満腹マッドサイエンティストはガリガリホムンクルスを満足させたい!〜錬金術の食事を美味いと言わせたいだけのスローライフ〜

櫛田こころ

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26-4.本能的に(マールドゥ視点)

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 ★・☆・★(マールドゥ視点)







 自分はどうしていいのかわからなくなった。

 幼少期に、クロームに告白してわかってても結局玉砕したから、いい女友達でいられるように過ごしてきて。

 クロームへの想いもすっぱり振り切ったと、自覚して大人になったわけだが。

 何故だか、休日の日に実家でのんびりしてたら、どーゆーわけか王宮からの使者がやって来られて書状を渡されたのだ!

 それが、王太子殿下からの手紙で、なおかつ内容がこのあたしに王太子妃になれ、ってなんでや!? と両親にも言えずに家を飛び出してしまった。

 生産ギルドに行くわけにもいかず、何故かクロームの家に単身で行ってしまったのだが。事態はさらに悪化して、転移魔法でやって来られた殿下に求婚されてしまったのだ!

 なんでだ!?


「う、ううーん……?」


 振り返りをぐるぐるしてたら、気絶してまた殿下に求婚されて気絶したのを繰り返してしまい。

 次に起きた時は夕方で、部屋には誰もいなかった。クロームもだが、セリカちゃんは屋敷の家事全般をやりくりしてるから仕方がないけど。


「ど……どうしよう……!?」


 どうしようもこうしようもないけれど!

 庶民代表みたいなあたしが王太子妃候補になれって言うのよ!?

 てか、殿下的には本命らしいけど。なんでなんで!?

 なんで、お綺麗な貴族令嬢をほっぽってあたしなわけぇえええええ!?


「あ、目が覚めました?」


 悶々としてたら、セリカちゃんが入ってきた。手には水差しとコップのトレーを持っていた。


「あ、うん。えと……クロームや殿下は?」

「クロームはポーションの錬成です。ガイウス王子は帰られました」

「……帰った?」

「他の王太子妃候補の方々を……潰しに行くとか?」

「へ?!」


 気絶する前の、あの告白は本物だったのか。

 気持ちの整理がつかないでいるあたしに、セリカちゃんは水のコップを渡してくれた。


「……私はホムンクルスなので。世情には詳しくないですが、あの王子様のお気持ちは多分本物です」

「へ?」

「マールドゥさんが気を失っている間に、昔話を聞かせていただきました。その時のお顔は……マールドゥさんを想っていらっしゃる感じでした」

「…………ガイの頃からって。どんだけよ」

「少なくとも、すぐに思い立ったわけではないと思いますが」

「け、けど。あたし、ガイには強く当たってたし」


 男とは言え、クロームとペアを組めるだなんて子供ながらも嫉妬してた。実に子供っぽい理由だったが、クロームに告白して玉砕する前後もあんまり会ってはいなかった。

 それがまさか、実は王子殿下で、実はあたしに好印象を持っていただいてただなんて。

 正直言って、信じられない!


「…………王子様のこと、好きにはなれないですか?」

「え、え?」

「身分を理由に、ただ断ろうとしてませんか?」

「セリカちゃん?」

「クロームとのこと、失礼ですが聞いてしまいました。でも、私がクロームのことを想っているのには、応援していただいた気持ちが本物だと言うのも知ってます」

「あ、うん」

「けど。マールドゥさんが幸せになれることには、私も応援したいんです」

「……セリカちゃん」


 本当に、クロームのことが好きで仕方ないのが見て取れる。あたしは玉砕したが、クロームもこの子を好きでいるのならその幸せを望んだのも本当だ。

 だが、いざ自分のことと言われても。結婚適齢期を過ぎたこんな女に好きとか言われても、はいそうです! だなんて言えるわけがない。

 けど……けど。あのガイが、あたしのことを……と思うと。何故か、拒否する気にはなれなかった。


「……私は、お似合いだと思いますが」

「……んー。けど、あたし別に貴族じゃないし、あたし以上に綺麗な女は貴族令嬢にごまんといるわよ?」

「……お綺麗ですよ?」

「あ、ありがと」


 いつも綺麗で可愛いと豪語してる対象のセリカちゃんに言われると照れるわねぇ……。

 けど、釣り合うか釣り合わないかで言うなら、身分は全然ダメだ。過去に、平民から娶ったらしい前例があるにしても。あの華のような美貌の殿下の妻に?

