満腹マッドサイエンティストはガリガリホムンクルスを満足させたい!〜錬金術の食事を美味いと言わせたいだけのスローライフ〜

櫛田こころ

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17-1.裏の裏では(???視点)

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 ★・☆・★(???視点)






 さて、朗報がなかなか来ないでいる。

 報告する奴も来てはいい頃合いでいるのに、未だこの城にやって来ない。

 そろそろ来てもいいはずなのに、俺のもとへやってくる気配がない。もしや、しくじっているのではと思わずにはいられない。

 計画を立ててから、はや一年以上未だのうのうと生きていやがるあの自称天才錬金術師が死んだと言う噂が立つことがなく、俺ははらわたが煮えくりかえりそうになっていた。

 その分、苛立ちが増すのも仕方がないだろう。


「……一向に連絡が来ないな。だが、こちらから出向くのも」


 あのクローム=アルケイディスが俺のことを覚えているかわからない。

 俺自身が特殊な地位にいるせいで、直接この手でひねり潰してやることが出来ず歯痒い思いをしてしまっているが。

 何故、あの男はのうのうと生きていやがる?

 何故、未だに訃報が届いて来ないのだ?

 歯ぎしりしても何も始まらないが、せずにはいられない。


「……お困りの顔ですね、ルーイス王子殿下」

「!?……ディスケットか」


 私室ではなく、執務室にいつのまにかやってきた神出鬼没な悪どい表情を浮かべている錬金術師の一人。

 そして、俺ではなく実際にクロームのやつを陥れている実行犯の一人だが、こうして王宮に来る機会は少ない。俺が王子であるのと、こいつは市井の出自で本来俺と接触する機会など普通ならあり得ない。

 が、俺はこいつと接触する理由は利害が一致しているからだ。

 あのクローム=アルケイディスを亡き者にせんがために。


「朗報……とは言い難いですが。お耳に入れておきたいことが出来まして。参上致しました」

「……なんだ?」


 相変わらず引きつったような声が耳障りで仕方がないが、我慢するしかない。クロームよりはいくらかマシだからな、あの傲慢ちきな輩よりは。


「どうやら。我らが宿敵であるクローム=アルケイディスが、例のエーテル生成液を改良して培養液にし。そこからホムンクルスを生み出していたようです」

「……それが何か悪いのか? 不完全品とは言え、表向きは普通のエーテル生成液と紛れていたのだろう?」


 そのように、俺が宮廷の連中の一部に同胞として巻き込み、クロームを亡き者にせんと動いて作った代物だが。ディスケットは、骨張った顔を左右に振った。


「どう言うわけか。錬成させた材料の質が良かったためか、錬成料理で死にかけていた奴を元通りにさせているようです。そのホムンクルスの指導のせいで」

「……なん、だと?」


 ホムンクルスの錬成自体は、錬金術をかじった程度の知識しかない俺でもいくらかはわかる。

 だが、ディスケット伝で洗脳させた生産ギルドの職員を何人かが、クロームの幼馴染みの会話を盗み聞きしたことに成功したらしいが。

 全て、我らの計画を邪魔する存在、ディスケットの言うホムンクルスが台無しにさせていることがわかったと言う。

 そして、俺にまだ行き着いていないが。洗脳させている職員やディスケットにまで計画がバレてしまっているそうだ。

 よりにもよって、血の内部調査に長けている生産ギルドのマスターの存在によって。


「このままでは、いずれ殿下の情報まで得られるかもしれません。奴らを亡き者にしますか?」

「そうしたいが、あのギルマスの後任になる奴はなかなかいない。父上の知己でもあるしな」

「そう、ですか」


 迂闊だった。

 ホムンクルスの存在も、疎ましいとは思うが、あのギルマスの存在まで関わってくるとは。

 王子の特権で、すぐにでも処分してしまいたいがそうすると父上が黙っていない。

 俺が、犯罪に手を染めてしまっているとバレれば、王位継承権第二位の俺なんてよくて幽閉、悪くて死刑だ。

 絶対、バレるわけにはいかない!


「……ギルマスのことはひとまず様子見だ。クロームの方をどうにかしよう。そのホムンクルスはすぐに処分出来るか?」

「おそらくは。しかし、憎っくき存在とは言えあのクローム=アルケイディスが生み出した存在。何か対抗手段を講じててもおかしくはありません」

「ともあれ、即刻排除しろ。なんなら、クロームもついでに処分出来ればいい。元々あいつが存在してるだけでも不愉快だ」

「錬金術師として相応しくない殺し方には、反しますが。ここまで期間をあけてしまわれてはもう一度行うのは至難の技ですしね」

「ホムンクルスはどうやって、クロームを助けたのかわかるか?」

「詳しい事はまだなんとも……ただ、ビーツが聞き出した内容によれば二人は心を寄せ合っているとか」

「……何?」


 種族問わず婚姻出来る慣習ではあるが、あのクロームが自身で生み出したホムンクルスに懸想しているだと?

 ならば、ますますそいつの存在は厄介だな?


「それを聞いたビーツと、あと知らせてきたミリアムは次回のエーテル生成液に毒を盛れないかと問い合わせてきました。いかがでしょうか?」

「エーテル生成液に、毒をか?……いいだろう。やれ」

「は」


 そう言って、ディスケットは執務室から去り、俺は一人になって執務をこなしていたがまた誰かが入ってきたのか扉が開く音が聞こえてきた。


「精が出ているな、ルーイス?」

「……兄上」


 王位継承権第一位の、ガイウス王太子。

 輝くような長い金髪を揺らせながら、涼しい顔で俺のところへやって来た。特に用事もないはずだが、気まぐれで来たのだろうか?


「ふむ。もう終わりそうだな?」

「……なんの御用ですか、王太子殿下?」

「つれないな。兄弟だというのに」

「兄弟と言えど、立場は弁えているつもりです」

「ほう……?」


 兄上はそう言うと、目を細めて俺の横に立ってきた。


「であれば。見かけぬ街中にいるような男を手引きしていると言う噂は本当かい?」

「……なんのことでしょう?」


 あ、危ない。

 うっかり、ディスケットのことを口にしそうになったが、王宮の教育を一応は受けているためにポーカーフェイスは出来なくもないが兄上にバレてはいるはず。

 俺が素知らぬ顔で執務をやっていても、横でニマニマ笑っている気配が感じ取れた。


「そう。何もないならいいんだ。何もね?」


 とだけ言い残して、兄上は去っていった。

 本当に、何をしに来たんだあの男は。実の兄なのに考えが全く読めない。

 だが、俺は閉められた扉の向こうの出来事を知らなかった。


「ガイウス殿下、やはり弟君は黒です」


 同じ姿をした兄上二人のうち、俺のところに来たのは変装技能スキルにより姿を変えてた生産ギルドのマスターだったなんて。


「……そうか。では、決着がついてからは父上……陛下に報告しよう」

「その方がいいでしょうね」


 もう俺には逃げ道がないのだと、この時は知る由もなかったのだ。
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