【完結】パンでパンでポン！！〜付喪神と作る美味しいパンたち〜

第73話 待つのも

　少し遠いが、祭りの囃はやしの音が聞こえてくるぞ。

　今日はまだ来ておらぬが、桜乃さくのらが楽しみにしておった夏の祭りじゃ。今頃、屋台に行き思い思いに食事をしておるじゃろう。

　あちきへの土産をたくさん買うと言っておったが、別に良いのに律儀な子じゃ。

　段蔵だんぞうからも一度とてなかったのに、今の契約者であるあの子は優しい。

　ほんに、優しい子じゃ。

　あちきが寂しくないように色々手を尽くしてくれるのじゃから。


「……あちきの本体も、随分と綺麗にしてくれたが」


　夏祭りが始まる少し前じゃが、掃除をしようと桜乃が言い出し……段蔵に教わりながら、あちきの本体である『ままごとキッチン』を綺麗に拭いてくれたのじゃ。

　あちきが顕現しておるから、ほこりなどは気にせんで良いのに……しかし、嬉しいことよ。磨かれていくごとに、少しばかり浄化されたような気分になれた。おかげで、今飲んでおる茶もいつも以上に美味な気がしたのじゃ。


「……店はどうなっておるかの？」


　桜乃も気になったが、段蔵が提案した『お絵かきクリームパン』の方もどうなっておるか気になっていた。澪みおの不思議な模様も美しかったが……子どもにはむずかしかろう。じゃが、提案としては面白い。失敗してもチョコじゃから食べられるしのお？


「……どれ。久しぶりに覗いてみるかえ」


　出歩きはせん。桜乃らを待つ必要があるからの？

　本体からキッチンペーパーを取り出し、適当な大きさにちぎって折りたたみ……息を吹きかけて、式神を作った。

　蝶の形になったそれは、普通のヒトの目には映らん。それを外に飛ばし、術で水鏡を出した。ちゃぶ台の上に創ったそれは式神の見える範囲で、外が映しだされていく。

　やはり、店の前もだが道もヒトや屋台で溢れかえっていたわい。

　実に、楽しそうじゃ。