異界の編集は、世の中と隣り合わせ

櫛田こころ

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第5話 糧の枯渇は蜜が足す

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 異界の店は常に繋がることはない。

 逆の『異界の編纂者』である彼ら糧を欲する時に、相応の『にえ』と呼ばれる供物を差し出す必要がある。同じであれば違う時もあるが、先ほどの彼らは大きなぬいぐるみを溶かして道を創ったことで事足りた。

 糧は欲しがる幼子に、必要なモノを差し出す。多過ぎても少な過ぎてもいけない。その幼子はしばらく糧を必要としなくなるからだ。保護者のように見える従者である、あの成年体に吸わせる『蜜』の香りを与えるからだ。蜜自体は、これから必要となるものが吸いに来る。

 毘古と呼ばれたキツネ顔の存在の身体に、いつのまにか蜘蛛の巣が被さったように蜂蜜のような粘っこいものが絡みついている。毘古はその意味を知っているのか。絡まるままに、その場に待機している。

 先程の朱里が食べた糧が、『異界の維持』に役立った証だ。彼女が好物の形をした糧をあの肉体に取り込み、政が寝床に連れ帰って添う。繭のように包まれて、機能を一時停止した後に。彼を通じて『蜜』が異界にも届くのだ。


「漂う世界の編纂の対策は、こちらも同じでっから」


 贄にしたぬいを『羽虫』という獣人のように似せ。喰らった糧を糸のように流して羽虫の伝達で花開かせる。この繰り返しを幾度か可能にしてきたとされているが、毘古が受けたのはかなり久しい。

 恐らく、これからこの店に来る人物に『吸わせる』ためだろう。政が残した煙管の煙は、まだ残りが漂っている。それに導かれるように気配が近くなっているのも毘古は感じ取れた。

 見つけ方は個人によるが、煙をさらに吹かせて扉を溶かす方法できた。

 溶けた扉がひとり分くらい地面に落ちた後。さらに店内に煙を流し込んできたと思えば、軍服の出立ちの男がすでに座り込んでいた。恐らく、煙は媒介として『本体』の部屋にくゆらせているのかもしれない。


「悪いな。こんな乱暴で」
「いえいえ、五条さん。ちょうど良かったですよ」


 表向きは警視庁の中でも壮年の部類の五条悠馬。実は異界と行き来して『予知』を現実世界に持ち帰る編纂者だと知る者は少ない。異界を『本来の世界』だと知る人間とやらはごく僅かなのだ。毘古は、五条が異界のとある存在に『指定』された人間なのは知っている。

 この五条とその周囲の編纂者なくして、異界のみならず……『あちらの世の中』すべての存在が切り替わらない。政治だ、戦争だと喚いている好き勝手にしている連中ではなく、全ての『存在』『大陸』が切り替わるのだ。

 朱里と政が現実側に出現する意味を、この五条は知っているのでこの店に来たのだから。

 蜜塗れの毘古を見ても、左して驚いている様子はない。


「そんな蜜塗れってことは……あの子が来たの?」


 悲惨な状況を見ても、むしろ喜んでしまっている。毘古も別に怒ることではないから頷くだけだ。


「ええ。貴方が来る、ほんの少し前に。各地に『根』を置いたのか……まだこの量です。確実に貴方へお渡ししたかったでしょうが、これだけなんですよ」
「いいって。向こうの『世界編集』に事足りる分くらいはあるさ。今までので幾つか地底の補強もできたんだ。……それをもらっても、俺が『何に』なってやれるかはわかんねぇけど」
「……受け取ってください」
「ああ」


 毘古が告げた途端、絡みついていた蜜は解き……五条の前で小さな小さな珠になる。すぐに口に入りそうな黄金色のそれを、覚悟を決めた表情をしてから含んだ。

 途端に、身体が蕩けて霧散するかのように消えた。毘古は動けるようになると、元通りになった扉へと一礼した。


「……小さな小さな編纂者の、彼の方を頼みます」


 幾度となく、毘古は五条に告げたことを繰り返す。五条以外にも伝えたことはあったが、やはり心は休まる事態でないのを苦しく思うしかなかった。
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