名古屋錦町のあやかし料亭〜元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

櫛田こころ

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ジョン 弐

第6話 親代わりの勘

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 月虹の欠片が……人間の手で使用された。

 美兎みうを見送ってからしばらくして……霊夢れむは店の二階にある自宅で、紙煙草をふかしていた。ちょうど火をつけた頃合いに、欠片の気配を感じたのだ。


「……火坑かきょうと相談した上で、使ったか??」


 閻魔大王に頼まれた……猫系のあやかし。

 猫又でも火車でもない、特殊な猫の形状を保ったあやかし。

 母猫の腹から産まれたわけでもなく、あの世から現世に肉体を持たせて魂を転生させただけのあやかしだ。最初はいささか面倒だとは思ったが、美兎に話した通り……礼儀も良く、意外と戦力になったため……弟子として育てた。

 店を持ったのは、まだまだ霊夢よりも短いが……それでも、霊夢から暖簾分けした弟子のひとりとして、にしきでだがそれなりに繁盛している。

 得意のスッポンを扱った料理は……あまり褒めないが、ある意味で霊夢を上回っている。霊夢も扱わなくはないが、得意が天ぷら系なので白身魚やイカなどを扱うことの方が多い。

 今日美兎に作ってやった山菜のもだが……豪胆な見た目をしている割に、意外と繊細な仕事をするのが霊夢だ。同じ弟子の蘭霊らんりょうは訳あって暖簾分けはまだだが……酒の仕込みが得意だ。花菜はななは蒸し料理。

 面白い面子が揃ったものだと……火坑がいた頃は思ったが、あれに伴侶となる人間の女が出来るとは思ってもみなかった。

 ただの人間ではなく、さとりの血をいくらかひき……祖先の伴侶の女と瓜二つ。最初見た時は、その伴侶が化けているかと思ったが。


「あの座敷童子の嬢ちゃんが気にいるくらいの……霊力」


 覚の能力はないが、霊力はピカイチ。おまけに、心の欠片も一級品となり得る人材。

 出会いは偶然であれ、様々なあやかしや人間の後押しにより、交際をすることになったふたりだ。雨女からも気に入られたのに……約一年近くも、もらった月虹の欠片を使わなかったとは……欲のない人間だが。

 とりあえず、霊夢の助言を踏まえて……ふたりで使うことを決めたのだろう。

 使用用途についてはさすがに霊夢でもこの距離ではわからないが……久しぶりに感じる欠片の光を見て、あのふたりなら間違った使い方をしていないと確信出来た。


「……大方。未来永劫、共に居たい……か??」


 こう言う時の霊夢の勘は大抵当たる。

 煙草の煙を吐き出し、初夏のゆるく暖かい昼の風に乗っていく煙は……すぐに霞んで消えていった。

 月虹の光はやがて落ち着き……下の界隈の道々では、あやかし達が騒がしくなってきた。当然だ、月虹の光が界隈中に広がるなどそうそうにない。


「おーい、師匠? なんかすげーことになってっけど」


 休みだが、大抵霊夢と飲むことが多い蘭霊が部屋に上がってきた。

 奴も驚いたのか、いくらか息が荒い。


「心配すんな? 火坑達の方だ」
「……あいつ、なんかしたのか??」
「嬢ちゃんの方が、一年くらい前に雨女から欠片をもらったんだと」
「……ほー? じゃ、心配ねぇな?」


 最初は怖がられていた蘭霊だったが、最近は美兎に時々話しかけられるそうだ。

 いずれ……火坑と本来の意味で結ばれたら、兄代わりになるだろう。本人もまんざらでない様子だった。


「……とにかく。今年も賑やかになるだろうなあ?」


 あやかしらが集う界隈で、新たな人間の客も増える予感がする。そう言えば、のっぺらぼうの情報屋が人間を気にしている……と、噂を聞いた気がしたが。

 あやかしと人間の恋も、また増えるかもしれない。
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