もう一度君と…

弥生 桜香

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第六章

第六章「体育祭」15

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 あのキス騒動は係員が無理やり彼らを移動させるという行為で収まった。

「……。」

 膝を抱えて地面に「の」の字を書く碧に涼也は同情のような、阿保の子を見るような目で見ていた。

「うー……。」
「お前が俺を挑発するからだろうが。」
「……。」
「別にいいだろう、減るものじゃないし。」
「…減る…。」
「何が減るんだよ。」
「俺の大事な何か。」
「はっ、お前の大事なモノってなんだよ。」

 鼻で笑う樹に碧は涙目で彼を睨む。

「俺だってプライドっていうもんがあるんだよ。」
「……そもそも仕掛けてきたのはお前じゃないかよ。」
「……。」
「それなのに落ち込むのは可笑しいんじゃねぇか。」
「アレは一回きりでいいだろうが、それなのに、二回目は不必要だ。」
「はっ、一回も二回も同じだと言ったのはてめぇだろう。」
「アレは別だろう話しが。」
「同じだろう。」
「何処がだよ。」
「どうせ、一回目も、二回目も、全校生徒の前だったんだ、三回目も別に変りはしないだろう。」
「変わるだろうがっ!」

 ギロリと碧は樹を睨みつける。

「さっきと言っている事違うな。」
「お前の所為だろうがっ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴る碧に樹がどこか満足そうに笑った。

「何笑ってやがる。」
「何でオレが笑わないといけない。」
「……分かってないのか?」
「何がだよ。」

 碧の言いたい意味が分からないのか、樹は怪訝な顔をしている。

「……お前って変な奴だな。」
「……お前には言われたくない。」
「………。」
「………。」
「はいはい、二人とも、そろそろ、その辺にしろよ。」

 涼也は傍観していたが、何とか話しかけやすい雰囲気間で落ち着いたので割り込む。

「何だ。」
「閉会式。」

 不機嫌さを隠そうとしない樹に涼也もそっけなく答える。

「……お前らさ、仲がいいのは分かるけど、痴話喧嘩も抑えめでやってくれ、見てて鬱陶しい。」
「はぁっ!」
「何処がだ。」

 涼也の言葉に驚く碧、そして、眉間に皺を寄せる樹。

「…無自覚こえぇ。」

 涼也は二人の反応は半ば予想していたが、それでも、その通りだった事にうんざりとしながらそんな言葉を吐きだす。
 こうして、バタバタな体育祭は終わった。
 勿論、碧の活躍で涼也たちの組がダントツで優勝を果たしたのだった。
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