僕がサポーターになった理由

弥生 桜香

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第一章

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「早いわね。」

 僕は思ったよりも早く来てしまったので、昨日買った文庫本を読んでいたら、上から声が降ってきた。

「良子さん。」
「待ち合わせよりも十分早いわよ。」
「少し済ませたい用事が思ったより早かったので。」
「用事って?」
「今日この辺で欲しかったパーツが安く帰るという情報があったから買ってきました。」
「……言ったらこっちで出すのに。」
「これは自分の趣味の分なので。」
「と言って、製品化するのに?」
「ははは。」

 良子さんの言葉に僕は苦笑しか出ない。

 過去も自分しか使わないからいいや、と思って作っていたアイテムがあったのだが、良子さんをはじめとするスタッフの人に見られ商品化する事になった。

 商品化したものは基本いくつかの重要な部位は自分で作るが、ある程度の組み立ては業者にお願いして作ってもらっている。

「まあ、いいわ、飲み物のお代わりは?」
「大丈夫です、まだあるので。」
「そう、すみません、注文をお願いします。」

 良子さんは近くを通るスタッフの人を呼び止め、アイスコーヒーを頼む。

「で、何かあった訳?」
「何がですか?」
「表情がいつもと違うわよ。」
「……。」

 僕は自分の顔に触れるが、違いなんて分からなかった。

「そうですか?」
「ええ。」
「……昨日ちょっと友だちが気落ちする事がありまして。」
「……バイオレットを睨んでた友だち?」
「……。」

 ああ、ばれていたのか、と僕は苦笑する。

「貴方が気にしていないのなら、何も言わないつもりだけど、貴方ってドМなの?」
「ドМって、酷いですね。」
「そうとしか見えないわよ。」
「……。」

 良子さんの言葉に僕は過去の自分を振り返るが、まったくと言っていいほど身に覚えがなかった。

「お待たせいたしました、アイスコーヒーとなります。」

 良子さんのアイスコーヒーをスタッフの方が持ってきてくれた。

「ありがとう。」

 良子さんはお礼を言って、シロップとミルクをたっぷり入れる。

「はぁ、もう、本当に昨日は貴方が帰ってからマジで死ぬかと思ったわ。」
「えっ?」
「ネットって恐ろしいわね、バイオレットが来ているという情報が拡散されて、あの後入場規制がかかったのよ。」
「……。」
「で、バイオレット本人はもういないから仕方なく貴方がステージで受け答えしていた映像を流させてもらったわ。」
「……何で、そうなったんですかね。」
「まあ、貴方の気持ちも分かるけど、結構限界だったのよね。」
「限界ですか?」
「ええ、うちの会社にバイオレットの情報をくれと頻繁に電話やメール、掲示板に描かれたりしてもう限界だったのよね。
で、昨日のイベントで爆発ね。」
「……。」
「という事で、貴方には申し訳ないけど、今後イベントに出てもらう事が増えそうよ。」
「学業優先と言っていたじゃないですか。」
「ええ、だから、夏休み、シルバーウイーク、冬休み、春休み、ゴールデンウイークと頑張って頂戴。」
「……。」
「これでも、だいぶと譲歩した方なのよ、上からは北から南までのイベントに出て欲しいみたいだったけど、こっち周辺で手を打ってもらったのよ。」
「分かりました。」

 僕はもう観念するしかないと色々諦めた。

「で、悪いんだけど、七月の二十二日から七月の三十日まで時間を空けといて欲しいのよ。」
「……えらく、先ですね。」
「そこで、またイベントがあって、貴方にも出て欲しいの。」
「……。」
「本当は今日、その事でお願いと、貴方がどういう姿で登場するか確認するつもりだったけど、昨日急遽女装で出てもらったから、バイオレットは女?とういう線で行こうと思うの。」
「そうですね、僕だとばれたら色々面倒なので、仕方ないですよね…仕方ないですよね。」

 本当は嫌だった、何で僕が女装しないといけないんだろう。
 僕は取り合えず、スケジュール帳を出して、七月の二十二から三十までイベント(バイオレット)と記入した。

「……結構ギリギリじゃないですか。」

 僕は学校行事の終業式の文字が十八日に書かれているのを見て、げんなりする。

「頑張って頂戴。」
「……他人事ですね。」
「他人事ですからね。」

 つーんと澄ましている良子さんを僕はジトリと睨む。

「……そう言えば、貴女の妹さんに会いましたよ?」
「……優子が?」

 意外そうな顔をするので、僕はてっきり話をきいているものだと思った。

「ええ。」
「あの子は自分の興味の事しか首を突っ込まないし、自己完結するから、聞いていないわ。」
「そうなんですか。」
「ええ、まあ、あの子も悪い子じゃないんだけど…、色々迷惑をかけると思うわ。」

 遠い目をする良子さんに僕は嫌な予感しかしなかった。

「えっ、助けてくれたりします?」
「無理ね。」
「そんな…。」
「仕方ないでしょ、学生であるあなたたちに社会人のわたしが首を突っ込めるはずがないでしょ?」
「……。」
「自重するようには言っておくけど、あまり期待しない方がいいわね。」
「分かりました。」

 僕は痛み出す頭を抱えたくなったけれどもぐっと我慢する。

「まあ、頑張ってね。」
「……。」

 同情する視線に僕は肩を落とす事しか出来なかった。
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