逆行したら別人になった

弥生 桜香

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第一章

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 夜が完全に開ける前に私は目を覚ました。

「うーん…。」

 背伸びをして体をほぐし、そして、昨日用意していた服に着替えはじめる。
 まだ寝ている二人の寝顔を見て、もう少し寝ていていいからという意味を込めて、そっとその頭を撫でる。
 ジェダイドの髪はどちらかと言えば固く、でも、心地よく。
 セラフィナイトの髪は何故か私に似ていてサラサラで、でも、私と違って絹のようなそんな手触りをしている。

「こんな日が続けばいいのにね。」

 二人がこうして穏やかにいられる日常を作っていきたい、例え、私の命と引き換えと言われても、構わない。
 二人が幸せならば、私のちっぽけな命なんて大した代償じゃないから。

 そっと二人の額に口づけを落とし、私はそのまま外へと向かう。
 朝露に濡れた葉に私は力を貰い、そして、水瓶を持って共同井戸まで向かう。
 水を一杯に張り、水瓶を持って歩く。

 零れ落ちないように慎重に歩きながら私は昨夜使わせていただいた台所に向かい、簡単な朝食を用意する。
 パンが残っていたので、パンと後野菜たっぷりのスープとみじん切りした玉ねぎとすりおろした人参のオムレツを用意する。

「お…嬢ちゃん、悪いな。」

 朝の鍛錬の後なのか、汗を拭うコーラルの父に私は頭を下げる。

「おはようございます、勝手に台所を借りました。」
「いいんだよ、つーか、悪いな。」
「何がですか?」
「いや、客人に晩飯どころか朝食まで用意してもらってな。」

 罰が悪そうな顔をしている彼に私は首を傾げる。

「いえ、泊めていただいたのに、何もしない方がこちらとしては心苦しいので。」
「……。」

 私の言葉にコーラルの父は黙り込み、そして、少し乱暴ぎみに私の頭を撫でた。

「えっ?」
「よし、嬢ちゃん、ちょっと付き合え。」
「えっ?」
「稽古だよ、稽古。」
「で、でも…。」
「大丈夫、大丈夫。」

 半ば拉致されるように私は庭に連れ出されました。
 そして、何故か木刀を持たされ、コーラルの父と対峙しています。
 何故、こんな事になってしまったのでしょうか。
 訳がわかりません。

「いつでもきていいからな。」
「……。」

 隙のない構えに私は一度目を閉じる。
 切り替える、普段ではなく、戦闘に。

 次に瞬間、目を開ければ、どう動けばいいのか体が勝手に動く。

 地面を蹴り、真正面にぶつかる。

 男は一瞬たじろいだが、すぐに私の剣をいなす。

「――っ!」
「……。」

 男は驚き、隙を作る。

 私は一歩前に出る。

 男は反射的に剣で私の顔を狙うが、私はそれを最低限の動きでかわす。

 剣が掠る事もなく、そのまま勢いを殺せなかった男は隙だらけだった。

「嘘…だろう……。」

 冷や汗が地面に落ちる。
 私は木刀の切っ先を男の喉元に突き付けている。

「……強いと思っていたが、ここまでだなんてな……。」

 さて、どうする。

 殺すか。

 殺さないか。

 刹那、パンパンと乾いた音がして、私はハッとなる。

「凄いわね、彼を剣技のみで倒すなんて。」

 純粋に私を褒めるコーラルの母親のお蔭で私は正気に戻る事が出来た。

 しかし、私は思ってしまった。

 やってしまった。

 私は木刀を引き、そして、額に手を当てる。

「あら、どうしたの?」
「いえ、久しぶりの強い相手で、少しばかり、やってしまったと思い、反省しているだけです。」
「あら。」
「……。」
「ねぇ、何で反省しているのかしら?」
「…力にのまれそうでしたから。」
「……。」

 ジッと私を見るコーラルの母に私はいたたまれなく思います。

「そうは見えなかったけれども。」
「もっと理性的に戦えるのがベストですから、アレはある意味本能で動いていますから、最終的には生かすか、殺すか、そう考えてしまうので。」
「……。」

 私の言葉に二人は難しそうな顔をする。

「一体どんな暮らしをしていたんだ。」
「さあ、でも…下手に刺激したくないわ。」

 こそこそと二人が話していますが、ばっちり私の耳に届いています。
 そして、それを打ち破るように扉が勢いよく開く。

「……。」

 扉を見ると肩で息をしているジェダイドと彼に抱っこされているセラフィナイトの姿があった。

「ジェダイド?」
「……はぁ…、起きたらいないから、出ていったのかと思った。」
「荷物普通にあったよね?」
「見えてねぇ。」
「……。」

 髪を掻き上げ、ホッとしているジェダイドに私は何故そこまで焦るのかと理解は出来なかったが、一つ彼に言う事にする。

「あの、寝間着から着替えた方がいいのでは?」
「――っ!」

 ジェダイドが今ようやく自分が寝間着だという事に気づいたのか、ハッとなりすぐに引っ込んでいった。

「あの、私セラフィナイトの着替えをするので、あっ、木刀ありがとうございました。」

 取り敢えず、木刀をコーラルの父に返し、私はジェダイドの後を追った。
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