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第40話 睡眠不足に、シュークリーム②
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シュークリームを食べるのは結構難しい。
絞り袋を入れる箇所にもよる……と、なにかの特集番組か雑誌で見たことがある程度だったが。
未祐はとりあえず、てっぺんからかじろうと口に近づけた。香ばしくも甘い香りにうっとりしつつ、少しだけかじればサクサクとしたクッキー生地がまず舌で感じ取れた。甘みは強くないが、香ばしいだけの無味に近い皮との相性は悪くない。
次に、もう一度かじってみれば……どっしりとした重くてあま~いカスタードクリームが。皮といっしょに食べるとここでは甘さが少し引いて食べやすいバランスだと嬉しくなる。クリームたっぷりのはずなのに、入れ方が絶妙なのか強く持っていなくてもあふれてこない。
その答えは、底に行くにつれてここは軽い触感のホイップクリームが教えてくれた。
(美味しい~~。コンビニのコラボのもいいけど。プロが作ったものはやっぱりべつもの)
ぱく、ぱく、と食べ進めていけば……終わりは当然来てしまう。
手がべとべとしてきたので、もう一度手拭きできれいにしてから、忘れていた飲み物をひと口。カップに入っていたのは紅茶ではなくブラックコーヒーだったが、甘味の強い菓子を食べていたので舌を落ち着かせるにはちょうどよかった。
「……気に入ってもらえたかな?」
向かいに座ったままの店長はこれまたきれいに微笑んでいた。そのきれいな笑顔にイケメン万歳と口には出さないものの、なかなかに好みのタイプ。だが、これだけのイケメンだと恋人くらいいるだろうと自己完結してアタックするのはやめた。
「はい。ダブルシューと思わなかったけど、好きな味でした」
「カスタードだけ、とかいうお客さんもいるだろうけど。生クリーム入れると豪華さが増すと思ってね?」
「あれ? ホイップクリームって上に入れません?」
「うちはちょっと工夫して逆にしているんだ。……自分で気にしていた『痛み』はどうだい?」
「痛み?? 変な寝不足はありましたけど?」
「きちんと、眠いかな?」
「はい?」
なにが、どこが、と未祐は店長に指摘された言葉と同時に……あのドアベルの音が耳に響いてきた。
いつのまにか閉じていた目を開ければ、そこは自宅のベッドではなくコンクリで固められたような無機質な天井だった。あそこから救急車で運ばれたにしては、記憶が変におぼろげ。
少し起き上がろうとしたが、なにかが腕にたくさんついているのか、くん、っと引っ張られる感覚が。
「え?」
片手ではなく、両腕とも点滴のチューブが。服装は病院用のパジャマかなにか。トイレに簡単に行けないように下の方にも管が。あと、落ちないように柵もきちんとベッドに取り付けられているという厳重体制。
寝不足だけだったにしては、異様な処置に未祐はここまで連れてこられた経緯がさっぱり思い出せなかった。確実なのは、入院させられていることくらいだが。
「紺野さーん、起きてますかー?」
看護師らしい女性の声に、思わず返事をすればゆっくりと扉が開いた。血圧測定などに必要な台車を持って来て、ふたりくらいの看護師が入ってくる。その表情は『大丈夫?』と言わんばかりに心配しているもの。
「あの、私……いつから??」
「三日前ですよ。大学で倒れたので先生たちが救急車呼んでくれたんです。……全然覚えてない? ここでご飯は自分で食べていたんですけど」
「……全然」
覚えているのは、洋菓子店でイケメン店長に振舞ってもらったシュークリームを食べた記憶くらい。それも嘘なのかと思ったが、今彼らに告げても『夢なの?』としか認識されないだろう。
とりあえず、点滴は今ある分を使い切ってから針は外されるらしく。朝食のあとに問診を受け直そうということは決まった。
(……全然覚えてないなあ? 全部夢だったにしても、リアル過ぎたし)
