僕がサポーターになった理由

弥生 桜香

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第一章

17

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「――っ!」

 目の前に拳が止まり、僕はようやくここで、稽古中だという事を思い出す。

「……どうした、集中できないぞ」
「すみません。」

 僕は歯を食いしばる。

「……ふむ。」
「あらあら、国光(くにみつ)さんあまり紫織さんを虐めてはなりませんよ。」

 丁度お茶とタオルを持ってきた小百合(さゆり)さんに師範は顔を顰める。

「虐めてはおらん。」
「まあ、どうなんでしょうね。」
「……。」

 小百合さんは微笑みながら僕にタオルを差し出す。

「いつも真剣にやられておりますし、偶には休憩をされるのもいいと思いますよ。」
「でも…僕は。」
「そうそう、今日ね、孫が来るのよ。」
「すず姉ちゃんが?」
「ええ。」
「国明(くにあき)も蘭(らん)さんも帰ってくるはずだったんですけど、お仕事で難しいようなのよ。」
「そうなんですか。」
「で、申し訳ないのだけども、ちょっと手伝って欲しいのよ。」
「えっと。」
「構わん、どうせ、今日は集中できないだろう。」

 僕は師範を見て、指示を仰ごうとすれば、師範はぶっきらぼうにそんな事を言った。

「えっと、僕に出来る事なら。」
「お料理とかした事あるかしら?」

 ポンと手を合わせる小百合さんは小さく小首を傾げる。

「いえ、まったく。」
「あらあら、良ければ教えますよ?」
「……。」
「あらあら、別に今日ではありませんから、そのようなお顔はされなくても大丈夫ですよ。」
「う…すみません。」

 どうして、料理は女性がするものだと思ってしまい、固まってしまったが、よくよく考えれば料理人には男性もいるのだし、可笑しくはないのだろうけど。

 やはり、気が進まない。

「紫織さんの原動力はお一方によって引き出されておりますよね?」
「えっ?」

 くすくすと笑う小百合さんに僕は瞬きする。

「きっと、その内お料理を教えてくださいとか言いそうですね。」
「どうなんでしょう。」
「そうね、今年中に言うで賭けましょうか?」
「えっと…。」
「やめとけ、そいつと賭け事をすれば身ぐるみはがされるぞ。」

 師範の言葉に僕は思わずギョッとなるが、すぐに、師範はこの細腕の彼女に身ぐるみを剥がされたのだろうか。
 僕の顔を見て苦い顔をする師範に僕はそっと視線を離す。

「さて、紫織さんには盛り付けを手伝っていただきましょう。」
「えっと、お願いいたします?」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね。」

 丁寧に頭を下げられ、僕も慌てて頭を下げた。

「国光さん、紫織さんをお借りしますね。」
「ああ。」

 腕を組む師範に小百合さんはクスクスと笑い一つ釘をさす。

「そうそう、これ以上物は壊さないでくださいよ、いくら可愛い孫娘が婚約者を連れて来られるからって。」
「うむ。」
「へ?」

 僕の脳裏には竹刀を振り回す快活な少女が浮かんでいた。

「あら、紫織さんはご存知じゃありませんでしたっけ?」
「初耳です。」
「あらあら、国光さんの部下のそのまた部下の方で、何度かお見えになられるんですけど、素敵な方でしたよ。」
「ふん。」

 気に入らないのか師範は鼻を鳴らす。

「ふふふ、時間もない事ですし、行きましょう。紫織さん。」

 小百合さんはゆっくりとした足取りで道場から自分の城である台所に向かうのだった。
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