32 / 162
第五章
第五章「文化祭」4
しおりを挟む
台本が渡されたのは劇が決まってから三日後だった。
「はい、取り敢えず、仮で作ったから。」
「ありがとうね、メグ。」
「いいのよ、折角だし、いい作品を作りたいしね。」
「それじゃ、台本を一通り読んでみましょう。」
涼也は台本を読みはじめ、ふと、自分が演じたのと違うような気がするので、記憶を引っ張り出し、顔を僅かに引きつらせた。
そう、自分が姫役だった時は今は木その①になっているダチが小人役に抜擢されており、その時に悪意なのか、天然なのか分からないが、本来のこの台本がギャグなのかという出来事が起こった。
例えば白雪姫にまかれた紐を取るはずなのに、逆に締め付けたり、スカートの裾を引っ張ったり、その為白雪姫と七人の小人のシーンは必要箇所のみにカットされ、王子訳の名倉の出番をかなり入れたのを思い出す。
「鏡よ、鏡、この世で一番美しいのはだーれ?」
王妃役のセリフにハッとなり、涼也は台本に目を走らせる。
そして、自分のセリフを見つけ、それを口にする。
危なかったと、こっそりと掌に掻いた汗をズボンで拭う。
シーンは進み、碧の出番が来た。
意外にも彼はうまかった。
そして、そう思ったのは他にもいたようで、その一人がニヤリと笑い、碧の背後に立つと、いつの間にか用意していた彼の髪色そっくりと金色のかつらをかぶせた。
「うわっ!」
「きゃーっ!」
「凄い、可愛い。」
「ありえなーい。」
突然かぶせられたかつらに驚く碧は顔を上げると、そこには男子の制服を着こんだ美少女がいた。
「白雪姫って黒髪、とか思ったけど、これはこれで。」
「いいわね、どうせ、学生のイベントだし。」
「決定。」
「腕が鳴るわね。」
完全に裏方モードに入っている女子に幾人かの男子が引く。
そして、完全に逸れてしまっているので、女子の学級委員が手を鳴らす。
「はいはい、練習に戻るわよ、鳴海はそれを付けたまんまでね。」
「えー。」
「あんた見た目は良いけど、その動作とかは男なんだし、かつらつけている時は演じときなさいよ。」
「うげ…。」
「あっ、それなら。」
一人の女子は目をキラキラさせるが、それを見た幾人かは碧に同情の目を向ける。
碧はその女子に強いあこがれを抱いており、そのせいで、現実を見ていないのか、自分を助けてくれるのか、と期待を持った目で彼女を見つめていた。
「わたしの制服の予備を貸すね。」
「へ?」
「背丈も同じだし、入るでしょ?」
「ナイス、春香。」
「もし、入らなかったとしたら、あたしのを貸すしね。」
「決定ね、明日から鳴海は女子の制服を着ながらね。」
「嫌だ、俺おかまになりたくないっ!」
「大丈夫、似合うから。」
「そうそう。」
何とも楽しそうな彼女たちに自分の頃はあそこまでなかったな、と現実逃避をする涼也は完全に傍観に徹している。
「おい、いい加減にしろ。」
「な、名倉っ!」
碧は女子の魔の手から逃げて樹の後ろに逃げ込む。
「おい、何するんだ。」
「助けてくれ。」
「ああん?」
「いいだろう、いつも女に囲まれているんだし。」
「んな事ねえ。」
「ある。」
「ねえ。」
「ある。」
「ねえだろうが。」
「あるったら、ある。」
「てめぇ、やるか。」
「おう。」
喧嘩腰の二人に涼也は溜息を零し、二人の会話に割り込む。
「お前らいい加減にしてくれないか、そろそろ、俺上がりたいんだけど。」
「ああん?」
「今日はトイレットペーパーのタイムサービスがあるんだよ。」
「マジ、どこどこ。」
「駅の近くのスーパー。」
目をキラキラと輝かせる碧に涼也は苦笑する。
「行くか?」
「もち。」
涼也は全体を見渡し、肩を竦めている男の学級委員長に小さな合図を送る。
「今日はこの辺でいいじゃねぇか?」
「えっ、でも。」
「どうせ、これ以上やっても脱線するだろうが。」
「……。」
「なら、明日台本を読んで頭から通しでいいだろう?」
「そうね。」
「それなら、俺らは行くな。」
「おう、明日は逃げんじゃねぇぞ、特に鳴海。」
「わーってるよ。」
碧はいつの間にか鞄を握っており、不満そうに唇を尖らせる。
「そんじゃ、解散、解散。」
バラバラと男子は散り、女子たちは何故か円になって話し合っているが、涼也をはじめとする男子生徒は関わり合いたくないのか、彼女たちを避ける。
「おーい、りょーや。」
「ああ。」
呼ばれ、涼也は一瞬変な顔をするが、碧に手を引かれ、彼が何も言わないので、彼は口を噤む。
「そんじゃ、皆、また、明日。」
「じゃーな。」
「おう。」
碧はニカリと笑い長い金髪を靡かせて教室から出ていく。
そして、目当ての品を買ってホクホクとしている碧に同じ孤児院育ちの小学生の子にそのかつらを指摘され、彼がショックを受けて頭を抱えて蹲る事になるのだが、この時の碧は知る由もなかった。
「はい、取り敢えず、仮で作ったから。」
「ありがとうね、メグ。」
「いいのよ、折角だし、いい作品を作りたいしね。」
「それじゃ、台本を一通り読んでみましょう。」
涼也は台本を読みはじめ、ふと、自分が演じたのと違うような気がするので、記憶を引っ張り出し、顔を僅かに引きつらせた。
そう、自分が姫役だった時は今は木その①になっているダチが小人役に抜擢されており、その時に悪意なのか、天然なのか分からないが、本来のこの台本がギャグなのかという出来事が起こった。
例えば白雪姫にまかれた紐を取るはずなのに、逆に締め付けたり、スカートの裾を引っ張ったり、その為白雪姫と七人の小人のシーンは必要箇所のみにカットされ、王子訳の名倉の出番をかなり入れたのを思い出す。
