたくないほど、完璧なタイミングだ。俺ではなくクラフトにとってだが


「はあ、わかりました。お話ありがとうございました」



「いいのか？」


「いいも何も、もう俺が聞けることはもうないみたいですし。早くツァール様のところに行った方がいいと思いますよ」


「ああ、悪いがそうさせてもらう」


そういうと、クラフトは俺の部屋から出ていこうとする


「あっ、クラフトさん。最後に一つだけ聞いてもいいですか？」



「ん？なんだ？」