異界の編集は、世の中と隣り合わせ

櫛田こころ

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第24話 再生編集の始まり 参

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 再び始まった関節の痛みに、耐えて耐えてと『兵部拓也』は伸びた手足をなんとか動かそうかともがいてみたが。

 どうしても、成年より手足が小さい気がする。手を伸ばしても、掴むのはただの虚空。これではなにもできない。なにも助けられない。そう思っていたはずなのに、掴む手が向こうから来た。


「だ……れ?」


 低いけれど、幼い声が自分から聞こえてくる。それは知っていた自分の声でも誰のものではない、全くの別人。自分はどうなってしまったかもわからない。

 慕っていた人に裏切られたかもしれない、思いが胸の中で苦しくなってしまう。

 自分の黒歴史を利用したのには、少し腹が立ったが。あのキャラクターを模した人物に出会えたのだから、それでいい。そう納得しようとしたら、掴まれた手に思いっきり引っ張り上げられた。

 相手の顔も見えたが、さっき見た顔とは全くの別人なのに驚きを隠せない。


「あ? 君から見ても、俺の顔は別人に見えてるか?」


 先程、耳にした声とは全く違う。低さの中に甘さが覗き、純白に等しい肌がこんがりと小麦色に焼けている。腕っぷしも細身のままだが、筋肉質。

 先程が『少年』ならこちらは『青年』とも言えよう。兵部の年齢よりは幼くも見えるが、こちらのことは知っているようだった。最初はぷらんと兵部を持ち上げたかと思えば、広がってる布の上にふんわりと下ろしてくれた。

 彼は自分をどうしたいのかよくわからない。少しだけ大きくなった兵部を見ても、にんまりと笑っているだけだった。


「……誰?」
「え? おいおいおい。俺だよ? 俺、俺! 政!! お兄ちゃんだって!!」
「は? 兄? そんなのいないけど」
「え!? これはいけない!!」


 一応の会話でこの男が自分にとっての『兄』だと言われても意味がわからないでいた。兄のように慕っていたのは五条であっても、『五条悠馬』という存在はもういない。と言うよりも、もともといたかどうかの曖昧な存在だったらしい。

 何か無造作に、鼻へ何かを押し付けられた。甘くて優しい、花のような煙の香り。煙草でもないその香りを嗅ぎたくて、顔を上げれば。『兄』らしき男と五条の微笑みが重なったような気がした。


「ご……じょ、さ?」
「五条? ああ! 成のことか。たしかに、長兄を目指すことであれば……末弟の気遣いを人一倍気遣うのは当然か」
「……あの人も、兄、なのか?」
「間違ってはいないが。これからの道筋での選択次第。俺とあいつが兄の順序が変わってくる」
「は?」


 正解のようで、曖昧を言おうとするのはこの男も同じなのか。しかしながら、きちんと答えを導き出そうとしている雰囲気がある。それと、片手には何故か花束をまとめて軽く炙って煙を出させていた。香りはそこから程よく漂っていたため、少し気分が落ち着く気がした。


「つか、この俺の姿……政からの情報が間違ってなければ。俺が真ん中かよ!? あんの、独占欲の塊野郎めぇ!!」


 しかしながら、この兄らしき男は口調が粗雑だ。親しみを持てる雰囲気ではあるが、基本的に口が荒い。今の自分の姿を見て、苛立ちを覚えたのか顔が歪んでいくのがもったいない。


「……あの。とりあえず聞きたいことが」
「ん? いいぜ」
「ここ、何処ですか?」
「……記憶の連携取れてないか。まあ、いい。ここは異界と現実の狭間だけど……言い方を変えれば、あの世に近い空間。黄泉比良坂ってとこかな?」
「い!? 俺、死んだ!?」
「違う違う違う。俺と君は、異界の編集部として動くんだよ……『マチャ』」
「い゛だ!?」


 今までとは違う名を呼ばれた途端。脳の中が締め付けられるような痛みに襲われた。だけど、さっき聴こえた『曲』が薄っすらとその中に響いてくる。幻想と幻聴が同時に起こり、通常ならここで『患者』として断定されるだろうに。

 兄は、くつくつと笑っているだけだった。


「どうだ? 思い出せたか? マチャ……いいや、ここは雅博まさひろって呼んだ方がいいか? 俺の弟よ」


 あだ名ではなく、『名前』をはっきりと呼ばれたおかげか。靄のように見えなかった『全部』がクリアになっていく気がした。記憶も、身体も、声も。あの歌がなにのために作ろうとしていたデモテープなのかも。


「思い出した。出したって! 雅之助兄さんでとりあえずいい? これの三部隊設定で、まず『編集長』の仕事出来るか自信ないけど」
「おkおk~。成はしばらく、現実側だからなあ? こっちはこっちで、先にもう片方の編集長殿のとこまで仕事スタートなんよ」
「こんな端っこでかよ?」


 今まで自分も『隠された選者』に過ぎないことを思い出した。あちらでは縁戚関係はなくとも、実際のところ『兄弟』だった五条をサポートしていただけの末弟。

 それらが本来の到達点にて、完全に構成とかも整う。黄泉比良坂自体は、ただの幻想で事実上は違うのだ。ふたりの横には万里の長城とかでも言いがちな城壁が伸びていて、途中には城門のようなものがはめ込んであった。


「ばあちゃんたちの『門』を、解除からかよ!」


 兄と認識した雅之助は、腰に穿いている警棒を抜き。片方は鍵穴を貫くくらいに刺して。もう片方は扉を破壊前提で刺し貫く。予想通りになったのか、貫通して行ったあとは崩れ落ちるだけだった。


「……雑くない? 雅兄」
「いーんだって! 編集長の師匠から会得する仕上げは、お前とAKIRAがするんだぞ?」
「……あきら? …………もしか、して。クー、の??」
「そそ。望月文庫の編集部は朱里が継承させたらしいぞ? お前は、どっかにいるメメを探せ。『最愛の女』を悲しませる行動を男はさせられないんだよ」
「! わかった!」


 これより、最終到達点の『家族』めがけて。事態の整備を男側がほとんど担う。女側は気候などを操るしかできないとされている。それは、何代の前の編集長が代替わりをしても同じだ。

 雅博として、『狭間の編集長』に任命された自分が出来ることは、と。

 中へと突撃する前に、雅博はなりきりではないあの歌を歌うことにした。

『龍の唄』を使用し、これから出て来る膿への破壊に竜を召喚することにしたのだ。現実と異界の間には両者の『膿の流れ』が酷い。せめてもの手向けにと、声を張り上げて歌うことにした。




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