名古屋錦町のあやかし料亭〜元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

櫛田こころ

文字の大きさ
179 / 204
ジョン 弐

第5話 猫人の嫉妬

しおりを挟む
 霊夢れむの言った通りに……楽養らくようを出てから、すぐに楽庵らくあんに行くと……ちょうど火坑かきょうが戻って来ていた。

 珍しく、香取かとり響也きょうやの姿で。


「おや、美兎みうさん?」
「こんにちは、火坑さん」


 美兎が挨拶すれば、火坑は響也の姿のまま軽く首を傾げた。


「僕に? ですか??」
「一度来たんですけど……いらっしゃらなかったので」
「? けど、どこかに行かれていたようにお見受けします。それに、師匠の妖気が」
「あ、はい。ちょうどお会い出来たので……軽くお昼ご飯を食べさせていただきました」


 いけないことではないはずなのに、火坑の様子が少しおかしい。美貌の象徴でもある響也の姿をしているせいか、猫人の時よりも表情の変化がわかりやすいのだ。

 火坑は軽く息を吐くと、何故か苦笑いになった。


「少し……いや、だいぶ悔しいですね? もう少し早く戻って来られたら、美兎さんと過ごせましたのに」
「火坑さん……」


 親代わりでもある霊夢相手でも、心配することはほとんどないのに美兎への独占欲があると、嫉妬してしまったのだろう。

 元彼である拓哉でも、そんなことはなかったのに……本当に、あやかしであれ素敵な恋人が出来て美兎は嬉しかった。だから、左右にあやかしや人間がいないのを見てから……そっと火坑に近づいて、頬にキスをした。


「? 美兎さん??」


 突然の触れ合いだったので、火坑もびっくりしてくれて……だんだんと顔が赤くなっていく。白い体毛に覆われた猫人のままでは、このようにならないので嬉しかった。


「これで……少しは機嫌直りました??」


 だから、不思議な愉悦を感じ、軽く舌を出してみた。


「……十分です」


 さ、と楽庵の扉の鍵を開け、貼り紙を外した。

 中に入ってからも、火坑は響也のままでいたけれど……美兎は構わず、月虹の欠片を彼の前に差し出した。


「これなんですが、忘れていて」
灯里あかりさんにいただいた……使わなかったんですか?」
「使う理由もなかったので……」


 霊夢にも使うなら有効活用するように、と注意されたことを告げれば……火坑は少し困った表情になった。


「持ち主は美兎さんですし……」
「けど。こんな、魔法みたいな凄いアイテム……人間にはもったいなくて」
「なんでもいいんですよ??」
「だいたいはここの美味しいお料理で満たされているので……火坑さんもいますし、ないです」
「……本当に、欲がないですね?」
「欲はいっぱいありますよ??」


 欲求不満に近いことはともかく、火坑と頻繁に会えて、美味しい料理を振る舞ってもらえているから……美兎は概ね満足している。

 だからこそ、余計に使い道が見つからないのだった。


「……しかし、僕も特に叶えたい願いは……なくもないですが。わざわざそれのために使うのも」
「なんですか!!?」


 火坑に望みがあるとは珍しい。

 美兎はカウンターから乗り出す勢いで彼に近づくと……何故か、火坑に頬を両手で軽く挟まれた。触れた手は人間になっているからか、熱かった。初夏なのに、嫌な熱さではない。

 少しずつ鼓動が早くなっていくのを見計らったかのように、火坑が顔を近づけて来た。


「未来永劫……あなたを隣に置きたい願望です」


 ささやかだと思われるが、物凄い独占欲の証。

 軽くキスされた後に、ふたりで笑い合った後……月虹の欠片を使うことにした。

 灯里が告げてくれたように、想う相手とのためへの使い方として。

 使い方は、美兎と火坑が先程の願いを口にした途端……店内が虹色の光に包まれ、消える頃には、ふたりでしっかり持っていた欠片が消えていたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。 「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」 「それは……しょうがありません」 だって私は―― 「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」 相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。 「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」 この身で願ってもかまわないの? 呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる 2025.12.6 盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...