もう一度君と…

弥生 桜香

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第四章

第四章「いつだって」2

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 一人残った涼也は背伸びをする。

 いつだって、京也は、他人の事ばかりだ。

 自分の事なんて後回しにしてしまうところがあり、他人に気を使いすぎて自分の事に関してはなかなか相談してくれない。
 半身である自分にさえ、なかなか弱みを見せない彼は「前」の時は色々なものを抱え込んだまま、死んでしまった。

 今さら彼が何を思っていたのかなんて分からない。

 だけど、今ならば間に合う。

 絶対に片割れを失いたくない。

 もう二度とあんな思いをしたくない。

 もう一度君と笑い合えるなら。

 もう一度君と同じ時を過ごせるなら。

 もう一度君とこの美しくとも悲しい世界を生きられるのならば、例え、天罰が下されようとも涼也は禁忌を犯すつもりでいた。

 涼也は自分の思考に自嘲を浮かべる。

「あーあ、なんつーか、らしくないな。」

 涼也は頭を掻いてそっと外を見る。

 変わり出した世界。

 それはどのように変化するのか涼也には読めない。

 しかし、それでも、この足を止める気はなかった。

 いつだって、今を楽しむ。

 それが自分だ。

 京也を失い忘れた時期もあったが、あの人がーー。

「あの人?」

 涼也はふと自分を取り戻すきっかけとなった人物を思い浮かべるが、残念ながら思い出せない。

 否、その人が自分にとって会社の先輩だった、事は思い出せる。

 だけど、その人との会話も。

 その人がどんな容姿をしていたのか。

 どんな声をしていたのか思い出せなくなっていた。

 背中から冷たい汗が流れ落ちる。

「何で……。」

 何故か思い出せなくなっている。

 いや、違う。

 京也は額を押さえ、「前」の記憶を思い出すが、霞がかかっているかのように思い出せないのは何故だかその先輩の記憶だけだった。
 こうあった、という記憶は残っていのに、どう思ったのか、彼がどんな表情で、どんな言葉を言ってくれたのか思い出せない。
 それはこの身を引き裂かれるほどの痛みを涼也に与えた事実だった。

「何で…これ何だよ……。」

 たとえ天罰がこの身に起きようと、涼也は気にはしなかった。

 だけど、それは、あの人との思い出があったからこそ……。

 もう二度と会う事ないあの人……。

 よりにもよって、その記憶が失われるのだけは、涼也にとって耐えがたい事。

「嘘だろう……。」

 悲しい事なのに涙さえ流れない。
 涼也は唇を噛みしめ、そして、天を仰ぐ。
 もう二度と思い出せないあの人に謝る事しか出来なかった。
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