とはいえ、もう一度問診を受け直したら、やはり睡眠障害手前だったため。一週間くらい入院してから、かかりつけ医との連携で服薬も変更しようということになった。そのおかげか、これまでちっとも寝れなかった未祐はぐーすか、というくらいに眠ることが出来るようになってきたが……スマホなどで動画や音楽の見過ぎ聞きすぎは要注意と医師らから言われてしまう。
仕方ないので、ほどほどにしようと入院で懲りたから気を付けることにしたのだった。
*・*・*
目の前で消えていく『身体』を見て、安心していた真宙だったが。バックヤードからヒカルは覗いていたのかで、ガタン、と大きな音が聞こえてきた。
「に、ににに、にいちゃん!? 幽霊もここ来るの!!?」
上司の呼び名を忘れるくらいの慌てっぷりだったので、少しおかしくなったが違うと首を振った。説明してくれたのは、久々に震えていた若葉だったが。
「違うわよ。幽霊っていうより、『意識そのもの』ね。『土地』が欲しいくらいの大きな『痛み』を抱えていた客よ。今頃は多分、身体の方に戻っているわ」
「え、えぇ? そんな重病人も来るんですか?」
「まあ。私のお父さんもだったけど。……あんただって、まだ完全に取り除かれてないじゃない? ここに居ると、色々バグるけど」
「あ、はい。たしかに、そこはバグりますね……」
「若者らしい言葉遣い、僕にも教えて?」
「真宙だって、私よりちょっと上なだけじゃない? 雑誌以外にもSNS覚えたら?」
「……若葉さん、そんなにも上でした??」
「若作りでもないし、ただの童顔よ」
「「いやいやいや」」
「……似たもの兄弟に見えるわね」
とりあえず、思念体でやってきた女性の『痛み』を吸い取った『土地』はご機嫌なようだ。留め具からではなく、直接に近い方法で彼女から吸い取っていたのを見たのだから。あの方法は、真宙がこの店を継いでからは久しぶりに見た。
(それだけ。『表』と『裏』の『土地の差』とやらが大きいのかもしれない)
同じでありながら、違う存在。『土地』と『土地』の境目にもズレが生じているのだろう。
事実上『裏』に在籍している真宙たちの目にも、なんとなくが『確実』なものに変化しているように見せているから……次からの客も、きちんと『表』に返せるようにしなくてはと気を引き締めた。
絞り袋を入れる箇所にもよる……と、なにかの特集番組か雑誌で見たことがある程度だったが。
未祐はとりあえず、てっぺんからかじろうと口に近づけた。香ばしくも甘い香りにうっとりしつつ、少しだけかじればサクサクとしたクッキー生地がまず舌で感じ取れた。甘みは強くないが、香ばしいだけの無味に近い皮との相性は悪くない。
次に、もう一度かじってみれば……どっしりとした重くてあま~いカスタードクリームが。皮といっしょに食べるとここでは甘さが少し引いて食べやすいバランスだと嬉しくなる。クリームたっぷりのはずなのに、入れ方が絶妙なのか強く持っていなくてもあふれてこない。
その答えは、底に行くにつれてここは軽い触感のホイップクリームが教えてくれた。
(美味しい~~。コンビニのコラボのもいいけど。プロが作ったものはやっぱりべつもの)
ぱく、ぱく、と食べ進めていけば……終わりは当然来てしまう。
手がべとべとしてきたので、もう一度手拭きできれいにしてから、忘れていた飲み物をひと口。カップに入っていたのは紅茶ではなくブラックコーヒーだったが、甘味の強い菓子を食べていたので舌を落ち着かせるにはちょうどよかった。
「……気に入ってもらえたかな?」
向かいに座ったままの店長はこれまたきれいに微笑んでいた。そのきれいな笑顔にイケメン万歳と口には出さないものの、なかなかに好みのタイプ。だが、これだけのイケメンだと恋人くらいいるだろうと自己完結してアタックするのはやめた。
「はい。ダブルシューと思わなかったけど、好きな味でした」
「カスタードだけ、とかいうお客さんもいるだろうけど。生クリーム入れると豪華さが増すと思ってね?」
「あれ? ホイップクリームって上に入れません?」
「うちはちょっと工夫して逆にしているんだ。……自分で気にしていた『痛み』はどうだい?」
「痛み?? 変な寝不足はありましたけど?」
「きちんと、眠いかな?」
「はい?」
なにが、どこが、と未祐は店長に指摘された言葉と同時に……あのドアベルの音が耳に響いてきた。
いつのまにか閉じていた目を開ければ、そこは自宅のベッドではなくコンクリで固められたような無機質な天井だった。あそこから救急車で運ばれたにしては、記憶が変におぼろげ。
少し起き上がろうとしたが、なにかが腕にたくさんついているのか、くん、っと引っ張られる感覚が。
「え?」
片手ではなく、両腕とも点滴のチューブが。服装は病院用のパジャマかなにか。トイレに簡単に行けないように下の方にも管が。あと、落ちないように柵もきちんとベッドに取り付けられているという厳重体制。
寝不足だけだったにしては、異様な処置に未祐はここまで連れてこられた経緯がさっぱり思い出せなかった。確実なのは、入院させられていることくらいだが。
「紺野さーん、起きてますかー?」
看護師らしい女性の声に、思わず返事をすればゆっくりと扉が開いた。血圧測定などに必要な台車を持って来て、ふたりくらいの看護師が入ってくる。その表情は『大丈夫?』と言わんばかりに心配しているもの。
「あの、私……いつから??」
「三日前ですよ。大学で倒れたので先生たちが救急車呼んでくれたんです。……全然覚えてない? ここでご飯は自分で食べていたんですけど」
「……全然」
覚えているのは、洋菓子店でイケメン店長に振舞ってもらったシュークリームを食べた記憶くらい。それも嘘なのかと思ったが、今彼らに告げても『夢なの?』としか認識されないだろう。
とりあえず、点滴は今ある分を使い切ってから針は外されるらしく。朝食のあとに問診を受け直そうということは決まった。
(……全然覚えてないなあ? 全部夢だったにしても、リアル過ぎたし)
とはいえ、もう一度問診を受け直したら、やはり睡眠障害手前だったため。一週間くらい入院してから、かかりつけ医との連携で服薬も変更しようということになった。そのおかげか、これまでちっとも寝れなかった未祐はぐーすか、というくらいに眠ることが出来るようになってきたが……スマホなどで動画や音楽の見過ぎ聞きすぎは要注意と医師らから言われてしまう。
仕方ないので、ほどほどにしようと入院で懲りたから気を付けることにしたのだった。
*・*・*
目の前で消えていく『身体』を見て、安心していた真宙だったが。バックヤードからヒカルは覗いていたのかで、ガタン、と大きな音が聞こえてきた。
「に、ににに、にいちゃん!? 幽霊もここ来るの!!?」
上司の呼び名を忘れるくらいの慌てっぷりだったので、少しおかしくなったが違うと首を振った。説明してくれたのは、久々に震えていた若葉だったが。
「違うわよ。幽霊っていうより、『意識そのもの』ね。『土地』が欲しいくらいの大きな『痛み』を抱えていた客よ。今頃は多分、身体の方に戻っているわ」
「え、えぇ? そんな重病人も来るんですか?」
「まあ。私のお父さんもだったけど。……あんただって、まだ完全に取り除かれてないじゃない? ここに居ると、色々バグるけど」
「あ、はい。たしかに、そこはバグりますね……」
「若者らしい言葉遣い、僕にも教えて?」
「真宙だって、私よりちょっと上なだけじゃない? 雑誌以外にもSNS覚えたら?」
「……若葉さん、そんなにも上でした??」
「若作りでもないし、ただの童顔よ」
「「いやいやいや」」
「……似たもの兄弟に見えるわね」
とりあえず、思念体でやってきた女性の『痛み』を吸い取った『土地』はご機嫌なようだ。留め具からではなく、直接に近い方法で彼女から吸い取っていたのを見たのだから。あの方法は、真宙がこの店を継いでからは久しぶりに見た。
(それだけ。『表』と『裏』の『土地の差』とやらが大きいのかもしれない)
同じでありながら、違う存在。『土地』と『土地』の境目にもズレが生じているのだろう。
事実上『裏』に在籍している真宙たちの目にも、なんとなくが『確実』なものに変化しているように見せているから……次からの客も、きちんと『表』に返せるようにしなくてはと気を引き締めた。
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