【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版

櫛田こころ

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第三章 交わる記憶

081.和やかな流れが(セヴィル視点)

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 振り返れば、カナタは目端に涙をためていた。
 これにはクロノソティス神もおろおろとしていて、だがすぐにハンカチを取り出してカナタの涙を拭いてやった。

「はーい。お鼻はいいかなー?」
「うー……大丈夫」
「あー……すまない。いきなり連れて帰るなんて言えば、驚くか?」

 蒼の創世神はカナタの泣き顔を見るなり、すまなさそうに髪を掻いた。

「けど、お前のような賢い小学生が見つけてくれて感謝する。服も目立たないようにしてくれたから俺達が見つけるのもこれだけ時間がかかったんだ」
「う?」
「あの、ショウガクセイとは?」
「フィーの世界にも学園があるだろう?  幼等部より少し上の学生と思えばいい。俺の世界じゃ人族の寿命は他の世界に比べればかなり短命でな。この世代でもこれくらいの幼子は割と多い。ここまで利発で聞き分けがいいのはとんと見かけないが」

 では、俺が思ってるような年齢ではないのか。
 けれど、神から見ても稀有な存在だそうだ。未だずびずびと涙を拭いてもらっているカナタは、クロノソティス神に相変わらず宥めてもらっていた。

「ねぇ、レイ。この子達の昼餉が済んでからお別れでもいいんじゃないかな?   君の残滓はもうあちらから取り除いているし、フィーには気落ちするから報せたくないんでしょう?」
「……まあ、それはそうだが」
「あ、お兄ちゃん達にも揚げピザ作ろうか?   まだ材料あるし」
「え、いいの!」
「いいの、か?」
「うん」

 俺をすぐ帰還させないことが決まれば、カナタは二人の神の分も用意すると提案してきた。
 クロノソティス神は遠慮がないが、レイと呼ばれた蒼の創世神はきょとんと目を丸くした。まさか用意してくれるとは思ってなかったようだ。

「嫌いなものとかなーい?」
「僕は特に」
「俺もだ」
「じゃ、ゼルお兄ちゃんと同じものにするね。10分待っててー」

 泣いていたのが嘘のようにカナタは椅子から降りて厨房に行ってしまった。
 何かの戸を開け閉めする音がしたが、随分軽い感じだった。

「あー……改めて名乗るが、俺はレイアーク。蒼の世界の管理者でフィーの兄だ」

 レイアーク神はそう行って俺の隣の席に着いた。
 髪はよく見たら俺のようにしばっていて、紐から下が徐々に青くなっている不思議な色彩だった。

「あ……俺はセヴィル=ディアス=クレスタイトです」
「敬称は特にいい。フィーと同じでいいからな」
「はぁ……」

 初対面でいきなりいいのだろうか。本人がいいと言ってくれるのならば、こちらとしてはありがたいが。クロノソティス神は相変わらず笑みを浮かべていた。

「レイからは聞いてるけど、フィーのとこの神王太子の従兄弟だっけ?」
「あ、あぁ」

 レイアーク神の兄と言うことはフィルザス神の兄でもあるはずだが、クロノソティス神のことは聞いたことがない。レイアーク神くらいしか話題としては特に上がってなかったしな。

「へぇー、成人前だろうけど随分落ち着いてるね?」
「……非常時とは言え、焦ってもしょうがないと思って」
「賢明な判断だ。このマントなんか羽織ってる人族はこの世界じゃ観劇関連でもそんなに身につけない。文化と言うか文明が異常に発展してるからな」

 レイアーク神は俺のマントを見るなり頬杖をついた。
 何処と無く気疲れしているのは気のせいか?
 と不思議に思っていたらカナタの調理も終わったようで、またアゲピザの皿を二つ持ってきた。

「お待たせー!   熱々揚げたてだよ!」
「わぁ、ありがとう!」
「管理する世界の人族の食べ物とは久々だな」
「ゼルお兄ちゃん、それ温め直そうか?」
「あ、いい。このままいただく」

 そう言えば食事の途中だったな。神達が手を合わせているのを見てから俺も食べ出した。

「うん!   すっごく美味しい!」
「これはイタリアのジャンクフードだな?」
「テレビで屋台とかローマの食べ歩きコーナーとかで紹介されてたよー?」
「ローマ、か。今度忍びで行ってみるか?」
「レイ、僕も連れてって」
「兄者が行くと女が群がるだろう?」
「君も人のこと言える?」

