もう一度君と…

弥生 桜香

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第十一章

第十一章「ホワイトデー」13

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 茜色から藍色に変わる空。
 碧は電柱の陰に立つ人物に気づかなかった。

「おい、無視するな。」

 不機嫌な声音に碧はぐっと眉間にしわを寄せた。

「何で、お前がこんな場所にいるんだよ。」
「別にいいだろう。」
「へいへい。」

 どうせ、俺には分からない高尚な考えがあるんでしょうね、と毒づきながら碧は樹を睨む。

「んで?」
「お前、男にちやほやされて嬉しいのか?」
「はあ?」

 滅茶苦茶心外な言葉を言われて、碧は顔を歪める。

「何で俺が男にちやほやされて喜ばないといけないんだよ。」
「好きだから女装するんだろう?」
「んな訳ねぇだろうっ!」

 碧は怒鳴るが、それ以上に静かな怒気を燃やしている樹の方が怖かった。

「なら、何であんな格好をするんだ。」
「女子に言えよ、俺は嫌だって言っているっ!」
「はっ、好きだから、やっているんだろう?」
「……。」

 碧はイライラしていた。
 自分だってあんな女装をしたくないと思っているのに、言うに事欠いて樹に喜んでいると言われるものだから、碧の怒りは上限を超えた。

「んな訳ねぇだろう。」

 低い声に樹はようやく碧をちゃんと見る。

「おい。」
「俺は好きでやってねぇ、下手にしらけたくねえから仕方なくやっているんだよ。」

 碧はなんだかんだ付き合うのは優しいからだ。
 お願いをされて碧はよっぽどじゃなければ渋々でも受ける。
 それに女子が甘えているのだ。
 女装はほんとに嫌だったけど、それでも、女子の反応を見て諦める方に傾いてしまうのだ。
 それを男にちやほやされたいからだと言われ、碧は全身で拒否をしていた。

「お前。」
「どうせ、お前に何を言っても無駄だろうな。」

 すっと表情を消し、碧は樹を無視する。
 樹は予想外の反応をされ、一瞬、動きを止めるが、すぐに、碧の肩を掴む。

「おい。」

 しかし、碧はそれを軽く弾いた。

「触るな。」

 樹を拒否するその目はぞっとするほど冷たかった。

「お前が俺を嫌うのなら別にいい。俺だって今からお前を嫌いになってやるから。」

 そう言うと、何事もなかったかのように碧は歩き出す。

「違う、俺は……。」
「……。」

 背後で樹が苦しそうに色々呟いていたが、碧の耳に入らない。

「この、いい加減にしやがれよ、尻軽っ!」

 何を思って樹がそんな言葉を吐いたのか分からないけれども、碧はその言葉が異様に頭の中に残ったのだった。
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