「鏡よ、鏡、この世で一番美しいのはだーれ?」
王妃役のセリフにハッとなり、涼也は台本に目を走らせる。
そして、自分のセリフを見つけ、それを口にする。
危なかったと、こっそりと掌に掻いた汗をズボンで拭う。
シーンは進み、碧の出番が来た。
意外にも彼はうまかった。
そして、そう思ったのは他にもいたようで、その一人がニヤリと笑い、碧の背後に立つと、いつの間にか用意していた彼の髪色そっくりと金色のかつらをかぶせた。
「うわっ!」
「きゃーっ!」
「凄い、可愛い。」
「ありえなーい。」
突然かぶせられたかつらに驚く碧は顔を上げると、そこには男子の制服を着こんだ美少女がいた。
「白雪姫って黒髪、とか思ったけど、これはこれで。」
「いいわね、どうせ、学生のイベントだし。」
「決定。」
「腕が鳴るわね。」
完全に裏方モードに入っている女子に幾人かの男子が引く。
そして、完全に逸れてしまっているので、女子の学級委員が手を鳴らす。
「はいはい、練習に戻るわよ、鳴海はそれを付けたまんまでね。」
「えー。」
「あんた見た目は良いけど、その動作とかは男なんだし、かつらつけている時は演じときなさいよ。」
「うげ…。」
「あっ、それなら。」
一人の女子は目をキラキラさせるが、それを見た幾人かは碧に同情の目を向ける。
碧はその女子に強いあこがれを抱いており、そのせいで、現実を見ていないのか、自分を助けてくれるのか、と期待を持った目で彼女を見つめていた。
「わたしの制服の予備を貸すね。」
「へ?」
「背丈も同じだし、入るでしょ?」
「ナイス、春香。」
「もし、入らなかったとしたら、あたしのを貸すしね。」
「決定ね、明日から鳴海は女子の制服を着ながらね。」
「嫌だ、俺おかまになりたくないっ!」
「大丈夫、似合うから。」
「そうそう。」
何とも楽しそうな彼女たちに自分の頃はあそこまでなかったな、と現実逃避をする涼也は完全に傍観に徹している。
「おい、いい加減にしろ。」
「な、名倉っ!」
碧は女子の魔の手から逃げて樹の後ろに逃げ込む。
「おい、何するんだ。」
「助けてくれ。」
「ああん?」
「いいだろう、いつも女に囲まれているんだし。」
「んな事ねえ。」
「ある。」
「ねえ。」
「ある。」
「ねえだろうが。」
「あるったら、ある。」
「てめぇ、やるか。」
「おう。」
喧嘩腰の二人に涼也は溜息を零し、二人の会話に割り込む。
「お前らいい加減にしてくれないか、そろそろ、俺上がりたいんだけど。」
「ああん?」
「今日はトイレットペーパーのタイムサービスがあるんだよ。」
「マジ、どこどこ。」
「駅の近くのスーパー。」
目をキラキラと輝かせる碧に涼也は苦笑する。
「行くか?」
「もち。」
涼也は全体を見渡し、肩を竦めている男の学級委員長に小さな合図を送る。
「今日はこの辺でいいじゃねぇか?」
「えっ、でも。」
「どうせ、これ以上やっても脱線するだろうが。」
「……。」
「なら、明日台本を読んで頭から通しでいいだろう?」
「そうね。」
「それなら、俺らは行くな。」
「おう、明日は逃げんじゃねぇぞ、特に鳴海。」
「わーってるよ。」
碧はいつの間にか鞄を握っており、不満そうに唇を尖らせる。
「そんじゃ、解散、解散。」
バラバラと男子は散り、女子たちは何故か円になって話し合っているが、涼也をはじめとする男子生徒は関わり合いたくないのか、彼女たちを避ける。
「おーい、りょーや。」
「ああ。」
呼ばれ、涼也は一瞬変な顔をするが、碧に手を引かれ、彼が何も言わないので、彼は口を噤む。
「そんじゃ、皆、また、明日。」
「じゃーな。」
「おう。」
碧はニカリと笑い長い金髪を靡かせて教室から出ていく。
そして、目当ての品を買ってホクホクとしている碧に同じ孤児院育ちの小学生の子にそのかつらを指摘され、彼がショックを受けて頭を抱えて蹲る事になるのだが、この時の碧は知る由もなかった。
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
長年の恋に終止符を
mahiro
BL
あの人が大の女好きであることは有名です。
そんな人に恋をしてしまった私は何と哀れなことでしょうか。
男性など眼中になく、女性がいればすぐにでも口説く。
それがあの人のモットーというやつでしょう。
どれだけあの人を思っても、無駄だと分かっていながらなかなか終止符を打てない私についにチャンスがやってきました。
これで終らせることが出来る、そう思っていました。
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜
キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。
モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。
このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。
「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」
恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。
甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。
全8話。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる