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第44話 障がい関連には干菓子を②
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手に取ってみれば、羽根とまではいかないがふわっとした重みしか感じない。しかし、固い感触なのは指先からでもしっかりとわかる。
沙也加は、お菓子だとやわらかいものより食感がしっかりしたものが好きだった。干菓子に出会ったのは、祖母の家でたまに置いてあったりするそれを茶菓子に出されたとき……『砂糖だけ?』の味に驚いたものの、あとからくる上品な甘みが病みつきになって食べ過ぎたのを母に怒られたものだ。
それが、今目の前には三つ用意されていた。
そのうち、ひとつを口に運び、かりっと音が鳴るくらいしっかりと噛んで味わう。干菓子は和三盆糖が主流とも言われているが、これはきちんと普通の砂糖じゃない香ばしさを感じるからそれかもしれない。
かり……かり、っと食べ進めたら、用意されていた濃いめの煎茶をっひと口。抹茶に近いくらい濃いが、その分口の中の甘さを引き締めてくれるようで、きゅっとその甘みが落ち着いていく。もう一度繰り返していいのか、ちらっと店長を見ても気にせずに微笑んでいるので食べ進めることにした。
ふたつ、みっつ……と、あっという間に終わってしまったが。胃袋は満たされていなくとも、心の底から『美味しい』と口に出来るくらい、精神面では満足感が凄かった。
キャンディーやグミなどの砂糖の塊とは別物の、和の芸術品とも言えた干菓子。
ほんのり薫った香ばしさのお陰で、甘いだけのそれも舌の上に雑には残らなかった。煎茶もその理由のひとつだが、ここまで満足した気分になるのはいつ以来か。
モラハラでダメージを追い続けていたあの頃なんて、とんでもない。病院で色々問診を受けるのに経緯を話すのに疲れた、あの時でもない。
ただただ、『日常』の生活に近いような落ち着いた心持ちになれたのは……多分、大学生くらいだろう。サークルの飲み会やゼミの友人らとカフェ巡りしていた、ただの学生だったときのように。
「……疲れて、たんだなあ」
ふいに、そんな言葉が口に出てしまう。頭の中も心の中も、ごみごみし過ぎて混乱して、倒れかけた。そのことを振り返れば、沙也加はたしかに『疲労困憊』だったのが今更ながら自覚が出来た。
目じりに水が溜まったが、拭いもせずにそのまま流した。症状じゃない、ただの涙を流したのもいつぶりだろうか。店長はさっきの店員を呼んで、紙じゃない布のおしぼりを用意するよう呼びかけ、すぐに沙也加に渡してくれた。
「気持ち、落ち着きましたか?」
号泣ほどではないが、少しの間ぽろぽろと泣いてたのを止めたくらいに声をかけられた。頷けば、安心したような息を吐く音が耳に届く。
「美味しくて、つい……辛かった時間を思い出しちゃって」
「お疲れの顔でしたからね。でも、今はスッキリしていい表情ですよ?」
「そうでしょうか?」
「鏡、見ます?」
「いえ。……まだ、自信持ちたくないんです。今は」
勢いで行動しては、また自律神経を興奮させるだけで済まなくなってしまう。
今はまだ、のんびりとした生活をしてもいいんだと会社からも医師からも言われている身分だ。
そこに少し甘えつつ、これからの生活へのルーティンを自分で整えなくてはいけない。それを見出すきっかけが今だとしても、ここではしゃいでしまっては元も子もないのだ。
だから、代金を支払ったというのなら、ここはもう帰ろうと決めた。
「ありがとうございました」
店長以外に、あの若い店員も来てくれて沙也加が退店するのを見送ってくれた。なんとなくだが、ここにはしばらく来れないかもしれない。そもそも、あの女性の呼びかけがなかったら、迷子ついでに来れなかった場所だ。
それでもいいかもしれないと、少しばかり心にゆとりを持てる今の気持ちを大事にしたかった。
