異界の編集は、世の中と隣り合わせ

櫛田こころ

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第9話 相対は必ずしも

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 蜜を含み、仮初の身体を溶かしていく『五条悠馬』だったものは。

 異界の『地層』の亀裂に、するりと溶け込んでいく。蕩けているのに水のようにさらりと。

 亀裂の中に染み渡り、じわじわと進むかと思えば。亀裂の隙間を見つければ、蛇が俊敏に這い回るように突き進んでいく。

 ひとつの筋が、木の根だった隙間へとどんどん進んでいく。渇いたところへと流れていく音は、時折ヒトの声に似た嗚咽のようだ。

 それは誰の声なのか、流れとなった五条はわかっているのか。次第に流れの中に細長い繭のようなものが仕上がっていくのが見える。亀裂の先に見えた穴に落ちた其れは、べちゃりと落ちた地面のような場で割れた。


「あーあ、今回もべちゃべちゃ」


 繭から出てきたのは、細身の人型。ぺっとりと貼り付いた粘膜のようなものを剥がしつつ、自分をここまで流してきた繭から這いずる。

 足が地面らしき場に降りた時には、姿らしきものが見えるようになってきた。腰まである赤い髪がまだぺっとりと顔を隠しているのに、邪魔くさそうに整えようとはしていたが。


「つか、なに? 髪なが……赤? どんな好みで塗り替えたんだよ? 向こうの『政』は俺に流した蜜でどんな外見の皮を整えようとしたんだ」


 まったく……と、名は一応『五条悠馬』と登録されているだけの編集者は苦笑いをこぼした。表の編集部側とは違い、狭間の編集では魔法のような術が使えるので、遠慮なく身なりを整える。火を使って乾かし、涼しい水で冷やしては適度にパリパリした繭だったものを剥がしていく。

 異界と現実側。

 互いに影響を与える狭間に、参上出来る存在は少ない。

 朱里と政は異界側が集めて、とりあえずの形を与えた道具に対し。

 現実側で『能力』がもともと定められていた存在は、場合によっては『寿命』『相対』を代価に異界への編纂を手伝う。

 五条悠馬はその中でも『予知の夢見』を能力に持つ。代償は『生き死にの最低限』。一定の生命維持を保証される以外は、常に異界の編纂者の立場となり……あらゆる危機を回避すべく、狭間の空間で処置に必要な情報を見聞きしていく。

 彼がその対応をしなければ、現実側の世界其のモノが『破滅』を迎えるとされている。その『兆し』がくるのは、異界の編纂者側が示唆して、編成して、届く一歩手前の期間。

 表の編集部とやらは、それまで五条悠馬の寝床を作ることしか許されていない。

 今でこそ、立場を公務員のようにしているが。それは今サポートに回っている兵部におかげだ。正確には彼の『家』が全面的に支援することで、多少動く時間帯の立場を確保したのだ。


「……まあ。俺も向こうも『お役目』ですからって。最終的な外見はどうだっていいけど」


 べちゃべちゃ落とした繭だったものは、気味悪くにゅるりと白い蟲のようになり。亀裂の中へ逃げ込むように消えて行ったのだった。

 その気味悪さに慣れなくないのか、五条はひとつため息を吐いてから改めて身なりを確認していく。髪は赤く長いが、襟足に沿うように長いだけで髪の量は少ない。服は白いロングコートを主体にした軍服姿。軍服は合わせてくれたが、色やデザインは毎回違う。

 政が扱う『絵姿』を利用して狭間の中で動くのだから、女受けしやすい姿をさせられているはず。


「鏡作りたいけど。『中身』が混ざるから出来んな……さて、ここは何処に通じる狭間なんだ?」


 亀裂から流れ落ちたが、地面だった場はもう無い。

 狭間は常に、這うだけの場所。

 確立させた存在ですら、どの位で壊れるかもわからない。

 暗い昏い湖の底のように、静かで寒寒しいこの場は。五条を包んだ繭だった蟲が、にゅるりと外へ外へ逃げていく。その数の多い方へと付いていけば、水の中なのに『空』があった。


「ブルームーンの如く、でっかい月に奥は境界の海。……なのに、手前は嵐の如く濁流と津波。今度は、日本の『何処』が異界との連携を乱すんだ?」


 地底のズレにより、異界との境が荒れていく。ここを狭間でどれだけ食い止めるのかが、五条の本来の役目。『予知の夢見』とはただの移動手段に使う能力でしかない。

 若い二人にも正確には伝えていないが、彼らには現実側だけの対処がいい。


「……あ~! あったあった! 政の情報通り……苦手な味成分の『牡蠣』『しじみ』。毒素になって、抜くの大変だこりゃ」


 適当なことを言っているのではなく、水の場合には『混ざり過ぎた毒』を探すのが必要とされている。ここでは、清浄な濃度に戻すまでの繋ぎを五条が実行しなくてはならない。

 際まで来た五条は、まず手を合わせ、そこから左右に腕を開く。それぞれ則宗手の中に、幻影のカードの束が幾つも出現。五条は含んでいた蜜の結晶を吐き出す。砕けていくそれと、幻影のカードが合わさることにより……二体、存在が固まった。

 ひとつは、白衣とグラサンが似合う八重歯の男。

 ひとつは、大太刀のように巨大な鎌を背負う、隻眼の女。

 どちらも、アニメかゲームのキャラクターのように見えるがきちんと実体化していた。


シゲ。ここいら一帯の毒抜きに、わてら使うん?」
「……政のためとは言っても、あの子の蜜を無駄にしないためじゃない? 月との境界の一端……水の毒抜きなんて、あたしらしか駄目でしょ」
「しゃーない。政の『望月』側のわてが出るんは」
「はは。底に潜む本体を抜くまで頼んだ」
「「誰だよ、その声!?」」
「政に聞け!!」


 とりあえず、分担して動くのが先だと三人は繭の蟲が集めた『毒素』を見ることにした。

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