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第25話 龍の唄はまやかしではない
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政が歌ってみせたのは、前座に過ぎない。
誠に『龍の唄』を歌えるのは、魅入られた兄弟の誰か。
成はその中の『本物』をとっくに見つけていたのだ。録音媒体にその歌声を残し、自身の魂魄に染み込ませただろうが。この珠玉の如き、至高の歌声を聴いたらもっと肉体の寄せ方が変わっただろうに。
♫
鮮やかな香り揺られて 道を迷わせ
言の葉の印 我を惑わす
道、路、我の足を動かし
先々の夢を掴もう
愛を閉じて こころ広がる
玉響への想いを ただただ流るる
夢開ければ 明日を迎えよう
政は炙って香りを流した花束を捨てたのが惜しいと思った。香りは雅博へと贈ったが、本体は膿に投げて蕩け具合を見るのに捨ててしまっていた。
この珠玉の歌に、花でもひとつ贈らない方が失礼に値するだろう。それでも、この歌はただ歌い続けるために彼は吼えているわけではない。
「空間に隠した、龍の刀剣。それを真っ二つに割るための咆哮! すげぇな!!」
現実側では、褒められたものでないと。どれだけ蔑まされていただろうか。そんな、前の身内など生きているかどうかもわからない。糧とされたか、膿で漂わせたか。
門を突き破ったあとに、ドロドロと流れ込んできた混濁の『膿』は雅博の龍砲でこちら側に侵入するのを阻まれていたが。割と拮抗なくらいに侵入しようと押し寄せてくるので、政はそろそろと雅博の腕を掴んで膿の中へと突入することにした。
「雅兄!? まだ終わってないのに!?」
膿の中に入っても、呼吸が出来るのか声が普通に出る。慣れるのに時間がかかりそうだが、政の方は慣れているのかケラケラと笑っていた。
「メメを見つけてからでいい! 俺は俺で、うちのやつ探さなきゃなんねぇんだよ。朱里のお守りしてたから……千年はまともに会えてねぇ」
「……わかった。また向こうで」
「おう」
地盤が間に合ってよかった。『弟の覚醒』そのものも。本来なら、長兄予定の成が全てを伝達するはずが。ひとまずの肉体が出来そうだったからだろう。赤児まで縮小させられると言うことは、本当に『次代編集長』の座は彼ら末弟や末妹の手に渡る決断。
上はあくまでも『支え』。
先代からの通達をきちんと受け取った成はマチャやAKIRAの変化を見て引き離した。お互いの最愛のために、最高を迎えたい『朝のスタート』を。
編集長=王ということで、政事の『最初』は表側も裏側も最初でなくてはいけない。
間のことについては最後までわからないとされている。『迎え』の到達点などどちらが先かだなんて分かりやしないのだから。とは言え、雅博の最初も困難極まりないとされている。
『種馬』として、メメが何処にいるのか。その『タネ』の最初の場所を探してやらなければいけない。男側の務めはこれからが本番だ。
(俺のあいつ! 白百合がAKIRAなら……クーがそれを目指すまで。俺の色は、今回いったいなんなんだ!?)
膿の中を探っても、出口らしきところが見当たらない。見つけなければ、『マサ』として最初に始めなくてはいけない場所での出来事が編集されないのだ。
潜っても、潜っても、目指す先が寒い。寒くて堪らない。この寒流はなんのためか。雅博も感じていただろうが、あちらもあれ以上の『外見の皮』を保っていられるかはわからない。
異界はひとつではない。
並行する幾つもの『泡の包み』の中に存在していて、それらは先代の編集長曰く、『ひとつの牧場』のようだと喩えた。
ひと組の祖父母がいて、子の人数はバラバラではあるが彼らもまた他の泡を頼りに、夫婦となって子を成す。そこから、さらに泡を増やしていく。
国家とも喩えられない、ただの平民以下でしかない。政は先代の言葉の記憶を、兄弟である成と等しく持つように組み込まれている。
なぜなら、この戦いのように見せている『地球再生』こそがその泡の形成だけの演出だからだ。
「梓!」
突き進むにつれ、出口が見える。そこに手を伸ばした途端、口から名前が出た。呼ぶべき、相対の最高峰を。
ズボッと出た先には、蔦の中にある土管なのか。服装もいつのまにか変わっていたが、温かい分動き易い。外に出るのも容易で、這いずるように動けば。
「……雪? 蔦に雪?」
出られるかと試みると、降りた先は積み上がった土管の下だった。廃墟に近いのか、蔦が絡み合って雪に埋もれている。周囲を見渡しても、ヒトっ子ひとり居ないような豪雪地帯。
「……おいおい。道筋作る手筈したからって、探し出す場所のスタート地点がめちゃくちゃじゃないか?」
服のことから、顔つきも変わっているだろうが。それは梓に確認してもらえばいい。この場所が現実側でないのは、空に見える『硝子のような壁』でわかっているから、次を試すべきだ。
「えーっと、開いて閉じて……選ぶ」
魔法などで検索する仕組みをつくったのは、政に他ならない。手を合わせて、開いて横に伸ばせば。光った帯がひとりでに出来上がったのだった。
「うーん? 雪と蔦……あ!? 雪原開拓……はいはい。向こう側のスウェーデンあたりね」
帯を広げて、見える影の形が定ったらくるりと帯を動かせば、形は固まることが出来る。
ぽんっと音が立つと、出てきたのは『黒塗りのバイク』だった。
「奪いに来るなら……さっさとしろ? 全く、あいつらしいぜ」
