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雪女
第1話 雪女との接触
しおりを挟む名古屋中区にある栄駅から程近いところにある錦町。繁華街にある歓楽街として有名な通称錦三とも呼ばれている夜の町。
東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。
そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。その通路を通り、角を曲がって曲がって辿り着いた場所には。
あやかし達がひきめしあう、『界隈』と呼ばれている空間に行き着くだろう。そして、その界隈の一角には猫と人間が合わさったようなあやかしが営む。
小料理屋『楽庵』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。
デザイナー見習いの湖沼美兎はご機嫌だった。
つい先日のことだが、片想いをしている猫と人間を合わせたようなあやかしである火坑からお誘いをされたのである。
あと三日、クリスマス当日にほんの少しでもとイルミネーションを観に行かないかと。
紅葉狩りの時に、赤鬼の隆輝や彼女である先輩の沓木と一緒に、LIMEの連絡先を交換して良かったと心底思えた。
イヴも迫ってきた今日は、データの配達とディスプレイ建設現場への差し入れをしていたので少し遅番になったが……上司から直帰して良いとも言われたため、界隈に行こうか悩んだ。
(こんな遅い時間でも、楽庵ってやってるのかなあ……?)
いつも行っていた時間は定時上がりくらいなので、22時を過ぎた時間にはあまり行ったことがない。だが、好きな相手には会いたい。
恋人ではないのと、傾向はしているが常連だとて時間外に会いに行くのもあまり良くないと思っているが。一歩間違えたら、ストーカーと変わりない。そんな落ちぶれた事などしたくないのだ。
とりあえず、雪は降らずとも寒いのでさっさと帰って寝た方がいいだろうと結論付けて、界隈への通路から外れようとした時に。
雪が、降ってきたのだ。
「うわぁ……!?」
名古屋で初雪もだが、雪を見るなどいつぶりだろうか。そう思えるくらい、名古屋は京都のように盆地の地形ではあれ、雪が降り難い地域だ。
しかも、他県でも雪を見たことがない美兎の見解でしかないが、これは積もるかもしれない。明日の夜中の設営は室内だが、搬入が大丈夫か心配になってきた。
かと言え、決めるのは上司と現場監督の判断だ。下っ端の美兎が連絡したところで大丈夫などと言われるだけだろう。
なので、もう電車に乗って帰るかと地下通路口に向かおうとした時。
雪ではない、冷たい何かに当たった。
誰かにぶつかったにしては冷た過ぎた。
なんだろう、と手を見ると赤く染まっていたのだった。
「……え?」
熱い、痛い、痛い。
その単語が瞬時に浮かび、思わず手を押さえてしまう。無事な手を当てても、余計に痛みもだが痒みも出てきて無性に掻きむしりたくなった。これはいったいどうしたのか皆目見当もつかない。
「ご……ごめんなさい!?」
慌てているが、可愛らしい女性の声が近くで聞こえた。痛みと痒みに耐えながら顔を上げると、黒髪でロングヘアーの女性が美兎の前に立っていたのだ。誰だか、涙もにじんできた美兎の視界ではよく見えない。
「……だ、れ……?」
「え、えと! し、師匠のお店に来てくださったじゃないですか!? し、下っ端の……花菜、です!!」
「は……な、なさん?」
思い出した。あまり話していないが、たしか火坑の妹弟子に当たるあやかしの女性がいた。
どう言うわけか、人間に化けて人間界に来ているようだが……何故彼女が美兎に謝るのかがわからない。
花菜はあたふたしながら、とにかく美兎にぺこぺこと謝るばかりだった。
「わ、私が手袋もせずにぶつかったせいで!? だ、大丈夫ですか!? 痛くないですか!!?」
「正直……痛いし、痒いです」
「あああ!? 本当にすみません!!」
この痛みと痒みの原因は彼女に問題があるようだ。
しかし、痛みは引くどころじゃどんどん酷くなっていく。痒みも、本当に血が出るくらいに掻きむしりたいくらいだ。もう我慢出来ない、と思って手を伸ばそうとしたら……後ろから『待った』と聞き覚えのある声が聞こえて、美兎が伸ばした手を掴まれた。
「掻きむしんのはやめなさい。痕が残るわよ?」
「真穂……ちゃん?」
「真穂様!?」
「ったく。花菜も駆け寄るんなら、結界くらい張りなさい?」
「……はい」
とりあえず、真穂が美兎達を周囲に見えないように結界を張ってくれたようで。美兎の、雪女の花菜に触れたことで凍傷になった手を治すのに……界隈でも以前ジェイクを診てもらった診療所に連れて行ってもらえることになった。
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