店は、探せばいくらでもある。会社に復職するかどうかも、まだ今の段階ではわからない。
わからないだらけでも、晴れ晴れとした気持ちをちょっと抑えつつ、外へ歩くと誰かとすれ違った気がした。
*・*・*
すれ違ったあの女性は、もううつむいていなかった。千景には気づいていなかったようだが、それはそれでいい。
自分の役割は『土地』へ差し出す『痛み』を抱える人間とかを『ル・フェーヴ』に導くだけなのだから。
入れ替わりに店内に入れば、男性ふたりには会釈されたが女性ひとりにはしかめっ面を見せつけられた。
「やあ、今のお客はなかなかだっただろう?」
「理事さんが呼び寄せたわけ?」
「ははは。私なりの役割だからね」
福祉利用する人間。特に、『障がい』関連の痛みはときどきでも『土地』が欲しくなる相手らしい。たまたま、道端で重そうな『痛み』を抱えていた沙也加に声をかけたところで、こことの境界に導けただけだ。
ここに来た意思自体は、沙也加本人のものなので千景はサポートも特にしていない。
「千景さんのお仕事? 俺の時のような?」
「半分正解、半分不正解さ。そろそろ、『土地』も大喰らいしたい時期になってきたんだよ。それに沿って、私のような役持ちの輩が促すだけさ」
「最近、和菓子が多いのよね? ここ、一応洋菓子店なのに」
「……僕のせい?」
「けど、美味しいからそこは問題ないわ」
「そろそろ、マリアージュも単体よりコラボするくらいのめり込んでいいと思うよ? なかなかに、君の腕前は以前よりぐっと上がっている」
「褒めても、今は餡子とか琥珀糖くらいしかないですよ?」
「先ほどの客に出したものは?」
「試作ついでだったので、あれで全部です」
「ふーん。そうか」
真宙の気まぐれで作る菓子に沿って、客を選ぶようになった『土地』も……そろそろ境目を矯正しようとしているのだろう。現実側とも言える向こう側では、天候不順以外にも荒れてやまない事象は多々起きているのだから。
とりあえず、千景は休憩も兼ねてショーケースの菓子を頂戴しようと思ったのだが。若葉が先に選ぶのは自分と豪語するので、相変わらずの甘党だと苦笑いが止まらなかった。
沙也加は、お菓子だとやわらかいものより食感がしっかりしたものが好きだった。干菓子に出会ったのは、祖母の家でたまに置いてあったりするそれを茶菓子に出されたとき……『砂糖だけ?』の味に驚いたものの、あとからくる上品な甘みが病みつきになって食べ過ぎたのを母に怒られたものだ。
それが、今目の前には三つ用意されていた。
そのうち、ひとつを口に運び、かりっと音が鳴るくらいしっかりと噛んで味わう。干菓子は和三盆糖が主流とも言われているが、これはきちんと普通の砂糖じゃない香ばしさを感じるからそれかもしれない。
かり……かり、っと食べ進めたら、用意されていた濃いめの煎茶をっひと口。抹茶に近いくらい濃いが、その分口の中の甘さを引き締めてくれるようで、きゅっとその甘みが落ち着いていく。もう一度繰り返していいのか、ちらっと店長を見ても気にせずに微笑んでいるので食べ進めることにした。
ふたつ、みっつ……と、あっという間に終わってしまったが。胃袋は満たされていなくとも、心の底から『美味しい』と口に出来るくらい、精神面では満足感が凄かった。
キャンディーやグミなどの砂糖の塊とは別物の、和の芸術品とも言えた干菓子。
ほんのり薫った香ばしさのお陰で、甘いだけのそれも舌の上に雑には残らなかった。煎茶もその理由のひとつだが、ここまで満足した気分になるのはいつ以来か。
モラハラでダメージを追い続けていたあの頃なんて、とんでもない。病院で色々問診を受けるのに経緯を話すのに疲れた、あの時でもない。
ただただ、『日常』の生活に近いような落ち着いた心持ちになれたのは……多分、大学生くらいだろう。サークルの飲み会やゼミの友人らとカフェ巡りしていた、ただの学生だったときのように。