男側が設備を整えるまで、こちらも用意していた。ここまで緩く演出してくれたことは嬉しいが、住居が何処にあるかまでは不明。泣くのを堪えて、バイクにまたがった。
誠に『龍の唄』を歌えるのは、魅入られた兄弟の誰か。
成はその中の『本物』をとっくに見つけていたのだ。録音媒体にその歌声を残し、自身の魂魄に染み込ませただろうが。この珠玉の如き、至高の歌声を聴いたらもっと肉体の寄せ方が変わっただろうに。
♫
鮮やかな香り揺られて 道を迷わせ
言の葉の印 我を惑わす
道、路、我の足を動かし
先々の夢を掴もう
愛を閉じて こころ広がる
玉響への想いを ただただ流るる
夢開ければ 明日を迎えよう
政は炙って香りを流した花束を捨てたのが惜しいと思った。香りは雅博へと贈ったが、本体は膿に投げて蕩け具合を見るのに捨ててしまっていた。
この珠玉の歌に、花でもひとつ贈らない方が失礼に値するだろう。それでも、この歌はただ歌い続けるために彼は吼えているわけではない。
「空間に隠した、龍の刀剣。それを真っ二つに割るための咆哮! すげぇな!!」
現実側では、褒められたものでないと。どれだけ蔑まされていただろうか。そんな、前の身内など生きているかどうかもわからない。糧とされたか、膿で漂わせたか。
門を突き破ったあとに、ドロドロと流れ込んできた混濁の『膿』は雅博の龍砲でこちら側に侵入するのを阻まれていたが。割と拮抗なくらいに侵入しようと押し寄せてくるので、政はそろそろと雅博の腕を掴んで膿の中へと突入することにした。
「雅兄!? まだ終わってないのに!?」
膿の中に入っても、呼吸が出来るのか声が普通に出る。慣れるのに時間がかかりそうだが、政の方は慣れているのかケラケラと笑っていた。
「メメを見つけてからでいい! 俺は俺で、うちのやつ探さなきゃなんねぇんだよ。朱里のお守りしてたから……千年はまともに会えてねぇ」
「……わかった。また向こうで」
「おう」
地盤が間に合ってよかった。『弟の覚醒』そのものも。本来なら、長兄予定の成が全てを伝達するはずが。ひとまずの肉体が出来そうだったからだろう。赤児まで縮小させられると言うことは、本当に『次代編集長』の座は彼ら末弟や末妹の手に渡る決断。
上はあくまでも『支え』。
先代からの通達をきちんと受け取った成はマチャやAKIRAの変化を見て引き離した。お互いの最愛のために、最高を迎えたい『朝のスタート』を。
編集長=王ということで、政事の『最初』は表側も裏側も最初でなくてはいけない。
間のことについては最後までわからないとされている。『迎え』の到達点などどちらが先かだなんて分かりやしないのだから。とは言え、雅博の最初も困難極まりないとされている。
『種馬』として、メメが何処にいるのか。その『タネ』の最初の場所を探してやらなければいけない。男側の務めはこれからが本番だ。
(俺のあいつ! 白百合がAKIRAなら……クーがそれを目指すまで。俺の色は、今回いったいなんなんだ!?)
膿の中を探っても、出口らしきところが見当たらない。見つけなければ、『マサ』として最初に始めなくてはいけない場所での出来事が編集されないのだ。
潜っても、潜っても、目指す先が寒い。寒くて堪らない。この寒流はなんのためか。雅博も感じていただろうが、あちらもあれ以上の『外見の皮』を保っていられるかはわからない。
異界はひとつではない。
並行する幾つもの『泡の包み』の中に存在していて、それらは先代の編集長曰く、『ひとつの牧場』のようだと喩えた。
ひと組の祖父母がいて、子の人数はバラバラではあるが彼らもまた他の泡を頼りに、夫婦となって子を成す。そこから、さらに泡を増やしていく。
国家とも喩えられない、ただの平民以下でしかない。政は先代の言葉の記憶を、兄弟である成と等しく持つように組み込まれている。
なぜなら、この戦いのように見せている『地球再生』こそがその泡の形成だけの演出だからだ。
「梓!」
突き進むにつれ、出口が見える。そこに手を伸ばした途端、口から名前が出た。呼ぶべき、相対の最高峰を。
ズボッと出た先には、蔦の中にある土管なのか。服装もいつのまにか変わっていたが、温かい分動き易い。外に出るのも容易で、這いずるように動けば。
「……雪? 蔦に雪?」
出られるかと試みると、降りた先は積み上がった土管の下だった。廃墟に近いのか、蔦が絡み合って雪に埋もれている。周囲を見渡しても、ヒトっ子ひとり居ないような豪雪地帯。
「……おいおい。道筋作る手筈したからって、探し出す場所のスタート地点がめちゃくちゃじゃないか?」
服のことから、顔つきも変わっているだろうが。それは梓に確認してもらえばいい。この場所が現実側でないのは、空に見える『硝子のような壁』でわかっているから、次を試すべきだ。
「えーっと、開いて閉じて……選ぶ」
魔法などで検索する仕組みをつくったのは、政に他ならない。手を合わせて、開いて横に伸ばせば。光った帯がひとりでに出来上がったのだった。
「うーん? 雪と蔦……あ!? 雪原開拓……はいはい。向こう側のスウェーデンあたりね」
帯を広げて、見える影の形が定ったらくるりと帯を動かせば、形は固まることが出来る。
ぽんっと音が立つと、出てきたのは『黒塗りのバイク』だった。
「奪いに来るなら……さっさとしろ? 全く、あいつらしいぜ」
男側が設備を整えるまで、こちらも用意していた。ここまで緩く演出してくれたことは嬉しいが、住居が何処にあるかまでは不明。泣くのを堪えて、バイクにまたがった。
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