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ジョン 弐
第5話 猫人の嫉妬
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霊夢の言った通りに……楽養を出てから、すぐに楽庵に行くと……ちょうど火坑が戻って来ていた。
珍しく、香取響也の姿で。
「おや、美兎さん?」
「こんにちは、火坑さん」
美兎が挨拶すれば、火坑は響也の姿のまま軽く首を傾げた。
「僕に? ですか??」
「一度来たんですけど……いらっしゃらなかったので」
「? けど、どこかに行かれていたようにお見受けします。それに、師匠の妖気が」
「あ、はい。ちょうどお会い出来たので……軽くお昼ご飯を食べさせていただきました」
いけないことではないはずなのに、火坑の様子が少しおかしい。美貌の象徴でもある響也の姿をしているせいか、猫人の時よりも表情の変化がわかりやすいのだ。
火坑は軽く息を吐くと、何故か苦笑いになった。
「少し……いや、だいぶ悔しいですね? もう少し早く戻って来られたら、美兎さんと過ごせましたのに」
「火坑さん……」
親代わりでもある霊夢相手でも、心配することはほとんどないのに美兎への独占欲があると、嫉妬してしまったのだろう。
元彼である拓哉でも、そんなことはなかったのに……本当に、あやかしであれ素敵な恋人が出来て美兎は嬉しかった。だから、左右にあやかしや人間がいないのを見てから……そっと火坑に近づいて、頬にキスをした。
「? 美兎さん??」
突然の触れ合いだったので、火坑もびっくりしてくれて……だんだんと顔が赤くなっていく。白い体毛に覆われた猫人のままでは、このようにならないので嬉しかった。
「これで……少しは機嫌直りました??」
だから、不思議な愉悦を感じ、軽く舌を出してみた。
「……十分です」
さ、と楽庵の扉の鍵を開け、貼り紙を外した。
中に入ってからも、火坑は響也のままでいたけれど……美兎は構わず、月虹の欠片を彼の前に差し出した。
「これなんですが、忘れていて」
「灯里さんにいただいた……使わなかったんですか?」
「使う理由もなかったので……」
霊夢にも使うなら有効活用するように、と注意されたことを告げれば……火坑は少し困った表情になった。
「持ち主は美兎さんですし……」
「けど。こんな、魔法みたいな凄いアイテム……人間にはもったいなくて」
「なんでもいいんですよ??」
「だいたいはここの美味しいお料理で満たされているので……火坑さんもいますし、ないです」
「……本当に、欲がないですね?」
「欲はいっぱいありますよ??」
欲求不満に近いことはともかく、火坑と頻繁に会えて、美味しい料理を振る舞ってもらえているから……美兎は概ね満足している。
だからこそ、余計に使い道が見つからないのだった。
「……しかし、僕も特に叶えたい願いは……なくもないですが。わざわざそれのために使うのも」
「なんですか!!?」
火坑に望みがあるとは珍しい。
美兎はカウンターから乗り出す勢いで彼に近づくと……何故か、火坑に頬を両手で軽く挟まれた。触れた手は人間になっているからか、熱かった。初夏なのに、嫌な熱さではない。
少しずつ鼓動が早くなっていくのを見計らったかのように、火坑が顔を近づけて来た。
「未来永劫……あなたを隣に置きたい願望です」
ささやかだと思われるが、物凄い独占欲の証。
軽くキスされた後に、ふたりで笑い合った後……月虹の欠片を使うことにした。
灯里が告げてくれたように、想う相手とのためへの使い方として。
使い方は、美兎と火坑が先程の願いを口にした途端……店内が虹色の光に包まれ、消える頃には、ふたりでしっかり持っていた欠片が消えていたのだった。
珍しく、香取響也の姿で。
「おや、美兎さん?」
「こんにちは、火坑さん」
美兎が挨拶すれば、火坑は響也の姿のまま軽く首を傾げた。
「僕に? ですか??」
「一度来たんですけど……いらっしゃらなかったので」
「? けど、どこかに行かれていたようにお見受けします。それに、師匠の妖気が」
「あ、はい。ちょうどお会い出来たので……軽くお昼ご飯を食べさせていただきました」
いけないことではないはずなのに、火坑の様子が少しおかしい。美貌の象徴でもある響也の姿をしているせいか、猫人の時よりも表情の変化がわかりやすいのだ。
火坑は軽く息を吐くと、何故か苦笑いになった。
「少し……いや、だいぶ悔しいですね? もう少し早く戻って来られたら、美兎さんと過ごせましたのに」
「火坑さん……」
親代わりでもある霊夢相手でも、心配することはほとんどないのに美兎への独占欲があると、嫉妬してしまったのだろう。
元彼である拓哉でも、そんなことはなかったのに……本当に、あやかしであれ素敵な恋人が出来て美兎は嬉しかった。だから、左右にあやかしや人間がいないのを見てから……そっと火坑に近づいて、頬にキスをした。
「? 美兎さん??」
突然の触れ合いだったので、火坑もびっくりしてくれて……だんだんと顔が赤くなっていく。白い体毛に覆われた猫人のままでは、このようにならないので嬉しかった。
「これで……少しは機嫌直りました??」
だから、不思議な愉悦を感じ、軽く舌を出してみた。
「……十分です」
さ、と楽庵の扉の鍵を開け、貼り紙を外した。
中に入ってからも、火坑は響也のままでいたけれど……美兎は構わず、月虹の欠片を彼の前に差し出した。
「これなんですが、忘れていて」
「灯里さんにいただいた……使わなかったんですか?」
「使う理由もなかったので……」
霊夢にも使うなら有効活用するように、と注意されたことを告げれば……火坑は少し困った表情になった。
「持ち主は美兎さんですし……」
「けど。こんな、魔法みたいな凄いアイテム……人間にはもったいなくて」
「なんでもいいんですよ??」
「だいたいはここの美味しいお料理で満たされているので……火坑さんもいますし、ないです」
「……本当に、欲がないですね?」
「欲はいっぱいありますよ??」
欲求不満に近いことはともかく、火坑と頻繁に会えて、美味しい料理を振る舞ってもらえているから……美兎は概ね満足している。
だからこそ、余計に使い道が見つからないのだった。
「……しかし、僕も特に叶えたい願いは……なくもないですが。わざわざそれのために使うのも」
「なんですか!!?」
火坑に望みがあるとは珍しい。
美兎はカウンターから乗り出す勢いで彼に近づくと……何故か、火坑に頬を両手で軽く挟まれた。触れた手は人間になっているからか、熱かった。初夏なのに、嫌な熱さではない。
少しずつ鼓動が早くなっていくのを見計らったかのように、火坑が顔を近づけて来た。
「未来永劫……あなたを隣に置きたい願望です」
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軽くキスされた後に、ふたりで笑い合った後……月虹の欠片を使うことにした。
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使い方は、美兎と火坑が先程の願いを口にした途端……店内が虹色の光に包まれ、消える頃には、ふたりでしっかり持っていた欠片が消えていたのだった。
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