 自分はともかく、他の目の保養になるようなご令嬢となら絵姿で見たいと思えるのに。自分だとないないと、拒否してしまう。


「じゃあ……例えば、チェストさんとだとしたらどうです?」

「へ?」

「告白される相手です」

「あいつはないわー!」

「ほら、それでこそいつものマールドゥさんです。なのに、王子様には真剣に悩まれているじゃないですか?」

「い、いやまあ、ね? 普通は命令なんだけど……考えてくれって言われると悩まない?」

「私なら断ります」

「あ、うん。セリカちゃんならそうだね?」


 クロームひと筋だもの、それは当然だ。

 けど、殿下に対しても容赦のない言動は今ここに本人がいらっしゃらないせいもあるだろうが。


「きっぱり言っちゃうね~?」

「え?」

「へ!?」


 ちょっと感心してたら、帰ったはずの殿下張本人がいたぁああああ!?

 なんで? やることあるから帰られたんじゃないの?

 なんでなんで?


「ふふ。陛下……父上にほかの候補者を潰すのは任せろって言われたから、また来ちゃった?」


 来ちゃったじゃないですよ!?

 てか、ほんとにあの頃のガイのまんま成長されてるんだな!?

 あわあわと口を上下していると、殿下はあたしに振り返って右手を取った。


「真っ赤な顔も愛らしいよ、マールドゥ?」

「だ、ダメで……すよ。殿下、あ……私、はただの平民ですし!」

「えー? ただ綺麗で自分の意見を正直に言わない貴族令嬢よりも。きちんと君のように意見を告げてくれる女性の方が僕は好みだよ?」

「わ、あ、あたし、貴方様に昔酷いことばっかり!?」

「ううん。あれでいいんだよ。転生者の僕にとっては、気のおけない相手として思われてた方が嬉しかった」


 自分で言うのもなんだけど、女の趣味悪い……って、今重大な秘密を言わなかったかこの御方!?


「て……転生、者?」

「うん。僕はクロームが異世界召喚する世界から、転生した人間なんだ」

「え……えぇ!?」

「だから、貴族令嬢よりも平民よりの考え持ちなんだよ。それで、カエル取りの頃から、時々君達に会いに行ってたわけ」

「で、で、でも……あたし」

「せっかちって言ったでしょ? 僕個人としては君以外に王妃に迎えるつもりはないよ?」

「う……」


 あまりにも考えの範疇から越えた内容に。

 頭がついて行かずに、あたしはまた気を失ってしまったのだった。

 けど、次に起きた時はセリカちゃんがいない代わりに側で殿下が何か本を読んでいた。


(……綺麗)


 まぶしいくらいの金髪が、窓から差し込む月明かりに照らされて、とても幻想的で。

 それが、いつまでも見ていたいと思うなんて。

 クロームの背を追いかけていた、子供の頃以来の気持ちだった。

 しかも、殿下はあたしに想いを寄せてくださっているって、夢のような言葉を。

 本能的に、欲した瞬間だった。


「あ、起きた?」


 あたしに気づかれて、向けられた柔らかい微笑みも。すべて、あたしにだけ。

 手に入れていいのだろうか、とか。

 平民なのに、とか。

 思うことはあっても。

 クロームの時以上に、手を伸ばしたいと思ってしまった。

 手の届かないところに手を伸ばすのは、もうやめたいと避けていたのに。


「殿……下」

「なーに、マールドゥ?」


 きっと、聡いこの方はあたしの気持ちをもうとっくに知っていらっしゃるだろう。

 けど、あたしは自分の本心にもう我慢するつもりはなかった。


「まだ……少し、ですけど」

「うん」

「殿下の……隣に、いたいと思いました。さっき、そう感じたんですが」

「! じゃあ」

「相応しくないと、色々言われるかもしれないですが。……いいですか?」

「もっちろんだよ!」


 殿下に強く抱きしめられた時に感じた気持ちは。

 全部、『喜び』でしかなかった。
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