 内容はわかりにくいが、この二人が酷く目立つのは理解できた。
 タイプこそ違え、神だからか異常な美貌の持ち主だからな。クロノソティス神の方はたしかに女受けが良さそうな親しみやすさが滲み出ている。
 それはさて置き、冷めてもアゲピザは非常に美味かった。

「「「ごちそうさま」」」
「はい。おそまつさまー」

 それから食べ切るのに夢中になり、ほぼ同時に全員食べ終えた。

奏樹かなたは料理上手だね?」
「僕大きくなったらレストランで働きたいんだー」
「この腕なら悪くない。けど、学校の成績もないと就職は大変だが」
「うん!  せんもん学校にも行くつもりだよ?」
「あと10年近くか?  いい夢だな」

 こちらの世界事情を知らないので口を挟めないが、カナタには料理人の夢があるようだ。
 しかも、その可能期間がわずか10年やそこらと言うのは本当にこちらの人族はかなり短命らしい。
 俺とてつい先日学園の高等部を卒業したばかりの身でいるのに。

「さて、食事もいただいたことだし。そろそろセヴィルには元の服に戻って帰させるか」
「え、もう?」
「ごめんね、奏樹?   セヴィルはこの世界の人間じゃないし、早く帰さないと色々影響を受けかねないんだ」
「うー……」

 また泣きそうになったカナタは必死に嗚咽を堪えていた。
 こんな幼子に急な別れを強いるのは女子供が苦手な俺でも気がひける。
 どうすればと焦るが、クロノソティス神が変わらずカナタの頭を撫でているのを見て、俺もそうすればいいのかと考えるより体が動いていた。

「カナタ、泣くな」
「ふぇ?」
「おやおや」
「ほーぅ?」

 神達が感心していても、俺はカナタを泣き止ませるのに必死だった。
 たしか、縁戚の女性が自分の子供をあやすのに抱きしめて髪を撫でれば落ち着いていたのをかすかに覚えていた。今の俺も、カナタをそうしている状態だ。

「ごく短い間だったが、カナタには世話になった。けれど、俺も自分のいたところで待ってくれている者がいるからな。クロノソティス神達に送ってもらうしかないんだ」
「……もう会えない?」
「そうだな。それは限りなく難しい」
「いやだ。お兄ちゃん行かないでー‼︎」

 ぎゅっと俺の背中に手を回して抱きついてきて、離れたくないとばかりに首を振るカナタ。
 これは予想外だ。何故俺のような無表情の輩をこんなにも慕ってくれてるのだろうか。

「奏樹、どうしてセヴィルと離れたくないの?   君みたいな賢い子供なら、お別れの意味もわからなくないはずだけど?」

 不思議に思ったらしいクロノソティス神が俺とカナタの間に入った。レイアーク神の方は困ったように腕組みをして兄の行動を見守ってるようだ。

「……だって」

 また涙が出てたようで、ごしごしと拭いながらカナタがようやく顔を上げた。
 上から覗き込めば、どことなく顔色が赤いような?
 そして、俺はその表情に見覚えがある。ここではなく神王国内の方で。
 まさか、と内心冷や汗を流していたらカナタが口を開けた。

「僕、ゼルお兄ちゃんが好きになっちゃったもん!」
「え?」
「ほーぅ?」
「か、カナタ?」

 出会って半刻も経ってないのに、惚れられた?
 だが、何故だろう。
 今までなら不快感や相手に一過性でしかないだろうと嫌悪感を抱いてきたが、カナタに対してはそのどちらもない。
 むしろ、少しばかりの高揚感を感じ、鼓動が高鳴って速くなっていく……まさか。

(俺も、カナタを?)

 一目惚れなどあり得ないと断固否定し続けてきた俺自身が、幼子に初恋を覚えたとか?
 普通なら笑い飛ばすことだろうに、俺には妙にしっくりときた。

「けど、奏樹。君達は異邦人……えーと、つまり本来なら出会うことすらなかったんだよ?」
「クロノお兄ちゃん達も?」
「まあ、そうだね。僕はレイよりも特殊な神だし、こうやって実体化して会うなんてあり得なかったもの」

 よしよしとカナタの髪を撫でて宥めてやっているが、カナタ自身はそれでも俺から離れようとはしない。
 困った。女子供は大抵一度は俺の無表情さに一歩距離を置き、されど顔立ちが良いからと言い寄る者達ばかりだったからな。
 こうやって打算なく慕ってくれるものなんてごく一部過ぎて、正直言って嬉しいと思ってしまってる。

「じゃ、僕もついてく!」
「「それはもっとダメ(だ)!」」

 カナタの幼子らしい我が儘が口に出てしまい、俺もだが神二人も頭を抱え出した。
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