僕がサポーターになった理由

弥生 桜香

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第一章

18

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「紫織さん。」
「何でしょうか?」

 僕は小百合さんが作ってくれた料理を器に盛る作業に集中しながら彼女に返事を返す。

「紫織さんは氷の君に会えましたの?」
「――っ!」

 僕は驚きのあまり、折角つかんだ芋煮をそのまま先ほどいた位置に落としてしまった。

「な、な、な。」
「ふふふ。」

 楽しそうに笑う小百合さんに僕は口をパクパクと餌を強請る金魚か鯉かのように口を開けては閉じる。

「あの……何で。」
「あら、貴方の情報収集のコツを教えたのは誰だと思っているの?」
「……。」

 僕は顔を真っ青にさせる。

 そうだ、僕の武術、体術の師は師範だけど。

 僕の情報収集など知識面の師は目の前にいる小百合さんだった。

 彼女は師範がまだ警察をやっている時、師範を陰から支えていた女性だった。

 普段は淑やかな大和撫子と言ってもいい程の女性なのだが、怒らせたら怖い。

 彼女に五分時間を与えたらきっとその人の経歴、人脈、口座残高、黒歴史、等々簡単に調べあげられてしまう。

 それ以上に恐ろしいのは彼女の脳内だ。

 一度覚えてしまった事は簡単に忘れない。

 彼女のお蔭で僕も勉強になった。

「それにしても、貴方の氷の君……、かなり、厳重に守られていてかなりの時間がかかってしまったわ。」
「……。」

 僕はどっちに突っ込みを入れるべきなのだろうか。

 ひょうちゃんの情報がかなり厳重に守られていた事に対してか。

 それとも、小百合さんが厳重に守られていた事にもかかわらず、それを破ってしまった事にか。

「あら、紫織さん、手が止まっていますよ。」
「あっ、すみません。」
「……ねぇ、紫織さん。」
「はい。」

 急に深刻そうな声音を出す小百合さんに僕は身構える。

「貴方の氷の君はわたしが全力を尽くしても、彼の現在住所、家族構成、一部の能力情報しか分からなかったわ。」
「……。」

 いやいや、それだけわかれば十分じゃないかと、僕は思うだって、僕も小百合さんに色々伝授してもらったのにも関わらず僕が分かったのが、彼の名前、家族構成しか分からなかった。

 正直に言えば、僕が個人的に知っている彼の情報が上回っている。だけど、僕は諦めずに探っていた。でも、先に高校で出会えるとは思ってみなかった……。

「………。」
「あらあら…。」

 僕は不意に金曜日のあのひょうちゃんに啖呵を切った事を思い出してしまった。

 幸いにも昨日は午前中までだったのと、別のクラスだったことにより、彼に遭遇する事はなかったが、同じクラスの人たちはジロジロと僕を見ていた。

 まあ、当然だろうな、あんなに目立って暴れたわけだし…。

「紫織さん大丈夫ですか?」

 急にしゃがみ込んだ僕に小百合さんは心配してくれるけど、申し訳ないけど、今の僕はそれどころじゃなかった。

「あまり…。」
「大丈夫ですよ、若い頃の失敗は黒歴史になるだけですから。」
「……。」

 サラリと酷い言葉を言う小百合さんに僕は頭を抱える。

「もうすでに黒歴史の仲間入りです。」
「あらあら。」
「おい、鈴蘭が来たぞ……ってお前たち何をしているんだ。」

 ぬっとあらわれた師範は僕たちを見て呆れたような顔をしている。

「あらあら、もうそんなお時間ですか。」
「いや、一時間早い。」
「あら、後一時間ですか。」

 小百合さんは何か考えるそぶりをして、そして、ニッコリと笑った。

「紫織さん、黒歴史は黒歴史で上塗りすれば大丈夫ですよ。」
「へ?」
「鈴蘭さーん、こっちにいらしてくださる?」
「なーにー、おばあちゃん?」

 ひょこっと顔を出す童顔な女性が顔をのぞかせた。

「あー、しーちゃん来てたんだね。」
「あ、はい、稽古に。」
「ふーん、そうなんだね。」
「鈴蘭さん。」
「何?おばあちゃん。」
「この前、紫織さんにお着換えさせたいと言っていましたよね?」
「うん。」
「えっ?」

 何の躊躇もなく頷いているすず姉ちゃんに僕はギョッとなる。

「せっかくだからお着換えさせてきてはどうかしら。」
「グッドアイデア、おばあちゃん。」
「えっ、ちょっと…。」
「さあさあ、時間もない事だししーちゃん、行こう。」
「あ、あの小百合さん…。」

 僕は小百合さんに助けを求めるように手を伸ばすが、残念ながら彼女は笑顔で僕を売った。

「大丈夫ですよ、紫織さんならよくお似合いでしょうから。」
「えっ?……し、師範……。」

 すがるように師範を見たが、師範はゆるゆると首を横に振る。

 それはまるでわしには止める事などできない。と言うようだった。

 ズルズルとすず姉ちゃんに連れられ、僕は何度目かの黒歴史を一つ刻んだのだった。
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