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騎士のまかない⑪

第3話『煮物の虜』③

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 塩がベースだと言っていたので、ショーユの匂いはしない。

 そのせいか、ニモノの色も全体的に淡い感じだ。色味は上にかかっている、刻んだネギの青味以外はじゃがいもと肉の色が主体だ。

 塩だけでどんな味がするのか……湯気が立つそのニモノにフォークを伸ばし、まずはじゃがいもから。

 昼間に食べた、少し冷めたじゃがいもとは違い湯気がすごい。出来立てではないにしろ、きっと美味いと予想しながら……息を吹きかけてから口に運ぶ。


「ほふ!?」


 じゃがいもは想像以上に熱かった。

 しかし、嫌な熱さではない。これまでイツキの料理を食べてきたように、出来立ての嬉しい熱さだった。ほふほふ言いながら歯でじゃがいもを噛む。

 と言っても、内側まで塩と塩以外の味を感じるじゃがいもは、歯で簡単にほぐれて……ほくっとした食感が堪らない!!

 昼に食べた肉ジャガは、イツキが教えた以外は料理長や他の料理人が作ったはず。まずいわけではないが、イツキが直接手がけた料理とは違った。

 とにかく、優しいのだ。イツキのまかないは。

 俺の胃袋だけでなく、心にまで沁み渡ってくるのだ。


「……美味い!」


 そして、塩以外の……ネギは煮ていなく、生だがサラダとは違って少し辛味を感じた。だが、じゃがいもが吸った塩主体の味付けを和らげてくれるような……不思議なアクセントだった。

 さらに、昼に食べた肉ジャガと違って胡椒もあった。それもまた、舌に適度な刺激を与えてくれる。これにはリーゾ!? と口が求めたままにリーゾをかき込めば……まさしく、正解だと理解出来た。

 口の中が多少塩辛さで満たされたところに、淡い甘味と香ばしさを感じるリーゾ。これがあることで完成したと言えよう!!


「ふふ。リーゾのお代わりしますか?」


 そして、イツキに言われるまでリーゾの器を空にしていたことに気が付かなかった。


「美味いな? 君に言われなければ……ニンニクの香りはほとんどしなかった」


 そう、実際食べてわかったが。ニンニクの風味はほとんどしない。食べる前は違ったが、食べるとあまり気にならないのだ。

 イツキはリーゾのお代わりを盛り付けてから、俺に渡してくれた。


「ごま油で炒めましたし、思った以上に少量で風味づけ程度にしましたしね? だからでしょうか?」

「これも君が考えたのか??」

「いいえ? 醤油ベースの肉じゃがよりはあまり知られていませんが、故郷の料理です。アレンジレシピの数はあまり多くないですが、味付けについてもそれを参考にしました」

「……異世界は本当に、食が豊富なんだな?」

「私のいた国では、他国の文化を取り入れてアレンジしたりも多かったですし」

「なるほど……」


 その国の出身でなければ。

 異世界から、渡航して来なければ。

 イツキにもだが、数々の料理を口に出来なかっただろう。

 神の悪戯かもしれないが、イツキと出会えたことに感謝せねば。


「けど、お醤油やお酒はあるのに……ギルドではあった『お味噌』は見当たらないんですよね??」

「ミソ??」

「調味料なんです。私のいた国では、スープをメインに使うんですが……この煮物料理とかに、ものすごく合うんです!!」


 珍しく力説するイツキだった。

 それほどまでに、美味い調味料なのか??

 たしかに、あのトンジルは美味かったが……。

 このニモノに、めちゃくちゃ合う??

 どんな調味料かわからないのに、俺はそれを口にしたくなった……!!
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