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第一章

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 ハッと僕は目を開ければ見覚えのない…ううん、十分見覚えのある天井が見えた。
 頬が冷たくて、触れば涙で濡れていた。

「えっ?」

 ボロボロ今も流れ落ちる涙。

 そして、先ほど見た夢を思い出す。

 ああ、そうか。

 過去夢、しかも、前世のものだ。

 今まで何度も見ていた、でも、起きればすっかり忘れていた、でも、今日最期の記憶を見たお蔭で、僕は思い出した。

 僕はただの何の力もない人だった。

 だけど、彼――ひょうちゃんの前の生は神様だった。

 何百年と生きた偉い神様。

 僕は孤児で、いつもお腹を空かせていた、だから、禁忌と言われた山に子どもの僕は入った。

 そこで、出会ったのが彼だった。

 彼は最初僕を威嚇したが、僕はお腹を空かせていた所為であっさり気絶、そして、そんな僕に呆れながらも彼は看病してくれ、食事を与えてくれた。

 そして、孤独だった僕は何度も、何度も行けないと分かっていながらも彼のいる山に行った。

 そして、僕らは友になり。

 いつか、愛し合った。

 伴侶となり。

 僕の短い生を持って愛する事を誓った。

 でも、僕はある日、禁忌を犯していた事を村人に悟られ、逃げた。

 そこからはあの夢の通りだ。

 本当に僕もそうだが。

 あの村人は馬鹿な事をしてしまった。

 あの後どうなったかは知らない、だけど、彼がこうして人として生きているという事はきっと死んでしまったのだろう。

 それが悔しかった。

「……はー。」

 僕は気持ちを落ち着かせる為に深呼吸をする。

 駄目だ、過去に囚われるな。

 今の僕は空野紫織。

 あれっ?

 あの当時は能力者なんてものはいなかった。いや、待てよ、いた事はいたが、彼らは…。

 今では普通に使える、という事は…。

 どういうことだろう…。

 もしかして、神様の血が入って来たから。

 あの当時は超常現象を起こすのは神しかいない、そして、ごくわずかに使えるものは神と交わったモノの間に出来た子どもだけ。

 つまりはそう言う事だろう。

 今能力者にあふれているのは皆神の血を継いでいるから、そう考えると……。

「紫織、起きたの?早くしないと、朝食食べ損ねるわよ。」
「あっ、はーい。」

 母さんの呼びかけに僕は時計を見る。

 すぐに準備をいないと、本当に朝食を食べ損ねる。

 今日は体力測定だ。

 朝食を抜いたらどうなるかなんて考えたくもない。

 よし、この事は後で考えよう。

 僕は急いで制服に手を掛けた。
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