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第107話 風からのわがまま

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 それから、どれほど続いていたのだろう。

 珀瑛ハクエイ様と口付けを交わし……しばらく、お互い動かないでいた。

 上空と言うこともあったが、離れたくなかった。

 擦り付け合うだけの口付けだったが、うっとりするくらい……素敵な口付け。

 いつまでもしていたかったが……いつかは終わりを迎えるもの。

 珀瑛様がゆっくりと離れ、私が目を開くと……とても、甘くて慈しみを感じるくらい……微笑んだ表情が見えた。


「……ミラ」


 そう呟くと、もう一度だけ軽く口付けてから……珀瑛様はぎゅっと、私を抱きしめてくださった。


「……はい」

「俺のもんや」

「……はい」


 私は、貴方様だけの存在。

 そう思うと、私は頬が緩むのを感じ……腕を伸ばして、珀瑛様の背に回した。出来るだけ力を込めると、珀瑛様も少しだけ力を強くしてくださった。

 そのことに、どうしようもなく……心が満たされる。

 私達は……いわゆる、『恋人』となれたのだと。


「……なあ、ミラ」


 しばらくしてから……珀瑛様は私を抱え直し、屋敷に向かってくださった。


「? はい?」

「一個、わがまま言ってもええ?」

「珀瑛様の?」

「おん」


 何だろう。

 珀瑛様からのわがまま……聞いてみたいと思った。

 いつも珀瑛様は、私を甘やかしてくださっていたのだから……私で叶えられることがあるのなら、是非とも叶えて差し上げたい。


「はい。なんなりと」

「……疑いないなあ?」

「え?」

「恋仲になったんやで? なーんも、色めいた事ないと思わんの?」


 少し言葉の意味がわからなかったが……間を置くと、その意味が理解出来た。

 大精霊として覚醒して、なかったものを補填した今だから。


「ま、ま、まさか……!?」

「あ~……最初は思ったけど。ええよ、一緒に寝るだけはダメ?」

「……寝るだけ?」

「おん。マジで寝るだけ」


 寝床を共にするだけ……というわがまま。

 それ以上の事は……珀瑛様は我慢してくださるようで。

 それなら……と、私は頷いていた。

 すると、さらにぎゅっと抱きしめられた。


「ひゃ!?」

「なら、今日から一緒やんな!」


 凄く……喜んでいただけたようだ。

 珀瑛様は、私が人間だった時も今も……必要以上に甘やかしてくださる。

 であれば、その逆を……私は叶えて差し上げたかった。

 だからとは言え……何もかもが初めての私に、いきなり口付け以上の愛情の証は……緊張以上のものになってしまうが!!

 とりあえず、風珀フウハク様にも今の私を見ていただこうと……珀瑛様がもう一度精獣化となり、私はその背に乗ったのだった。
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