もう一度君と…

弥生 桜香

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第五章

第五章「文化祭」4

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 台本が渡されたのは劇が決まってから三日後だった。

「はい、取り敢えず、仮で作ったから。」
「ありがとうね、メグ。」
「いいのよ、折角だし、いい作品を作りたいしね。」
「それじゃ、台本を一通り読んでみましょう。」

 涼也は台本を読みはじめ、ふと、自分が演じたのと違うような気がするので、記憶を引っ張り出し、顔を僅かに引きつらせた。
 そう、自分が姫役だった時は今は木その①になっているダチが小人役に抜擢されており、その時に悪意なのか、天然なのか分からないが、本来のこの台本がギャグなのかという出来事が起こった。
 例えば白雪姫にまかれた紐を取るはずなのに、逆に締め付けたり、スカートの裾を引っ張ったり、その為白雪姫と七人の小人のシーンは必要箇所のみにカットされ、王子訳の名倉の出番をかなり入れたのを思い出す。

「鏡よ、鏡、この世で一番美しいのはだーれ?」

 王妃役のセリフにハッとなり、涼也は台本に目を走らせる。
 そして、自分のセリフを見つけ、それを口にする。
 危なかったと、こっそりと掌に掻いた汗をズボンで拭う。
 シーンは進み、碧の出番が来た。
 意外にも彼はうまかった。
 そして、そう思ったのは他にもいたようで、その一人がニヤリと笑い、碧の背後に立つと、いつの間にか用意していた彼の髪色そっくりと金色のかつらをかぶせた。

「うわっ!」
「きゃーっ!」
「凄い、可愛い。」
「ありえなーい。」

 突然かぶせられたかつらに驚く碧は顔を上げると、そこには男子の制服を着こんだ美少女がいた。

「白雪姫って黒髪、とか思ったけど、これはこれで。」
「いいわね、どうせ、学生のイベントだし。」
「決定。」
「腕が鳴るわね。」

 完全に裏方モードに入っている女子に幾人かの男子が引く。
 そして、完全に逸れてしまっているので、女子の学級委員が手を鳴らす。

「はいはい、練習に戻るわよ、鳴海はそれを付けたまんまでね。」
「えー。」
「あんた見た目は良いけど、その動作とかは男なんだし、かつらつけている時は演じときなさいよ。」
「うげ…。」
「あっ、それなら。」

 一人の女子は目をキラキラさせるが、それを見た幾人かは碧に同情の目を向ける。
 碧はその女子に強いあこがれを抱いており、そのせいで、現実を見ていないのか、自分を助けてくれるのか、と期待を持った目で彼女を見つめていた。

「わたしの制服の予備を貸すね。」
「へ?」
「背丈も同じだし、入るでしょ?」
「ナイス、春香。」
「もし、入らなかったとしたら、あたしのを貸すしね。」
「決定ね、明日から鳴海は女子の制服を着ながらね。」
「嫌だ、俺おかまになりたくないっ!」
「大丈夫、似合うから。」
「そうそう。」

 何とも楽しそうな彼女たちに自分の頃はあそこまでなかったな、と現実逃避をする涼也は完全に傍観に徹している。

「おい、いい加減にしろ。」
「な、名倉っ!」

 碧は女子の魔の手から逃げて樹の後ろに逃げ込む。

「おい、何するんだ。」
「助けてくれ。」
「ああん?」
「いいだろう、いつも女に囲まれているんだし。」
「んな事ねえ。」
「ある。」
「ねえ。」
「ある。」
「ねえだろうが。」
「あるったら、ある。」
「てめぇ、やるか。」
「おう。」

 喧嘩腰の二人に涼也は溜息を零し、二人の会話に割り込む。

「お前らいい加減にしてくれないか、そろそろ、俺上がりたいんだけど。」
「ああん?」
「今日はトイレットペーパーのタイムサービスがあるんだよ。」
「マジ、どこどこ。」
「駅の近くのスーパー。」

 目をキラキラと輝かせる碧に涼也は苦笑する。

「行くか?」
「もち。」

 涼也は全体を見渡し、肩を竦めている男の学級委員長に小さな合図を送る。

「今日はこの辺でいいじゃねぇか?」
「えっ、でも。」
「どうせ、これ以上やっても脱線するだろうが。」
「……。」
「なら、明日台本を読んで頭から通しでいいだろう?」
「そうね。」
「それなら、俺らは行くな。」
「おう、明日は逃げんじゃねぇぞ、特に鳴海。」
「わーってるよ。」

 碧はいつの間にか鞄を握っており、不満そうに唇を尖らせる。

「そんじゃ、解散、解散。」

 バラバラと男子は散り、女子たちは何故か円になって話し合っているが、涼也をはじめとする男子生徒は関わり合いたくないのか、彼女たちを避ける。

「おーい、りょーや。」
「ああ。」

 呼ばれ、涼也は一瞬変な顔をするが、碧に手を引かれ、彼が何も言わないので、彼は口を噤む。

「そんじゃ、皆、また、明日。」
「じゃーな。」
「おう。」

 碧はニカリと笑い長い金髪を靡かせて教室から出ていく。
 そして、目当ての品を買ってホクホクとしている碧に同じ孤児院育ちの小学生の子にそのかつらを指摘され、彼がショックを受けて頭を抱えて蹲る事になるのだが、この時の碧は知る由もなかった。
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