「……疲れて、たんだなあ」
ふいに、そんな言葉が口に出てしまう。頭の中も心の中も、ごみごみし過ぎて混乱して、倒れかけた。そのことを振り返れば、沙也加はたしかに『疲労困憊』だったのが今更ながら自覚が出来た。
目じりに水が溜まったが、拭いもせずにそのまま流した。症状じゃない、ただの涙を流したのもいつぶりだろうか。店長はさっきの店員を呼んで、紙じゃない布のおしぼりを用意するよう呼びかけ、すぐに沙也加に渡してくれた。
「気持ち、落ち着きましたか?」
号泣ほどではないが、少しの間ぽろぽろと泣いてたのを止めたくらいに声をかけられた。頷けば、安心したような息を吐く音が耳に届く。
「美味しくて、つい……辛かった時間を思い出しちゃって」
「お疲れの顔でしたからね。でも、今はスッキリしていい表情ですよ?」
「そうでしょうか?」
「鏡、見ます?」
「いえ。……まだ、自信持ちたくないんです。今は」
勢いで行動しては、また自律神経を興奮させるだけで済まなくなってしまう。
今はまだ、のんびりとした生活をしてもいいんだと会社からも医師からも言われている身分だ。
そこに少し甘えつつ、これからの生活へのルーティンを自分で整えなくてはいけない。それを見出すきっかけが今だとしても、ここではしゃいでしまっては元も子もないのだ。
だから、代金を支払ったというのなら、ここはもう帰ろうと決めた。
「ありがとうございました」
店長以外に、あの若い店員も来てくれて沙也加が退店するのを見送ってくれた。なんとなくだが、ここにはしばらく来れないかもしれない。そもそも、あの女性の呼びかけがなかったら、迷子ついでに来れなかった場所だ。
それでもいいかもしれないと、少しばかり心にゆとりを持てる今の気持ちを大事にしたかった。
店は、探せばいくらでもある。会社に復職するかどうかも、まだ今の段階ではわからない。
わからないだらけでも、晴れ晴れとした気持ちをちょっと抑えつつ、外へ歩くと誰かとすれ違った気がした。
*・*・*
すれ違ったあの女性は、もううつむいていなかった。千景には気づいていなかったようだが、それはそれでいい。
自分の役割は『土地』へ差し出す『痛み』を抱える人間とかを『ル・フェーヴ』に導くだけなのだから。
入れ替わりに店内に入れば、男性ふたりには会釈されたが女性ひとりにはしかめっ面を見せつけられた。
「やあ、今のお客はなかなかだっただろう?」
「理事さんが呼び寄せたわけ?」
「ははは。私なりの役割だからね」
福祉利用する人間。特に、『障がい』関連の痛みはときどきでも『土地』が欲しくなる相手らしい。たまたま、道端で重そうな『痛み』を抱えていた沙也加に声をかけたところで、こことの境界に導けただけだ。
ここに来た意思自体は、沙也加本人のものなので千景はサポートも特にしていない。
「千景さんのお仕事? 俺の時のような?」
「半分正解、半分不正解さ。そろそろ、『土地』も大喰らいしたい時期になってきたんだよ。それに沿って、私のような役持ちの輩が促すだけさ」
「最近、和菓子が多いのよね? ここ、一応洋菓子店なのに」
「……僕のせい?」
「けど、美味しいからそこは問題ないわ」
「そろそろ、マリアージュも単体よりコラボするくらいのめり込んでいいと思うよ? なかなかに、君の腕前は以前よりぐっと上がっている」
「褒めても、今は餡子とか琥珀糖くらいしかないですよ?」
「先ほどの客に出したものは?」
「試作ついでだったので、あれで全部です」
「ふーん。そうか」
真宙の気まぐれで作る菓子に沿って、客を選ぶようになった『土地』も……そろそろ境目を矯正しようとしているのだろう。現実側とも言える向こう側では、天候不順以外にも荒れてやまない事象は多々起きているのだから。
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